道ばたの宝石たち アサガオの仲間
里山よもやま話 〜人と植物が暮らす社会〜 #6
はじめに
里山よもやま話、気がついたらツル植物の話題で、はや6回目を数えるまでになった。ツル植物は人間の里山管理と密接に結びつきながら生育している。手入れをしなければしないなりの、手入れをすればしたなりのツル植物が、森と里に現れる。森の中を棲み家にするツル植物もいるし、人里近くの農耕地が本拠のものもいる。ツル植物に注目すると、大袈裟にいえば人間の自然に対する向き合い方の一端が見えてくるのかもしれない。
さて、そんな中、今回はツル植物の「花」に注目したいと思う。そんなに大層なことではなく、今まで実用性に関する話を続けてきたので、最後は花の綺麗なツル植物を紹介していこうと思うのだ。
ツル植物の中にも星の数ほど美しいものがある。どれを取り上げたらよいのか途方にくれてしまうので、今回はヒルガオ科の植物にターゲットを絞ることにした。要するに「アサガオの仲間」のことである。これならみなさんの身近にも目にする機会が多い植物があるはずだ。
「綺麗な」という部分には多分に主観が入る余地があるので、まずは園芸植物、そして野外に自生するものの中から個人的に「美しい」と感じるものを見ていこうと思う。気を楽にして読み進めて欲しい。
アサガオ
まずは定番の園芸植物、アサガオである(写真1)。アサガオは小学校で授業の中で栽培される植物コンテストがあるとすれば、毎回No.1になるのではないかと思う。学校で育てたアサガオを夏休みに自宅に持ち帰り、観察日記を書いて9月の始業式にまた学校に持ち帰る、そんな経験をした方も多いだろう。私にもベランダで水やりをしながらつぼみの数を数えた記憶がおぼろげに残っている。おそらくだが、今の小学生も夏休みにはアサガオを育てているに違いない。文部科学省の学習指導要領に書いてあるのでは?と思う。

このアサガオ、元から日本に自生していた植物ではない。奈良時代に中国から薬用として伝わってきたとされている。しかしアサガオは古くから世界中で栽培されているため、中国のアサガオもどこか他の地域から伝わってきた可能性がある。これについては諸説有るようだが、遺伝解析の結果から中国のものは栽培されていたものが逃げ出したものであり、原産地はコロンビアなど熱帯アメリカなのではないか、という説があるらしい。もしそうだとするなら、自然に海流に乗って南アメリカ大陸から中国のあるユーラシア大陸まで種子が運ばれるなどは考えにくいので、人間が薬として運んだということになるのかもしれないが、そこにどんなドラマがあったのか、どこを経由して世界中に広がったのか、楽しい想像が広がってしまう。ちなみに薬とはいっても、アサガオの薬効は種子の下剤としての効果なので、間違っても口にしない方がよいと思う。
過去に遡ると、現代に至るまでに3回のアサガオブームがあったらしい。アサガオは古典園芸植物のひとつであり、おもに花を観賞する。江戸時代には多くの変化朝顔(へんげあさがお、と読む)が生み出されたそうだ。花色の変異は言うに及ばす、花が極端に小さいもの、花冠(花の漏斗型の部分)が細く裂けて糸状になったもの、葉が糸状や縮緬状になったものなど、奇天烈な外形のものがいっぱいである。残念ながら私は実物を見たことがないのだが、紹介しているサイトで花を見ると驚きを禁じ得ない。江戸時代の人たちの園芸アサガオに向ける情熱が感じられる。
参照サイト:アサガオホームページ http://mg.biology.kyushu-u.ac.jp/index.php
これが現代まで途切れずに栽培され続けているのは、実はすごいことなのだ。
なぜか。変化朝顔の中でも雄しべも雌しべもないような花では当然実をつけることは叶わない。と、いうことは、折角会心の出来の変化アサガオを生み出したとしても、種をとって次の世代に続けることが出来ないのだ。これがチューリップのような多年草であれば、球根で殖やせば同じ花の咲くものを大量に育てることができる。樹木であれば、挿し木で殖やす方法もあるだろう。では一年生のアサガオで目的の個体に実もできないのにどうやって? それは、ある特定の種同士から生える個体を掛け合わせたときに、一定の割合で目的の花が咲く個体が現れる、いわゆるメンデル遺伝の法則をうまく使っているのだ。
詳しい理屈と方法は専門のサイトや文献に譲るが、こういった方法で系統を保存するには、数多くの株が必要なはずだ。栽培スペースだけでも相当ではないかと思われる。種子の寿命が数年であることを考えると、長期間種を保存することも難しいだろう。美しい花を後世に伝えようと思ったら、途切れずに毎年花を咲かせて種をとり、それを播いて花を咲かせ…を繰り返し続けなければならない。相当な労力だろう。
これだけの園芸文化が花開くことができたのは、当時の日本が長期間安定して平和だったからに違いない。昨今の世界情勢を考えると、誠にありがたい事だと思う。
ところで、アサガオと言えば種を播いて大事に育てるイメージだが、条件が合えば野生化する。いわば「野良アサガオ」だ。通勤途中の道ばたの藪に、毎年誰が種を播いている訳でもないのに(実は私の見てないところで鳩に餌をやるごとく種を播いている輩がいるのかもしれないが)毎年8月の終わりからアサガオが花を咲かせる場所がある(写真2)。

