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新林

日本伐木チャンピオンシップin鳥取に行ってみた

2025年10月19日、伐木技術の「安全性・正確さ・スピード」を競い、日本一を決める「日本伐木チャンピオンシップin鳥取」の決勝戦が、鳥取県の鳥取砂丘オアシス広場で開催された。伐木(ばつぼく)とは文字通り「木を伐る」こと。山の担い手不足と言われる中、競技人口が年々増加し注目を集める伐木の競技大会とはどのようなものなのだろうか?大会開催の意味と競技の魅力、参加選手たちの卓越した技の世界を、チェンソー経験がほぼゼロの「見る専」目線で振り返りかえってみた。

日本伐木チャンピオンシップとは

日本海と松林をバックに開催された「日本伐木チャンピオンシップin鳥取」

日本伐木チャンピオンシップ(以下、JLC)は、林業の安全作業技術の向上と、人材確保・育成などを目的に、日本で2014年にスタートしたチェンソーの競技大会だ。鳥取県での公式大会は初となる。競技大会には5つの競技種目があり、世界伐木チャンピオンシップ(以下、WLC)のルール規則に準じて伐倒、ソーチェン着脱、丸太合わせ輪切り、接地丸太輪切り、枝払いの総合得点で優勝を競う。プロフェッショナルクラス(25歳以上)の上位3名、ジュニアクラス(24歳以下)1名、レディースクラス1名が日本代表選手として、来年3月にスロベニアで開催されるWLCに出場できる。このWLCは1970年にスタートし、欧州を中心に約30カ国が参加する歴史ある大会だという。

そもそもなぜこのような大会が日本で開催されることになったのか。大会の歴史や目的について、JLC事務局としてJLC実行委員会を組織する全国森林組合連合会の菊地英晃さんに伺った。

全国森林組合連合会の菊地英晃さん

JLCと「緑の雇用」制度

菊地さん「日本における林業の労働災害率は、全産業の平均値の約10倍と非常に高い状況が続いています。また、林業就業者の数も1978年のピーク時の15万人から減少し、現在では4万5千人にまでその数を減らしています。そこで、これらの課題を解決しようと林野庁が2003年度から始めた事業が『緑の雇用』制度です。『緑の雇用』制度は、林業への就業した後、3年間で林業に必要な知識とスキルを身に付けてもらい、安全用品の購入費用や研修費用の一部を国が出す制度です」

菊地さん「労働災害を減らし、林業の担い手不足を解消しようと、さまざまな取り組みを進める中で注目されたのが伐木競技でした。伐倒競技の種目は、現場作業の労働安全が身に付く内容になっているので、『緑の雇用』制度と目的が合致しているのです。実際に本大会の出場者の約7割は緑の雇用制度の現役のフォレストワーカーや卒業生、指導員などです。そこで、林業技術および安全作業意識の向上に一役買えばと、2014年に第1回の大会が開催されました。当時の日本では競技自体の認知度が低く、集まった選手はたったの20人でした。現在では応募人数も大幅に増え、前回大会で決勝戦に進んだ選手と抽選で選ばれた人を合わせて80名の枠を設けて開催しています」

本大会の決勝戦に進んだ16名

菊地さん「2022年にはレディースクラスが新設され、女性選手も徐々に増えてきました。決勝に進んだ武藤唯選手は2024年の世界大会で、種目別2種目でアジア人初の銀メダル、個人総合で銅メダルを獲得しました。もう一人の水本美佳子選手は奈良県フォレスター※1として奈良県の十津川村役場で勤務する異色の経歴の持ち主。おそらく他の選手より限られた時間内でトレーニングを重ねて決勝に勝ち進んだのだと思います」

レディースクラス決勝に進んだ水本選手(左)と武藤選手(右)

菊地さん「大会用のチェンソーの重さは燃料を入れると約6 kg。世界大会では女性でも身長180cmを超えるような体格に恵まれた選手が多い中、日本の女子選手は、体格差をカバーできるだけの高い技術力で世界大会に挑んでいます。とはいえ、まだまだ女性の林業就業者は少なく、林業全体の人材不足も解消されていません。林業を目指す人をもっと増やすためにも、女性でも安心して安全に作業できる職場環境と待遇面の整備が必要だと思います」

大会の花形種目「伐倒競技」

朝9時。曇天の空の下、鮮やかなオレンジ色の防護服とヘルメットに身を包んだ選手たちが集まった。競技会場に現れたのは、20〜30代の選手たち16人。観客は子どもから大人まで幅広いが、林業関係者とそのご家族が多そうだ。素人丸出しの「見る専」は自分たちだけなのではないだろうか。ちゃんとルールを理解して観戦できるのか、一抹の不安がよぎる。午前は2つの競技会場で4つの種目が同時進行する。まずは、大会の花形競技の一つ、伐倒競技を見に行ってみた。

伐倒競技とは
立木に見立てた丸太(マストツリー)を自分で定めた赤い標柱に向けて3分以内に安全かつ正確に伐倒する競技。5種目の競技の中で最も配点が高く、競技点数は、伐倒時間、伐倒方向、受け口の深さ、角度、ツルの幅、追い口と受け口の高さの差を1mm単位で採点する。

