新林と紙選び デザイナーMと編集者Uの紙選び会議
環境に良い紙ってなんだろう? 番外編
2025年の夏の暑いある日。 デザイナーMと編集者Uは、4回の「環境に良い紙って何だろう?」の取材で学んだことを活かして、新林9号で使う紙や印刷・加工方法について話し合いました。
デザイナーM:村上亜沙美(新林編集部・デザイナー)
編集者U:植野聡子(新林編集部・編集者)
U 「環境に良い紙ってなんだろう?」の取材、お疲れさまでした!初めての取材はどうでしたか?
M すごく面白かったです!普段、デザインをしていて紙や印刷について気になっていたことが聞けて勉強になりました。
U 知らないことばかりでしたよね。私は、木からパルプを作る時に発生する「黒液(こくえき)」という副産物がじつは紙を作る際のエネルギーになっていると日本製紙連合会さんから伺ったのが一番印象に残っています。
M これは読者のみなさんにしっかり伝えなきゃ!と、取材中も盛り上がりましたよね。
U さて、今号の新林の紙選びは、取材で学んだことを踏まえて決めていきたいと思います。まずは、表紙と本文用紙、そしてこのページ(新林9号p.21-24「環境に良い紙って何だろう?」のこと)で使う3種類の紙ですが…
M 今回こそFSC®︎認証マークを付けたいですね!これまで認証マークを何で付けるんだろう?と疑問に思ってましたが、認証マークを付けるための努力を知ったら、なんとしてでも付けてみたくなりました。
U 認証マークを付けるために、用紙発注から製造工程までFSC®︎認証の製品と分かるように表記し分別して徹底管理していると聞いて、管理されている方の顔が見えたことでより親近感が湧きました。
M 今回は3種類の紙を使いますが、全てがFSC®︎認証紙である必要があります。まず、表紙ですが、平和紙業の山崎さんがおすすめしてくれた「キュリアスマターN」はどうですか?

U ざらざらした質感が面白いですね。手に取ったときにインパクトがありそう。
M この紙は、食品生産工程で排出されるジャガイモのデンプン成分を顔料とともに紙面にコーティングしているそうですよ。
U 同じように、ういろうの端の部分や小豆殻などを混ぜて作った紙もインタビューの時に見せてもらいましたね。
M このページでは「小豆殻CoC」を使ってみましょうか。こちらは、あんこの工場で廃棄された小豆の殻を混ぜ合わせているそうです。
U ところどころ小豆の殻がしっかり見えて面白いですね。これにしましょう!
M ここまで順調に決まりましたが、表紙とこのページの2つの用紙は特殊な紙になるため、どうしても値段が高くなってしまいます。
U 本文用紙はコストを抑えられるでしょうか…?
M 本文用紙は比較的安価なのですが、そのせいかFSC®︎森林認証紙が少ないんですよね。そのなかで見つけたのが、新製品の「サングレイス(F)」です!微塗工だから印刷再現性や作業性も良いそうですよ。
U 作業性…?
M 紙詰まりがしにくいので、1分間に刷れる量が多くなるそうです。
U すごい!!それにしよう!
M 印刷作業にあたる皆さんの負担まで考えた紙選びになりますね。先ほど言ったように、表紙とこのページはどうしても紙の値段が張るので、その分、1色刷にしてコストを抑えたいと思います。
U 1色刷りだと、刷版(さっぱん)として使うアルミ板も1枚で済みますね。
M 今回はベジタブルインクの認証マークも入れてみたいですね。
U ベジタブルインクって特殊なものだと思っていましたが、今では主流のインクで生産効率も良いし、品質も良く、作業する人にも害がないと聞いて驚きました。
M 環境に配慮することがその他にも良い効果をもたらしてると聞いたら、積極的に使っていきたいと思いました。
U FSC®︎認証も、認証取得時に強制労働や差別、団体交渉権の承認など労働環境についての声明を出すことが求められると聞いて、認証マークがある意義がさらに高まったように思います。
M 紙、インクと決まってきましたが、今回は印刷用紙のサイズから歩留まりの良い仕上がりサイズを計算して、ロスを少なくできないかなと考えていているんですよね。
U なるほど。印刷用紙の歩留まりを考えてみるのは、今回の特集テーマである「ちょうどいい森林資源の使い方」にもピッタリだと思います!
M このページで使う「小豆殻CoC」は、「ハトロン版」という900mm×1200mmのサイズの用紙だから…歩留まりの良い仕上がりサイズは280mm×190mmになりました!

U 新林9号をお持ちの皆さんは、21〜24ページをぜひ測ってみてください…!!
M 最後に製本方法ですが、これまではペーパーホチキスやミシン綴じなど、金属を使わない製本方法を採用してきましたが、今回は変形サイズのページが入ったことで、ミシン綴じが難しいそうです。ペーパーホチキスは厚みがある冊子は綴じられないので、今回はホチキス中綴じにしてみましょうか。ホチキス中綴じは、金属を使ってるからリサイクルしにくいのではと思ってましたが、実際は、磁石で分別できるから問題なくリサイクルできる※ようです。
U そうでしたね。ペーパークラフトイトウさんがインタビューで仰ってましたね。
※ ただし雑がみのリサイクル方法は、各自治体によって対応が異なるので注意が必要。
M そしてコストも抑えられます!!
U では今回はホチキス中綴じで行きましょう!
M ということで、新林9号の紙、インク、製本は…
表紙:キュリアスマターN ゴヤ ホワイト
本文紙:サングレイス(F)
変形ページ:小豆殻Coc
製本:ホチキス中綴じ
インク:ベジタブルインク
となりました。FSC®︎認証マークも無事に付きましたね!
U 紙だけでなく、インクや紙のサイズ、製本方法、そして労働環境など、たくさんのメッセージが込められたと思います。
M 読者の皆さんに汲み取ってもらえたら嬉しいですね。
シリーズ環境に良い紙ってなんだろう?

環境に良い紙ってなんだろう?
「環境」に「配慮」するってどういうこと?紙や印刷に携わる人に聞いてみた。

「紙づくりはカーボンニュートラルって本当ですか?」日本製紙連合会の秋山さんに聞いてみた
[環境に良い紙ってなんだろう? #1] 紙は、原料である木材が成長する過程でCO2を吸収し固定しているので、紙を焼却しても新たにCO2を排出したことにはならない …

「環境配慮紙ってどんな紙ですか?」平和紙業株式会社の山崎さんに聞いてみた
[環境に良い紙ってなんだろう? #2] 高品質な紙と環境の関係とは?

「印刷工程ではどんな環境配慮をしてますか?」東海電子印刷の深谷さん、鈴木さんに聞いてみた
[環境に良い紙ってなんだろう? #3] 自然環境と働く人の環境を守る印刷とは?

「印刷・加工のロスはどうしたら減らせますか?」株式会社ペーパークラフトイトウの伊藤さんに聞いてみた
[環境に良い紙ってなんだろう? #4] 印刷物の最終工程で、どのように環境配慮するのが良い?
関連記事

森と紙
主な原材料に木材を使用する紙も森林資源の一つ。冊子『新林』では、環境に配慮した用紙と製本方法を採用し制作してきました。 …

