天竜の森で木を運び出してみる
木こり活動レポート #2
第1回の木こり体験から4ヶ月。私たちは再び木こりの前田さんに会いに、静岡県浜松市天竜区のKicoroの森にやって来ました。
自分たちで伐ったスギの木を、先人に倣って人力で運び、挽いて板にする。今回の木こり体験には、遠い存在の「森林」を、自分たちの暮らしの中へ引き寄せるような、不思議な感動と新しい発見がありました。
2021年3月26日。この日の天竜はお天気に恵まれ、霞みがかった空の下で春を告げるミツマタの花が咲いていた。木こり隊は、前回参加した5名に新しく6名が加わり、全部で11名。今回の作業は、丸太の搬出、製材体験、さらに薪割り体験と、かなりハードな一日になりそうだ。
先人に倣って
古来より、森での集材作業は人力が基本。高性能林業機械が導入された現代においても、丸太を担いだり転がしたりする作業が必要なケースがあるという。
この日は、木こりの基本に倣って、機械を使わず人力で木を運び出す体験をした。
森の中腹へ移動した木こり隊の前には、長さ4mほどの丸太が横たわり、その脇には木こりの前田さんが運んだロープや幅広のスリングベルト、木を引っ掛けるトビが並んだ。
「今日は、体力はもちろん頭脳も使って運んでみましょう。道具の選び方や使い方、丸太の向き。何が正解かは勿論教えません。皆さんで考えてやってみてください」前田さんのレクチャーは最小限で終了。木こり隊は3チームに分かれ、自由に搬出方法を考えることになった。
「おー!このロープ一本あるだけで全然違う」皆それぞれ、道具の使い心地を確かめながら、どんな風に運び出すのか相談を始めた。
スギと葉枯らし
同じ長さの丸太でも、木の重さに違いがある。単純に木の太さだけではなく、倒してからどれくらい経っているかが大事になってくるそうだ。
「スギの木は含水率が高いから、伐ったあとは水分が抜けるまで数ヶ月放置します。前回伐ったこのスギは、まだ水分が残っているので枝の葉が青いままですね。葉が枯れてきたら水が抜けた合図。これを“葉枯らし”といって、昔の人はできるだけ木を軽くしてから運んでいました。ヒノキはスギほど含水率が高くないので、乾燥する前ならヒノキの方が軽く、乾燥が進めばスギの方が軽くなります」
急傾斜地での困難な搬出作業
Kicoroの森は、急傾斜地に木が生えているので、伐倒作業も搬出作業も、足元の悪い危険な場所で行うことになる。作業道から比較的近い場所の丸太は順調に運び始めたものの、作業道から外れた場所の丸太を運ぶ場合は、予想通り難航した。「全然力が入らない」「前の人が木と一緒に落ちそう」「前後で引っ張るより、前だけ引っ張った方がいいんじゃない?」「それじゃ犬の散歩みたいだよ」
ロープで持ち上げる、肩に担ぐ、ロープで引きずる、色々な方法を試しながら、搬出作業を終了した。
木を挽いてみる
午後はいよいよ製材作業。今回はその場で作業ができるよう、チェーンソーに製材用のアタッチメントを取り付けた簡易製材機を使うことになった。
作業する人は、軍手とヘルメット、防音用のイヤーマフ、腰から下に作業用防護服を装着してから木を挽いていく。ハンドルを握りガイドに沿って前に進むと、大きな音と共に木の粉が舞い上がった。作業を交代しながらゆっくりと前に進み、30分以上かけてやっと一枚の板を挽くことができた。
順番を待つ人たちは、薪割りに挑戦。腰を落として斧を振ると、カコーン!と小気味良い音が森に響く。割れた時の爽快感に、予想外の盛り上がりを見せた。
丸太から板材へ
全ての作業が終わると、前田さんが箱の蓋を開けるように、木の断面を見せてくれた。伐ったばかりの断面は、まだしっとりとして桃褐色のグラデーションが美しい。
「すべすべして気持ちいい。いい匂いがしますね」「持って帰りたい!」「急に愛着が湧いてきた」
木こり隊は、生まれたての赤ちゃんを見るように、一枚の板に集まって表面を触り始めた。森から運んだ丸太が板になる、ただそれだけの変化に驚き、心が動かされることを知った。それが今日一番の収穫となった。
[今回の先生]前田 剛志 木こり/ Kicoro代表
2003年、天竜に移住。林業に従事するかたわら、木の伐採からものづくりまでを体験する「FUJIMOCK FES」や、学校での出前授業など、県内外を問わず森のことを伝えるためのさまざまな活動を展開している。
感じたこと、その先へ
木こり活動に参加したNCM社員によるリレーコラム
今年は、日建設計が参画した有明体操競技場での2,600㎥を皮切りに、選手村ビレッジプラザ等の様々な会場で多くの木材が使用されます。折しもこのタイミングで「木こり活動」に参加しました。
今回は林から木を運び出す。口で言うのは簡単でも、整備された舗装路もなく、運搬のための重機も入らない林から、人力で木を運び出すことの難しさを感じました。また在宅勤務でなまった体を鼓舞する爽快さがあり、身をもって体験する意義を感じることができました。
設計者であった頃、在来工法の公民館を設計したことがあり、材としての木には触れていたつもりでしたが、今回そこに至るまでのプロセスの一部に参加できたことで、木がより身近なものになった感覚を覚えました。
木材として世に出るまではまだまだ多くの工程が必要です。引き続きこの活動を通じ、木材の適切な活用と森林文化を耕す一助になれればと思います。
マネジメント・コンサルティング部門
ディレクター 安岡 威