この日一番注目を集めていた今井陽樹選手の伐倒。伐倒方向を定めるために「下げ振り糸」を使って垂直を確認する

伐倒競技に使用する丸太(マストツリー)の高さは10〜12m。枝の無い真っすぐな丸太、周りに何も無く平坦なフィールドなど、普段の山とは全く違う環境で行う、競技としての伐木作業である。さらに選手は、審判員とギャラリーの視線を一身に浴びながら競技を行わなければならない。ピリッと張り詰めた空気は見ている側も緊張するが、木が倒れる瞬間の迫力とダイナミックさは、この競技ならではの醍醐味だろう。伐倒直後、観客の安堵のため息と健闘を讃える拍手に包まれ、会場に不思議な一体感が生まれるのも「見る専」目線の推しポイントだ。

最後の「追い口」を入れる時の姿勢が一番カッコいい
赤い標柱に命中した瞬間

瞬き禁止の「ソーチェン着脱競技」

別会場では、ソーチェン着脱、丸太合わせ輪切り、接地丸太輪切りの順に、3つの競技が続けて行われていた。

ソーチェン着脱競技とは
チェンソーのソーチェン(刃の部分)を外し、バーの上下を入れ替えて取り付け、別のソーチェンを装着する競技。

ソーチェン着脱競技

ソーチェン着脱競技は、ほとんどの選手が10〜20数秒で作業を完了させるので、素人には動きが速すぎて何をしているのかさっぱり分からない。ちなみに世界大会の優勝者は7秒台を叩きだすという。この競技、一見するとスピードだけを競っているようにも見えるが、最後に手を確認し、けががあれば減点。さらに選手は次の競技のスタートまでチェンソーに触れることはできないので、スピードを求めて正確さを怠れば、丸太輪切り競技中にソーチェンの不具合が出ることもあるという。もしソーチェンが外れてしまうとソーチェン着脱競技の点数も0点になる。

「丸太合わせ輪切り競技」と「接地丸太輪切り競技」

丸太合わせ輪切り競技

ソーチェン着脱競技が終わると、選手はそのまま丸太合わせ輪切り競技と接地丸太輪切り競技へと移る。この2種目は間近で見学できるので迫力満点。チェンソーの轟音が響き渡る中、選手の動きをつぶさに見学することができる。ところがこの2種目、素人には丸太を台に乗せて上下から切るか、地面にじかに置いて上から切るか、その違いしか分からない。それぞれどのような技術を競う競技なのだろうか。

丸太合わせ輪切り競技とは
地面から7°傾いた2本の丸太を垂直に上下から切り出し、30〜80mmの厚さに輪切りにする競技。下から半分、残りを上から切り、赤いラインの中で合わせなければならない。上下の切断面の段差と、縦横四方向の垂直さとスピードで競う。

丸太合わせ輪切り競技は、山での作業のように丸太が傾いた状態でいかに正確に、安全に、速く輪切りにするかを競う競技だ。この競技のルールは見たままなので、「見る専」の素人にも非常に分かりやすい。問題は接地丸太輪切り競技だ。素人には地面に直置きした丸太を上方向から切っているだけのように見える。

接地丸太輪切り競技とは
3cmの高さに成形されたおが粉の上に置くことで、床との接地面が見えなくなった2本の丸太を、床を傷付けることなく輪切りにし、厚み・切り込み角度・切り残し・スピードを競う競技。

接地丸太輪切り競技

隣で観戦していた選手に「床を傷付けてしまうと大幅な減点となるので、どこまで攻められるかが勝負のチキンレースなんですよ」と教えてもらい、ようやく競技の趣旨を理解した。チェンソーの刃先にまで神経を通わせる高い技術力と、ギリギリまで攻める強いハートが求められる。

残った木片の厚さを計測する様子

審査員は、輪切りにした丸太の角度や接地面に薄く残った木片の厚みを計測する。おが粉をコテで再成形する姿はもはや職人。思わず見入ってしまう。

伐倒競技はモータースポーツ

午前中に4種目を終え、午後は枝払い競技のみ。昼休憩の時間に競技会場に並ぶスポンサー企業のテントへと足を運んだ。防護服やヘルメットなどの装備類に留まらず、高所作業用のロープやハーネス、山間部での通信環境設備や、シカ対策ネットなど、さまざまな企業の最新製品が並ぶ。中でもチェンソーブランドの〈スチール〉〈ハスクバーナ・ゼノア〉〈エコー〉のテントは気合いが違う。大会パンフレットを見ると、出場選手は排気量73.5cc、最大70cmのガイドバーを装着できるプロ仕様のハイスペックマシンを使用していて、紹介欄には使用する愛機が明記されている。