クズに混じって咲くアサガオの花はなかなか健気である。よくよく地面を見ると、種から発芽した芽生えが顔を出している(写真3)。

ちゃんと次世代が育っているのだ。初めて見たのが2009年で、最後に見たのは2020年だから、かれこれ12年以上も続いていたことになる。通勤経路が変わったので最近はチェックしていないのだが、ひょっとするとまだ咲き続けているのかも知れない。
アサガオの野生型の花色は鮮やかな青である。同じアサガオの花でも、野外に自生しているものを見ると美しさが3割はアップしているように感じられる。周りが地味な植物ばかりだからかもしれないが。
アサガオの仲間たち
実は身近にもアサガオに近縁な植物が結構暮らしている。そのほとんどは帰化植物の雑草だが、花を見ると美しいものも少なくない。いくつか紹介しよう。
マルバアサガオ
まずは、アサガオによく似たマルバアサガオから。マルバアサガオは、その名の通り葉が丸いアサガオである。花はアサガオそっくりで、アサガオと同じく多くの花色の園芸品種が存在する(写真4)。

花の大きさも概ねアサガオと同じくらいだ。熱帯アメリカ原産の植物で、日本には18世紀に渡来して観賞用に栽培されてきた。野生化しているのは栽培品が野外に逸出したものだろう(写真5)。

ちなみに野生化したものであっても、道ばたで見かけるとアサガオ同様ハッとするほど美しい(写真6)。

マルバアメリカアサガオ
マルバアメリカアサガオも、岐阜県では畑や道ばたで野生化したものをしばしば見かける。こちらも丸い葉っぱとアサガオによく似た花なので、ぱっと見では先ほど紹介したマルバアサガオとどう違うのか分かりにくい(写真7)。しかしよく見てみると、何だか葉っぱと花の大きさの比率が変である。こちらの方が葉っぱに比べて花がかなり小さい。

そこでマルバアサガオの写真に縮尺を合わせてマルバアメリカアサガオの花を合成してみた(写真8)。実際にはこのくらい花の大きさが違うので、現地ではあまり見分けに困ることはないが、写真で判断するときには若干注意を要する。

こちらもマルバアサガオ同様に熱帯アメリカ原産だが、江戸時代の末期に観賞用として持ち込まれ、第二次世界大戦後に帰化したらしい。畑の雑草だが、散歩していると群生地に出会うことがある。早朝まだ薄暗いうちに見るとこれがまた美しい(写真9)。まぁ雑草なので防除対象なのであるが。

