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新林

新林連載者がすすめる森にまつわる本

森のほんだな #1

新林連載者のみなさんは、どんな本を読んでいる?
森を題材にした本、日々の活動とリンクして森を感じた本、それぞれの視点の“森にまつわる”本をご紹介いただきました。


山川愛さんおすすめ

聞くこと、話すこと。~人が本当のことを口にするとき
著者=尹雄大(ゆん・うんで) 大和書房/2023年

山の荒れ果てた農地を草刈りしていると、わざわざ車を停めてお爺が話かけてくる。「後10年もすれば、この集落は誰もおらんくなるわ」。揶揄とも諦めとも言えるような台詞を、住人たちから聞くことは少なくない。熊手で雑草をかき集めながら、私はふと考えてしまう。この言葉には何が込められているのだろう、ただの捨て台詞に過ぎないのか。相続した草地を手入れする私に、それを放つのは何故だろうか。
“人の話す言葉は、その人が自覚できないけれど、当人に必要な物語を引き連れていて、そこに侮悟や憎しみ、怒り、悲しみが滲んでいる”という尹さんの一節を読み、合点がいった。都会から稀に来る者へ吐露する言葉には、憂いとためらいが含まれている。私はまだ、山の爺たちの「本当」に触れられていない。胸襟を開くとは、コミュニケーションの問題ではなく、信頼と関係性の妙なのだ。
本書は、自身の立ち位置を洗い直してくれる。つい最近、「草刈りをやるなんて、口先だけだと思っていた」とお爺の口から言葉が漏れた時、私はやっと山の序章に立てたのかもしれないと思った。他人と私は違う。しかし、わかりあえなさから始まる「本当のこと」に、耳を澄ましていきたい。

書籍公式サイト
https://www.daiwashobo.co.jp/book/b10030448.html

[選者プロフィール]
山川 愛(やまかわ あい
愛知県在住。公益財団法人かすがい市⺠文化財団プロデューサー。金沢美術工芸大学工業デザイン科を卒業後、アートマネジメントの領域で活動。同財団に入職後は、展覧会や演劇公演の企画・広報、昨今は自分史を始めとした市民との協業事業を担当。2021年から亡き祖父の山に入り、山主として自分に何ができるかを模索している。

連載:「山って……何なん?」と何度もつぶやくところから始まった、山主候補生の活動日記


柳沢直さんおすすめ

炭焼き日記 吉野熊野の山から(宇江敏勝の本 2)
著者=宇江敏勝 新宿書房/1988年、1996年(新版)

著者は林業労働者でありながら作家で文筆活動をしてこられた特異な経歴の持ち主である。その文章を読むと、森の中で感じられるすべてのことが色彩を伴ってしっとりと脳内に甦ってくる。きっと林業労働者か文筆家、どちらか一方ではこうはいかないのではないだろうか。文を追うごとに自然の美しさとともに、自らの身体を使って山で働く喜びが、ひしひしと伝わってくる。山の中での林業労働は昔も今も過酷である。労働量は多い上に、現代では昔と違って賃金も高くはない。残念ながら労働災害も多発する業界だ。それでもなぜ山で働くのか。この本の中にはその答えが詰まっているような気がする。

著者が山で働いてきた時代は戦後の燃料革命前から戦後日本の拡大造林期に重なる。それは燃料革命によって炭焼きを生業としていた人たちが仕事を失い、代わりに始まった拡大造林の中で、生活の糧であった広葉樹林を伐採して自らの手で杉や檜を植えていった、そんな時代を意味する。著者はそういった日本の森林の大きな変革期の生き証人でもある。いま我々に受け継がれた森林をこれからどうしていくのか、考えさせられる一冊である。

書籍公式サイト
http://www.shinjuku-shobo.co.jp/2016-SHOSEKI-LIST-TOP.html

[選者プロフィール]
柳沢 直(やなぎさわ なお)
岐阜県立森林文化アカデミー教授。京都府出身。京都大学理学部卒業。博士(理学)。専門は植物生態学。地質と植生の関係に興味がある。京都大学生態学研究センターにて、里山をフィールドに樹木の生態を研究。1990年代に里山の調査に参加する中で里山の自然に触れ、その価値を知る。2001年より現職。風土と人々の暮らしが育んできた岐阜県の自然が大好きだが、お隣の長野県ほどメジャーでないのがちょっと悔しい。

