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新林

天竜の森で木を伐ってみる

木こり活動レポート #1

山へ続く坂道を登る人たち

静岡県浜松市の北部に位置する天竜区は、面積の約9割が森林で覆われ、そのうち8割を人工林が占める一大林業地です。日本三大人工美林のひとつ「天竜美林」として、500年の歴史を持っています。
今回は、ここ天竜の森で林業に従事しながら、新しい森づくりに取り組む前田剛志さんを訪ね、樹齢60年の杉の木を伐りに行きました。


Kicoroの森へ

シダ植物

2020年11月6日、若手社員を中心に集まった13名の参加者は、天竜で木こりを営む前田さんの活動拠点〈Kicoroの森〉へ向かった。

ここは、杉とヒノキの人工林でありながら、ケヤキやクスノキ、カシノキなどの広葉樹が共生する森。かつて放置され真っ暗だった人工林に、前田さんが5年の年月をかけて手を入れてきた。現在では地面にはコンテリクラマゴケという可愛らしいシダ植物が生い茂り、健康的な明るい森へと姿を変えている。

上へ登るにつれて険しくなる斜面に苦戦しながら、樹齢60年ほどの杉の根本に到着。この日は木こりが普段使うチェーンソーではなく、ノコギリを使って伐るそうだ。

伐倒方向を決める

立木にノコギリの刃を当て、伐る角度を教える木こりの前田さんと教わる木こり隊の若手社員

木を伐るにはまず、木を倒す方向を決めなければならない。

一番簡単に倒すには、木の重心方向、つまり山の斜面であれば下に向かって木を倒せばいい。ただし、この方法では木を伐るうちに倒れてくる危険性があり、倒れた木のダメージも大きくなってしまう。今回は人手もあることから、安全性と木へのダメージを考慮し、ロープを使って登り方向に伐倒することになった。

受け口と追い口を作る

立木を切り倒す仕組みを図解したイラスト

障害物や避難経路を確認しながら方向を定めたら、いよいよ木を伐りはじめる。まずは、ノコギリで真横と斜め上の2方向から切り込みを入れて受け口を作る。このの向きで、伐倒方向の8割が決まってしまうという。

次に、受け口の反対側から水平に切り進み、追い口を作る。蝶番の役割を果たす「つる」の残し方で、伐倒方向の最終調整をするため、何度も確認しながら慎重に進めていく。

木を引き倒す

スギ林の中で木が切り倒されていっている

ノコギリの出番を待つ間は、ロープを木のできるだけ高い位置にかける練習をすることになった。「力は入れないで、木に波を送るようにやってみて」という前田さんのアドバイスで、次々と上達する人が現れる。ノコギリもロープも力じゃないコツがあるようだ。

引き倒すチームが斜面を上がり、追い口にくさびを打ち込むと、「せーの!」というかけ声と共にロープを引っ張りはじめる。「倒れたらロープを離して!」前田さんがさらにチェーンソーで切り込みを入れ、全員でロープを引っ張ると、バリッバリッと木が傾き、ザザーッと葉を鳴らしながらゆっくりと倒れていった。受け口を切りはじめてから約1時間。ようやく1本の木を伐ることができた。

木の重さ、木のいのち

切り倒したばかりの切り株に触れる手

「けっこう濡れているんですね」切ったばかりの杉の断面を触ると、ジワッと水が滲み出ている。記念に切り出してもらった1mの丸太も、重くてなかなか持ち上がらない。

「この丸太でだいたい60キロ。そのうちは根から吸い上げた水分なんだ」

間伐で打ち捨てられる木の命を生かし、新しい森づくりをしたいと話す前田さん。切り出した丸太と一緒に、宿題を渡されたようだ。

木こり活動に参加したNCM社員と木こりの前田さんの集合写真
2020年11月6日 天竜Kicoroの森にて
NCM社員13名と木こりの前田剛志さんと
前田さんプロフィール写真