マメアサガオとホシアサガオ
マメアサガオとホシアサガオも畑の縁や河川堤防の土手にあるような藪にからんでいる雑草である。
ホシアサガオは、正面から花を見ると、中心部に色の濃い部分が見えるピンクの花を咲かせるヒルガオ科のツル植物である(写真10)。

花はマルバアメリカアサガオと比べてもさらに小さい。花を正面から見ると、確かに星が点在するように見えなくもない。可愛い感じのお花である。原産は今までに紹介してきた植物と同じ熱帯アメリカで、マルバアメリカアサガオと同様、第二次世界大戦後に帰化したものらしい。
マメアサガオは純白の花冠(花弁がひとつながりになったものをこう呼ぶ)が清楚な印象を見る者に印象づけるツル植物だ(写真11)。

花は名前の通り小さく、ホシアサガオと同様の大きさである。葉の形には変異があり、丸くてハート型っぽいもの(写真12)や、アサガオのように切れ込みが入ったもの(写真13)まで色々である。こちらは北米原産で、帰化が確認されたのは1955年、やはり戦後のことである。


この2種は出現する環境が似ていて、ときにお互いが絡み合って群落を作っている。花が小さいので園芸植物にはならなかったのかもしれないが、どちらも花自体はかわいらしく、家に持ち帰って花瓶に挿してみても映えるのではないだろうか。
マルバルコウ
マルバルコウと初めて出会ったのは、1994年の3月のことだから、今から32年も前のことになる。京都府の木津町の里山で、畑の柵に絡んでいた。写真は残っていないのだが、オレンジ色の鮮やかな花は今でも記憶に残っている。いかにも日本の植物ではない感じだなー、と思ったが、当時はあまり見かけない花で、その名を知ったのは随分後になってのことだった。熱帯アメリカ原産で日本には1850年に観賞用として伝来したそうだが、野外に逸出し、今では温暖な地域で普通にみられる耕地雑草となっている。職場のある美濃市でも、柿畑の近くなどに蔓延っている(写真14)。

しかし小さいながらに艶やかな色の花は緑色の海の中でしっかりと自己主張しており、近づいてみると鑑賞に堪える美しさであることがわかる(写真15)。ちなみに花の後ろにハナグモが隠れているのだが、おわかりになるだろうか。

田んぼの縁に除草剤が撒かれた跡に、マルバルコウの芽生えを見つけた(写真16)。

双葉が残っているところをみると、芽生えてからそれほど時間は経っていないようだ。周りを見渡すと、7月だというのに周囲の草は茶色く枯れたようになっている(写真17)。

除草剤を播かれたのだ。ところがマルバルコウの芽生えはひしめくように生えている。これは除草剤耐性があるか、地上のライバル達が除草剤でいなくなってから芽を出したかのどちらかだろう。別の場所では野焼きした後に芽生えているのを見たことがあるので、後者が正しいのかもしれない。人の営みがマルバルコウが増えている要因のひとつかもしれない、と思った。
ルコウソウ
ルコウソウは明らかに園芸植物であるとわかる派手なツル植物である。深紅の花色は言うに及ばず、細かく櫛の刃状に切れ込んだ葉は見る者の目を奪う(写真18)。

花壇の中に生えているなら普通かもしれないが、この花が道ばたに生えているのに出会ったら間違いなくドキッとするだろう。この植物には白花品もあり(写真19)、普通にみられる赤花品を知ったうえで見ると、また味わい深い。ルコウソウを漢字で書くと「縷紅草」となる。これでは漢字が難しすぎて意味が伝わりにくい。これは、細く糸状に裂けた葉を、細いものを表す漢字「縷(ル)」で、深紅の花色を「紅」で表現し、合わせて「縷紅草」としたのが名前の由来だそうだ。ちなみにこの植物も江戸時代に熱帯アメリカから渡来した園芸植物で、マルバルコウ・ホシアサガオ・マメアサガオに比べると弱々しく、野外で自生するものを見る機会は少ない。

