森を歩いてみた 東海自然歩道
森のなかをただひたすら歩く。森と身体を考えるうえで限りなく原始的なこの行為が近年再評価されていることを知っていますか?コロナ禍を経て、身近な自然環境のなかでのアクティヴィティとしての「ハイキング」が世界中で見直されています。
国土の7割近くを森林に覆われた日本国内にも、実はいくつもの長距離自然歩道やロングトレイルと呼ばれるコースが半世紀にわたって全国を網羅的に縦断する形で整備されてきました。これまでに環境省が計画したものに限って見ても、北の北海道自然歩道から南の九州自然歩道まで、その長さは総延長約28,000kmに及びます。

例えば2019年に開通した東北の「東北太平洋岸自然歩道(みちのく潮風トレイル)」には今では年間10万人以上のハイカーが国内外から集い、総延長約1,000kmを越えるトレイルが日々歩かれています。
豊かな自然や歴史文化とふれあいながら何十キロと歩き続ける。息を切らして足取りが重くなってきた頃、いつの間にか森と身体が溶解していく。そんな経験ができることを期待しながら、今回は日本で最初に生まれた長距離自然歩道である「東海自然歩道」を歩いてみます。
人間性の回復?歩くことの復権?そもそも東海自然歩道って?

東海自然歩道とはその名の通り、東海地方を中心に日本で最初に整備された自然歩道です。驚くことにそのコースの総延長はなんと1,748km。東京の「明治の森高尾国定公園」から大阪の「明治の森箕面国定公園」まで、11都府県の山間部を中心とした豊かな自然環境を歩道で繋いでいます。
元を辿れば、当時の厚生省(現在の環境省)の官僚であった大井道夫氏らがアメリカを代表するロングトレイルであるアパラチアン・トレイル*1を視察したことがきっかけとなり、帰国後これをモデルにした「国民自然歩道構想」が1969年から始まりました。この計画の背景には、当時急速に発展しつつあったモータリゼーションやそれに伴う都市開発によって、国民の生活から自然環境が遠ざかっていくことへの懸念が根底にあったそうです。
そこで東海自然歩道の計画では、東海道メガロポリスの外縁部に沿って自然歩道を繋いでいきました。都市のスプロール化に対して自然保護の防潮堤としての役割を持たせると同時に、国民の身近に美しい自然環境や歴史にふれる環境を作り、そのなかを自らの足で歩く長い旅の経験が「歩くこと」自体の価値を復権させ、本来的な人間性の回復に繋げるというロマン溢れる構想が生まれたのです。
*1 アパラチアン・トレイル(AT)に加えてパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)、コンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)の3つを総称してアメリカ3大ロングトレイルと呼ばれ、世界中からハイカーが集まります。
長距離自然歩道・ロングトレイルの歩きかた

そもそも長距離自然歩道やロングトレイルは片道数百キロ〜が当たり前の世界。その道のり全てを一度の行程で踏破する健脚な人々はスルーハイカーと呼ばれ、世のハイカー憧れの存在です。とはいえほとんどの人は体力的も時間的にもそのような力技は難しいです。そこでロングトレイルでは行程をいくつかに分割して、日帰り〜数日で区間ごとに歩くセクション・ハイクと呼ばれるスタイルで楽しむ選択肢もあります。スタート位置にこだわる必要もありません。全行程のうちの景色の良さそうな区間から歩き始めるなどの作戦でもOKです。
また一般的な登山道とは違い、山林と人里のあいだを何度も出たり入ったりするコースであることが多いため、何日もかけて歩く場合には近くの街へ降りて食料補給と休憩などをすることも大きな楽しみのひとつです。軽い気持ちで始めてハマってしまい、結果的に10年以上もかけ一つのトレイルを踏破するといった長期スパンのセクションハイカーになることも十分あり得るのではないでしょうか。そんな奥深いハイキングの最初の一歩を、まずは一緒に踏み出してみましょう。