[今回の先生]前田 剛志 木こり/ Kicoro代表

2003年、天竜に移住。林業に従事するかたわら、木の伐採からものづくりまでを体験する「FUJIMOCK FES」や、学校での出前授業など、県内外を問わず森のことを伝えるためのさまざまな活動を展開している。

NCM座談会

はじめての木伐体験を終えて、日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社(以下、NCM)の社員参加者7名がオンラインで話しました。

田中:森の空気が気持ちよかったですよね。みんなリモートワークで外に出る機会もなかったですし、久しぶりに人と会って体を動かすことができて楽しかったです。
私が一番に伐ったので、私の切り方でその後の受け口の角度が決まってしまうと思うと、すごく緊張しました。ノコギリを入れた途端、木のいい香りがしてきてびっくりしました。

早川:建材と違って、生の木は水分が多くて柔らかい感じでしたよね。ノコギリを引いていても重いっていうか。ノコギリを触ること自体が久しぶりで単純に難しかったです。

吉本:たしかに。事前のレクチャーで切り方のイメージは掴めていたけど、実際やってみると思った通りには伐れないものですね。ノコギリは引く時によく切れるので、手前ばかり切ってしまって、伐倒方向が変わってしまって。後半の人は奥ばかり切らされて大変だったと思います。

吉岡:受け口よりも、追い口が大変でした。木の中心に向かうほど切りにくいし、倒れるんじゃないかと思うと慎重になるし。そういう意味では僕たちは相当ビビってましたよね。結局最後は前田さんが相当切ってくれてましたね。

鷺森:ロープの練習も面白かったですよね。僕は本番でみんなに見られながらロープを引っ掛ける時が緊張しました。その後、いくら引いても全然倒れなくて大変でした。

志村:倒れる時は、ぽきっといくのではなくて、繊維があるからか水分を含んでいたからか、じわじわと倒れてちぎれていく感じが伝わって来ました。

早川:倒れたあと、断面を触ってみるとけっこう手が濡れているんですよ。木もお花と同じように水分を吸って生きているんだなと感じました。

穴水:木の含水量にも驚きましたが、木の繊維の強さには、改めてすごいと思いました。直径40センチの木が自立できるわけですから。

吉岡:僕は、ホームセンターで木材をよく買うんですが、切った木の断面をみると、白太(辺材)の部分ってめっちゃ少ないんだなと思いましたね。
家の柱で使うような105㎜角の節なしの白太を育てるとなると、何年かかるんだ?って思いましたね。

田中:今まで富士山の植林に参加していたので、木は植えなきゃいけないし、植えたら勝手に育ってくれるものだと思っていました。今回参加してみて、人間が手を入れないと健康な森の姿にならないっていう事を知りました。「森をデザインする」という、前田さんのお話が印象的でしたね。

早川:これから森を手入れすることの大切さを伝えて、森を生かすことができればいいなと思います。

感じたこと、その先へ
木こり活動に参加したNCM社員によるリレーコラム

私は若手社員の一人として「木こり活動」に参加しました。のこぎりすら手にしたことがありませんでしたが、身近にある木工品がどのような工程を経て、作られているのか体験してみたい、初めはそんな小さな感心からの参加でした。

木を伐ること自体は、映画を通してなんとなく知っていました。今回改めて、知っていることと、実際に体験することには、大きな差があることを感じました。リアリティのある経験を通して、一つ一つの課題に真摯に向き合うことができるようになると感じております。

放置される人工林には理由があります。この小さな取り組みは、直接的に人工林の抱える多様な課題を解決することはできずとも、小さな取り組みが繋がり、ひとつの企業の枠を超えた運動体としていければ、少しだけ未来を変えられるかもしれないと信じています。私たちと一緒に、実際に、木を伐る経験をしてみませんか?

マネジメント・コンサルティング部門
田中翔子

執筆者
神尾 知里
兵庫県出身。浜松市在住。浜松市内を中心にライターとして活動しています。

天竜の森で木を伐ってみる 掲載号

新林 第1号の表紙

新林 第1号
特集 天竜の森で木を伐ってみる

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