企業と森の100年
企業と森の関係は、社会や環境、人々の関心に呼応するように変化してきた。各年代で気になった企業による森づくりのトピックを上げながら、企業と森の100年の変遷を新林編集部の視点で読み解いていく。
1930〜40年代 原材料確保のための森づくり
産業発展にともない、建築資材、電柱、梱包材料、紙など、木材利用は多様で大量になっていく。これらに関わる製造業は、原材料確保のために森林を所有するが、やがて過剰な伐採と戦争の拡大によって山林荒廃が深刻化。河川氾濫などの災害も多発するようになった。こうした中、森林を所有する企業は、山林荒廃の防止と持続的な資源供給を目指して、木を植えて育てる造林事業を始めていった。
◉企業と森づくりトピック
社有林を取得し育てる企業の登場
・1937年 王子造林 設立 旧王子製紙の社有林の充実と育成を図る
・1941年 大日本麦酒(現・アサヒグループ)社有林取得 現在は「アサヒの森」として管理が続けられている
◉森と社会のできごと
1935年ごろ 戦争拡大
軍需用の木材需要が高まり、未利用の森林まで伐採し始める
1950〜60年代 戦後の復興と景気付けの植林事業
戦争による山林荒廃と戦後の住宅や紙パルプといった木材の需要拡大によって、時代は植林ムード。需要が高く成長スピードの早いスギやマツなどの造林が推し進められ、日本の山林は未来の収益を夢見て人工林に置き換わっていく。一方、好景気に沸く都市部でも植樹への関心が高まる。店舗拡大や一般大衆の顧客化が進んだ百貨店などの小売業者は、植林や植樹活動を主導し、大衆にアピールした。
◉企業と森づくりトピック
都市景観のための植林事業が始まる
・1955年 六甲山に約24万本植樹 「六甲を緑にする会」(阪急百貨店社長提案)
・1965年 オカダヤ(現・イオン)乙川に桜700本植樹 愛知・岡崎市進出を記念した植樹
◉森と社会のできごと
1960年〜 木材輸入が段階的に実施
原木を中心とした木材輸入が自由化され、国産材の供給不足を補う
1970〜80年代 経済成長の背後に森林破壊あり
国内の木材需要低迷と好景気から、森林の需要は木材生産から野外レクリエーションにシフト。ゴルフ場や別荘地、キャンプ場に開発されていく。一方、東南アジアや南米などの熱帯雨林では、総合商社をはじめとした日本企業も出資して安価な木材やアブラヤシなどを求めた大規模開発を進めた。経済成長に寄与した森林開発は世界中で災害や健康被害を引き起こし、人々の環境保護の意識は高まっていった。
◉森と社会のできごと
1970年代初頭〜 環境保護をテーマにした国際会議や法案の可決が進む
・公害関連14法案可決(1970年/日本)
・ストックホルム会議(1972年) 地球環境破壊に対する世界初の国際会議
・オゾン層保護のためのウィーン条約 採択(1985年)
・国際森林年 定める(国連/1985年)
1990年代 〇〇(企業名)の森が続々誕生!