連載:森の舞台の役者たち〜植物の暮らし拝見〜


ちぐさ研究室・川上えりかさんおすすめ

『こそあどの森の物語』シリーズ⑦ だれかののぞむもの
著者=岡田淳 理論社/2005年

人間ともちょっと違う、個性豊かな住人(?)たちが暮らす「こそあどの森」で起きる、フシギな出来事や冒険を描く児童書である。シリーズ全作大好きだが、中でもイチオシは初めて読んだ7作目の「だれかののぞむもの」。目の前の人の心を読み、その望み通りのものに姿を自在に変える「フ―」という不思議な生きものが、こそあどの森にやってくる。私は友達や家族の希望や理想に合わせた行動をとる、まさに「フー」のような子どもだったため、「フー」の行く末にドキドキしながら読んだ記憶がある。この奥深いファンタジー設定も素敵だが、登場人物たちの家や暮らしの描写が全作通じて最高である。「ガラスびんの家」「巻貝の家」などの個性豊かな家の見取り図や細かい設定が挿絵を中心に描かれていて、「こんな家住みたい!」とわくわくしながらページをめくった。大人でも、DIY欲がくすぐられること間違いなしだ。他にも、森にキノコや植物を採取しに行ったり、小川で読書をしたり、、、といった森の中での生活描写が読んでいてとても心地よい。実は私は山や植物にも無関心、運動全般大嫌いな小学生で、漫画や本ばかり読んでいた。そんな超インドア小学生だった私が、初めて「森も面白いかも」という気持ちになった、思い出深い1冊だ。

書籍公式サイト
https://www.rironsha.com/book/00617

ちぐさ研究室・清水美波さんおすすめ①

死ぬまで生きる日記
著者=土門蘭 生きのびるブックス株式会社/2023年4月

ちぐさ研究室を一緒に運営している川上から教えてもらった本である。本書は、カウンセラーとの対話を通して著者の「死にたい」という気持ちを捉え直していく過程を追ったもので、一見どころか最後まで内容に森林は関係しない。しかし、著者が数十年感じてきた「死にたい」という気持ちを、「自分が感じる疎外感や寂しさは、自分が(比喩としての)異星人だから生じるものであり、自分が息をしやすい星に帰りたい」という言葉に置き換える場面で、私は私の精神世界がみずみずしくも濃い緑の木々に囲まれた森のようなものであるように思った。

私はただ歩いて森に行けるような環境で暮らせることだけを頼りに西粟倉村に移住してきた(実際、森というだけならもっとたくさんの選択肢があることは確かだが)。森にいるとき、生きものにふれているときは、自分を「調整している」感覚が薄れる。あくまで著者にとって「星」は精神世界のメタファーだが、自分にとっての「森林、生きもの」は、現実世界においても自由にいていい場所として私をつなぎとめてくれる。

本の後半で著者は、文章を書くことが自身の星を作る手段であることを見出すと同時に、死にたいという気持ちの受け止め方を少しずつ習得していく。私の森を育てる手段は何だろう。今は、それをたくさん調査している。

書籍公式サイト
https://www.ikinobirubooks.co.jp/nikki/

ちぐさ研究室・清水美波さんおすすめ②

沈黙の勇者たち―ユダヤ人を救ったドイツ市民の戦い―
著者=岡典子 新潮社/2023年

第二次世界大戦のなか、収容所送りを逃れて潜伏したユダヤ人と救援活動を行ったドイツ市民の知られざる共闘を描いた一冊。どんな行動も文字通り命懸けだった当時の状況を記した本書に重ね合わせることにためらわれる部分はあるが、私は当時の優れたものは残す価値があるという考え方は、今の「生物保護」に通じるものがあると感じている。

ある生きものが社会的に「保護しなければならない」とされるとき、その生きものは分かりやすく希少であったり、見た目に美しかったり、地域のシンボルであることが多く、そうではないほとんどの生きものは日々静かに絶滅し続けている。声をあげ動いている人はいるが、どうしたって自分事にはなりにくい。彼らが絶滅しても、自分の生活に何の支障もないのだ。

この人間社会の中で暮らしていれば、どうしたって見えない迫害に加担しているといえる。近くの加害対象には目をつむり、遠くのかわいそうなものには心を痛めるのが人の性だとは思うが、果たして、その無関心の対象が私たち自身になることは本当にないだろうか。

本書では、救おうと行動した人が報われなかった事例も多く紹介されている。行動を起こさない・起こせないことが悪いことだとは思わない。しかし何も出来なくても、隣人への加害に目をそむけず自覚することは、歴史から学ぶことの第一歩であると考えている。

書籍公式サイト
https://www.shinchosha.co.jp/book/603899/

[選者プロフィール]
ちぐさ研究室
2021年に西粟倉村の地域おこし協力隊の2人が結成した任意団体。西粟倉を拠点に、植物や森林に親しむワークショップや展示などの企画のほか、独自に調査活動などを行っている。

連載:ちぐさ研究室の研究日誌

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