ヒルガオとコヒルガオ
これまで紹介した雑草たちはみな夏の終わりから秋にかけて開花する。そしてマメアサガオを除き、熱帯アメリカ原産の植物だった。それでは日本にはこれらヒルガオ科の植物はいないのだろうか。実は日本にはヒルガオをはじめとするヒルガオ属の植物が4種暮らしている。そのうち、ヒルガオとコヒルガオは、道ばたや畑の雑草として身近に見る機会の多い植物だ。
この話を書くにあたってひとつ気をつけておかなければいけないことがある。ヒルガオとコヒルガオは見分けが難しい。典型的な個体では区別がつくのだが、どちらともつかない個体が頻繁に出てくる。これはヒルガオとコヒルガオの雑種だとされている。私の印象だと雑種の方が多いのではないかと思うくらいだ。なので、ここからは、ヒルガオ、コヒルガオのどちらかを特定して書いているのではない、と思って読み進めてもらいたい。
花はアサガオと同じ漏斗型。花色は薄いピンク。ただし、園芸植物ではないので野外で見かける個体には花色のヴァリエーションがほぼない。とはいえ、大輪の花は畑の雑草の中では群を抜いて美しいと思うのだが、いかがだろうか(写真20)。

美しいだけでなく、ツルには毛が無く、晩春から初夏にかけて軟らかいツル先を摘んで茹でると食用にもなる。同様に地下茎も食用にすることができる。きんぴらにすると意外と美味、と聞いたことがある。また、花はクセが無いので軽く湯がいてポン酢等でいただくこともできる。
ヒルガオもコヒルガオも、花が綺麗だからといってお庭に植えようとしない方がいい。あっという間に地下茎で増殖するので大変なことになる。ヒルガオの茎20cm1本を圃場に植えて育てた実験によれば、2年間で5m四方を超える範囲に地下茎が広がったらしい。1本の地下茎から広がったものは同一クローンと見なされる。
この植物は自家不和合性といって、同じクローンについた花同士で受粉しても種子ができない。野外に広がっている個体も、大きな群落丸ごと同じクローンである可能性もある。そうなると種子ができなくて困りそうなものだが、一方で、農耕によってちぎれた地下茎が人の活動で運ばれれば、そこで新しく増殖することもできる。こういった性質は、農耕地の雑草としてはかなり有利に働くと思われる。
こういったことを考えると、ヒルガオもコヒルガオも長い年月を人間と共に農耕地で暮らしてきた生きものなのかもしれない。
道ばたの雑草で花束を
アサガオに始まって、長々とヒルガオ科の植物について書いてきたが、いかがだっただろうか。今回紹介した植物たちは、私の散歩コースでみられるごく普通の雑草たちだ(流石に変化朝顔だけは例外)。これらの雑草は、農業をやっている方からすれば防除の対象なのだが、私にとっては気楽な観察対象だ(すみません!)。「これ増えるとヤバイ!」という感覚抜きでこれらの雑草たちを眺めていると、その花の造形や色の美しさにしばしば足をとめることになる。
たまにこれらの小さな花たちを摘んでミニミニ花束を作ってみる(写真21・22)。


結構これはこれでアリ、な気がしてくる。今回ご紹介した花が咲き出すまでまだ数ヶ月もあるのだが、忘れていなければぜひ手にとってミニ花束を作ってみていただきたい。ペットボトルのキャップに活けてみてもイケるかも!
今回登場した植物(すべてヒルガオ科)

著者:柳沢 直(やなぎさわ なお)
岐阜県立森林文化アカデミー教授。
京都府舞鶴市出身。京都大学理学部卒業。京都大学生態学研究センターにて、里山をフィールドに樹木の生態を研究。博士(理学)。専門は植物生態学。地質と植生の関係に興味がある。2001年より現職。風土と人々の暮らしが育んできた岐阜県の自然が大好きだが、最近は花粉症がなぜか喉にきて、シーズン中(ほぼ5ヶ月間)はゲホゲホ咳をしている。加齢とともにアレルギー反応収まってくれるのを希望。
シリーズ里山よもやま話 〜人と植物が暮らす社会〜

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