人々の環境への関心の高まりが結実し、環境保護に取り組むことが企業評価を上げる時代に。企業名などを冠した「〇〇の森」といった企業が主体の森づくり活動が増加していく。また活動内容も、阪神淡路大震災をきっかけとしたボランティア意識向上を背景に、記念植樹といった一時体験的なものから、森林ボランティア団体との協働や専門家との研究活動なども含む継続的な取組に変容していった。
◉企業と森づくりトピック
企業名等を冠した森の誕生
1997年 トヨタの森・フォレスタヒルズ(愛知・豊田)
1999年 キリン「水源の森」(横浜)
[番外編] 1990年 トトロの森(埼玉・所沢)誕生 宮崎駿監督が呼びかけ人の一人として名を連ねた市民活動。
◉森と社会のできごと
1992年ごろ〜 環境と経済の持続可能性についての考えが広まる
・地球サミット(1992年/リオ・デ・ジャネイロ 「持続可能な開発」の理念が広まる
・FSC 発足(1993年/カナダ) 適切に管理された森林を認証する制度が設立
・COP3 京都議定書 採択(1997年/京都) 「気候変動」「温室効果ガス」という言葉が広まる
2000年代 事業も地域も持続可能な森づくり
温暖化防止や水源涵養といった「森林の多面的機能」に注目が集まり、企業のCSR活動では「森林保全」が一大テーマとなる。並行して、都道府県などは各自の特徴を活かした「企業の森づくり」サポート制度を相次いで創設した。森づくりを通した地域貢献の意味付けも加わり、企業が森づくりに参加しやすい意義や環境が整ったことで、都道府県における企業の森づくりの実施箇所数は急増した。
◉企業と森づくりトピック
・2002年 サントリー 天然水の森 誕生(熊本・阿蘇)
◉森と社会のできごと
2003年〜 各都道府県による「企業の森づくり」サポート制度が広がる
・企業の森制度(和歌山県)
・森林(もり)の里親制度(長野県)
・協働の森事業(高知県)
ほか
2010年代 企業価値を高める森林・林業貢献
SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(環境・社会・企業統治を考慮した投資方法)を背景に、気候変動対策、生物多様性保護などへのコミットが企業価値を高める時代に。2000年代から始まった国産材利用を推進する「木づかい」運動やFSC認証材による商品開発といった間接的な森林・林業貢献も盛んとなり、企業それぞれの文化や事業と関連したかたちで森林に関わる企業が増えていった。
◉企業と森づくりトピック
企業の文化とマッチした森にまつわる活動
・2010年 花王「花王国際こども環境絵画コンテスト」設立
・2013年 キヤノン「バードブランチプロジェクト」スタート
◉森と社会のできごと
2010年〜 生物多様性、気候変動に関する国際会議や法案が制定される
・COP10 名古屋議定書 採択(2010年) 生物多様性に関する条約締結
・「国際森林年」定める(国連/2011年)
・地球サミット(2012年/リオ・デ・ジャネイロ) 1992年のサミットを振り返る
・国連サミット SDGs採択(2015年)
・COP21 パリ協定 採択(2015年) 気候変動に関する条約
・気候変動適応法 公布(2018年/日本)
2020年代 森づくりの意義を改めて考える
「J-クレジット」制度や「自然共生サイト」認定など森林に関する様々な認定制度が生まれ、森づくりの目標が明確化しやすくなった一方、社会情勢は新型コロナなどで大きく揺れ動き、企業は何のために存在するのか?という存在意義(パーパス)が重視されるように。企業の「森づくり」においても、森林整備や木材利用にとどまらない各企業の課題意識が反映された多様なアウトプットが展開されている。
◉企業と森づくりトピック
企業の課題意識が反映された「森づくり」
・2021年 日建設計コンストラクション・マネジメント『新林』発刊
・2023年 山梨日日新聞社 カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」リリース
◉森と社会のできごと
2020年〜 地球環境の未来に向けた宣言と約束、認証制度が始まる
・「2050年にカーボンニュートラルを目指す」と宣言(2020年/日本)
・「J-クレジット制度」 運営(2020年) 森林管理によるCO2等の吸収量を認証
・「30 by 30」を約束(Gサミット/2021年) 2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全
(民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域「自然共生サイト」として国が認定)
2030年代 企業の森づくりはどうなっている?
2030年はSDGs(持続可能な開発目標)の達成を掲げた年。開発目標の一つである「持続可能な森林経営」の達成に向けて、多くの企業も森林活動をしていることだろう。社会情勢もトレンドの移り変わりもスピードを増していく時代に、とかく時間がかかって計画通りに進むとは限らない「森づくり」に企業が取り組むことは、長い目と広い心でものごとを捉える経営力を養う意味もあるのかもしれない…。
◉森と社会のできごと
2030年に達成している目標
・持続可能な17の開発目標の一つである「持続可能な森林経営」が達成
・6つの世界森林目標が達成
(持続可能な森林経営を通して、森林劣化を防止、気候変動に貢献/森林に依存する人の生計向上/持続的な森林経営された林産物の比率が大幅増加など)
・国土の30%以上を自然環境エリアとして保全
企業と森づくり/森と社会のできごと 100年の変遷
参考文献:
・森ナビ・ネット(https://www.morinavi.com/) 「企業による森づくりの歴史と変遷」
・林野庁 「平成25年度森林・林業白書」「令和元年度 森林・林業白書」
・『森林づくり活動の評価手法-企業等の森林づくりに向けて』(宮林茂幸 編著/一般社団法人 全国林業改良普及協会 発行)
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