トップ選手の中にはメーカーとアンバサダー契約を結ぶ選手も存在し、株式会社やまびこのチェンソーブランド〈エコー〉は、「日本人選手が国産チェンソーで世界の頂を目指す」という目標を掲げ、積極的に選手のサポートを行っている。選手に「伐倒競技はモータースポーツですからね!」と言われて目から鱗が落ちた。会場に鳴り響くエンジン音、人間と機械の限界に挑戦する伐倒競技は、モータースポーツという側面もあるのだ。

大会の最後を飾る「枝払い競技」

午後になると、観客も最終種目を見るために一箇所に集まり、大会の最後を飾る枝払い競技がスタートした。枝払い競技は2人同時に競技を行うため、2台のエンジン音が鳴り響くとこの日の盛り上がりは最高潮を迎えた。

枝払い競技
6mの丸太にまっすぐ差し込まれた30本の枝をスピーディーに切り落としていく難易度の高い競技。丸太に5mm以上の枝払いの跡や、深さ5mm以上または長さ35cm以上の傷がつくと減点となる。ちなみに上位入賞には1本1秒以内で正確に切る技術が求められる。

この競技では枝を払うスピードも採点の大きなポイントとなるため、選手の中には小回りが効く短いガイドバーを付けて競技に挑む人もいるようだ。チェンソーの動きは、素人の想像とは全く違った。チェンソーを右に左にと激しく動かすところを想像していたが、実際には体を左右に体重移動させながら、丸太の表面をチェンソーで撫でるように動かしていくので、チェンソー自体の動きは最小限だ。無駄な動きが多いほどタイムが遅くなるので、上手い選手の方が動きが少なく、洗練されているように見えた。

しかしこの競技はいくらスピードが速くても、得点が伸びない選手もいる。丸太にダメージを与えた場合、あるいは危険行為をした場合は減点となるからだ。枝払いでは、丸太を挟んで体とは反対側にチェンソーの刃がある時にしか足を動かしてはいけない。伐倒競技はいかにミスを減らし、減点されないかが重要になってくるので、観戦も玄人になればなるほど、足捌きなどの安全性をチェックして観戦するという。

常に危険と隣り合わせの山の仕事。「危険をかえりみず」競技に挑戦することは御法度であり、いかに安全に正確に競技をするかに重点を置いているところが、他の競技とは違うところだ。

世界大会へ向けて

(後列左から)髙山亮介選手、今井陽樹選手、松村 祐選手 (前列左から)武藤 唯選手、山岡 空選手

本大会は5種目中4種目が大会新記録を更新するというハイレベルの戦いとなり、プロフェッショナルクラスの今井陽樹選手が2種目を制して総合優勝した。世界大会への切符はプロフェッショナルクラス1位の今井陽樹選手、2位の髙山亮介選手、3位の松村 祐選手、ジュニアクラス1位の山岡 空選手、レディースクラス1位の武藤 唯選手の手に渡った。

総合優勝した今井陽樹選手

総合優勝した今井選手は、試合終了後のインタビューで試合内容にはほとんど触れず、林業の楽しさと仲間への感謝の言葉に終始していた姿が印象的だった。

菊地さん「大会の認知度が高まったことで、出場する選手は大会のためにトレーニングを重ね、日頃の成果を発揮する場があるということが励みになっています。また、競技大会は選手仲間と交流を深める機会にもなっていると思います。決勝で上位入賞し世界大会でメダルを獲るような選手の存在は、林業を目指す人若い人たちにとっては、まさにスター。選手たちの活躍を見て、林業の道へ進む人が増えてくれることを期待しています」

現場の仕事と伐倒競技は「見る専」から見ても、おそらく別ものだ。にもかかわらず、競技人口を増やしているは、現場では得られない学びがあるからだろう。現場と競技を行き来しながら成長する選手たちは、とにかく皆楽しそうだった。その「楽しさ」はどうすれば伝わるのだろうか。

伐木競技を楽しむ方法

今回の大会を「見る専」目線で振り返ってみると、じつは競技中、近くの人に何度も競技の解説をしていただいた。競技前にエンジンをふかす理由や、選手と審判員の謎の道具や行動など、聞けば納得の解説で、競技観戦が何倍にも面白く感じた。会場で観戦している人のほとんどが林業関係者なので、どなたに伺っても親切に詳しく教えてくれるのだ。

「見る専」ゆえに、分からないことが多いのは致し方ない。だが大相撲も冬季オリンピックの人気種目・カーリングも、ほとんどの人が「見る専」だ。将棋の「観る将」の存在もある。カーリングの日本の競技人口はわずか2,500〜3,000人程度に比べて林業就業者数は4万5千人と聞くと、伐木競技の『見る専』がもう少しいてもいい気がする。そのためには、やはり競技の実況者と解説者が欲しいところだ。なぜあの選手は速いのか?最近の競技用チェンソーの傾向は?と名物解説者の話を聞きながら観戦できたらとても楽しいにちがいない。そんな妄想に耽りつつ、これからも伐倒競技の「見る専」を広げる草の根運動を懲りずに続けてみようと思う。そして3月の世界大会で日本選手がどのような活躍を見せてくれるのか注目したい。(2025年10月19日 現地取材)

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