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新林

自然の力にまかせる「すこやかな」森づくり/ 養命酒 養生の森 伊藤伸二さん、福冨 岳さん、片桐雅博さん

アカマツ林を落葉広葉樹の森へ

養命酒製造 駒ヶ根工場

森に囲まれた〈養命酒 駒ヶ根工場〉

養命酒 駒ヶ根工場(提供:養命酒製造株式会社)
養命酒ミュージアム駒ヶ根

針葉樹が鬱蒼と茂る「暗い森」

整備前の森(2008年撮影 提供:養命酒製造株式会社)

天然更新でアカマツ林を落葉広葉樹林へ

整備後の森(2025年撮影 提供:養命酒製造株式会社)

伊藤さん「駒ヶ根工場の工場林は、植林をしなくても、土壌に眠る種、落ちてくる種、切り株からの萌芽、すでに育っている若い木だけで天然更新できる『ポテンシャルが高い森』です。そのため、アカマツを段階的に伐採すれば、落葉広葉樹の森になりそうだという見通しが立ちました。また、林床の植物をうまく管理することで、植物相※2が豊かで質の高い森づくりができるだろうと予想しました。そこで、針葉樹の暗い森から、季節感のある落葉広葉樹の森に転換することを提案し『森林の健全化』というテーマで森林整備計画を立てました」

片桐さん「当初は『本当に大丈夫なのか』という声もありましたが、我々もアカマツ林の密度が高すぎるということは認識していました。ただ、伊藤さんのようなプレゼンができず認めてもらえなかったです。樹木医の伊藤さんが精度の高い森林整備計画を提出してくれたことで、上司も承認しやすかったのだと思います」

森に光を入れる

樹木医の伊藤伸二さん
フォレストリングの中から見える明るく魅力的な森林景観

福冨さん「1回目と2回目の間伐は、まだ私がここでお世話になる前でしたが、2回目の間伐後に見学で訪れた際は、一気に340本も伐採したので、本当にびっくりしました」

片桐さん「2回目は1回目の間伐から5年後でしたね。工場も伐った直後は大丈夫か?やりすぎじゃないのか?と心配する声が出ましたね(笑)」

伊藤さん「冬に伐るので、広葉樹も葉っぱがない時期だったということもあり、衝撃的だったみたいですね。ただ春になれば、広葉樹も若葉が芽吹き、林床からも実生から芽が一気に出てきたので、もう大丈夫という空気感に変わりました」

次の森を形成する稚樹をいかに保残できるか

林床を埋め尽くすさまざまな稚樹

伊藤さん「この森に生育する樹種は事前に調査していましたので、調べた150種の中から何を残して何を刈るかを決めてリストにしました。実際に刈払いをする時には、階層構造と樹種の多様性をイメージして、樹種を判別しながら刈り込んでいます。残すべき樹木としては、春には芽吹きがあり、山桜が咲いて、夏は緑陰、秋は紅葉。その合間にツツジやアジサイが咲くという森が、お客様がイメージしやすく、散策を楽しめる樹種です。あるいは、シラカンバのように成長が早く、次の森を作ってくれるものです。そうなると、カンバの仲間やナラやサクラ、カエデなど、分かりやすくて成長が早いものを主に選ぶことになります。また、クロモジは養命酒を象徴する樹木ですから、抑制せずに増やしていきました」

樹木医の福冨 岳さん

福冨さん「次の森を形成する稚樹(ちじゅ)※3をいかに保残できるか、というところが『多様性が高い森』をつくるための一つのキーワードですね。ただ、稚樹を判別するのは非常に専門的な知識が必要になりますので、最初の刈り払いに関しては、伊藤さんに全てお任せしています」

伊藤さん「刈り出したものは年々成長するので、残していく植物とそれ以外の差がだんだん明瞭になり、森の姿が出来上がっていきます。そうなると私以外の人でも作業ができるようになります」

片桐さん「伊藤さんの作業は私たちには全く分かりませんよ。成長して多少分かりやすくはなりますが、誰でもできるかと言ったらちょっと難しいですね」

養命酒製造 駒ヶ根工場次長 片桐雅博さん

美しい森林景観をつくる

伊藤さん「森林整備計画は当初は20年の計画でしたが、森の遷移が順調に進み、結果的には十数年で大まかな成果は出ました。現在では、成長を見守りながら、空間的にも樹種的にも多様な姿になるような整備を進めています。私は樹種を選定して多様性を高めることはできますが、森の景観に関しては庭園植栽デザインの経験が豊富な福富さんの方が得意です。そこで2018年から福冨さんに工場林整備計画や庭園植栽の設計・管理業務に携わっていただき、福冨さんの提案で森林景観の整備を進めています」

福冨さん「例えば、あまりにも林床の草丈が長い場所は、向こう側が見えなくてお客様が不安な気持ちになってしまいます。そこで、視線が遮られずに奥へ抜ける開放感を意識してあえて低めに刈っています。また、高木から低木まで階層構造をうまく残したエリアも作っています。すべて同じ管理ではなく、その場所ごとに合わせて管理のあり方を変えることで、人の手が入っている森でありながら、さまざまな樹齢で背丈も異なる林層がどんどん変わってくるような、空間づくりを考えています」

秋には紅葉のフォトスポットになるカエデ並木

伊藤さん「〈森のライブラリー〉へ続く道には、母樹から落ちたオオモミジの種が一斉に芽吹きました。そこで、隙間に地域自生種のカエデ類を補植し、カエデ並木が続くようにしています」

福冨さん「ありのままの森は、自然科学的には正しいですが、ここは人がたくさん訪れる森なので、観光客や近隣の方々が散策しながら素敵だなと思ってくださる森の姿があっても良いと思います。草木が生い茂り不安や怖さを感じてしまうエリアは、透いて見通しを調節しています。また反対に神社のエリアは、あえて暗い森をつくり、深く落ち着いた雰囲気を残しています。いろいろなレイヤーが重なって、見る人の視点場から森が美しいと思ってもらえるような風景づくりを心がけています」

落ち着いた森に佇む養命神社

「健全な森」とは

伊藤さん「最初の間伐で出てきた落葉広葉樹は、もう20年近く経っています。全体的に樹高が上がってきていますので、いずれまたどこかを間伐して、次の段階を考えなければいけません」

福冨さん「天然更新には段階があり、こちらの現場の伐採初期は、シラカンバが出てきて森を形成していきました。その過程で次の樹種が育ち、それらが成長すると、今度はシラカンバが負けて消えていきます。いわゆる都市公園や日本庭園のような場所では、遷移を止めて変わらない姿を維持し続けることが求められます。しかし森はもっとダイナミックで、変化することが当たり前なのです。森は動きを止めてしまうと逆に不安定になり、松枯れやナラ枯れが発生しやすくなります。『安定した遷移』を維持していくためには、恐れず人の手を入れて、適度に撹乱(間伐や下草刈りなど)しながら森に変化を与えていく必要があります」


執筆者
神尾 知里
兵庫県出身。浜松市在住。新林編集部ライターとして2020年より活動を開始。全国の林業地や森林文化、企業の森などを取材する。

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