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新林

山の生活とアートの親和性

宮崎県椎葉村「山は招く芸術祭」レヴュー

秘境の地で芸術祭をやってみる

2025年10月から11月にかけて、宮崎県椎葉村で「山は招く芸術祭」を行った。椎葉村は日本三大秘境の一つと呼ばれているが、他の2つと比べると交通アクセスが悪い。2020年の台風10号は村内の山肌を大きくえぐる土砂崩れが発生した。その影響のため、いまだ通行止めの箇所が多々あり、復旧の目処が立たないところもある。そのため最寄りの駅からのバスもなく、当然電車もない。まさに秘境だ。

椎葉村にたどりついたとしても、そこから作品の展示場所まで、さらに山奥深く入っていかないといけない。そんなところで芸術祭をやろうというのは無謀だと自分でも思う。やったとしても誰が来るんだろう?まあ、一日平均10人程度で、300人ぐらい来れば良いですねと椎葉村の担当者とは話をしてたが、ところがどっこい、全来場者数は約1300人。そのうち600人は椎葉村外からの来訪者だった。

なぜそこでやろうと思ったのかと聞かれたら、山の生活が魅力的だったからと答えているが、なぜこれだけの来訪者があったのかの理由は、同じく山の生活の魅力に招かれた人が集まったからだろう。まさに「山は招く芸術祭」だ。


撮影:緒方秀美

筆者|山森達也
1980年神奈川県相模原市生まれ。静岡文化芸術大学大学院文化政策研究科修士課程修了(アートマネジメント専攻)。社会人経験を経て2011年、認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ入職。主にアートプロジェクトの企画を担当。2019年6月、アーツカウンシルみやざきプログラムオフィサーに就任。2020年4月より現職。


ダムに漂流する大量の流木

色々な作品がここで生まれたが、今回紹介したいのが、アーティストの杉原信幸さんと、小崎地区の皆さんによる作品「流木の舞台~山津波~」だ。椎葉村小崎地区の中心を流れる小崎川は、その先で上椎葉ダムがある日向椎葉湖に流れ込む。ダムには大量の流木が漂流している。維持管理の視点から見たら流木は厄介者だ。一度水に浸かった木は、木材としての利用が難しい。九州電力さんに話を聞いたら、この流木は回収してウッドチップ等に加工するしかない。いわゆる死んだ木だ。しかし画像を見てもらいたい。空に伸びた流木の根が、天を求める群衆の手のように見え、大量の流木が織りなす面からは圧倒的な生命力を感じてしまう。ネガティブなものに価値を付加するのはアートの真骨頂だと言える。

流木の舞台~山津波~

山と、空と、川の間に突如生まれた巨大な人工物が、村の自然と調和している。芸術祭の期間中、毎週土曜日の夜はここで小崎地区に伝わる伝統芸能「山法師踊り(やんぼしおどり)」と、民謡、そして神楽が舞われた。舞台が終われば直会(なおらい)と呼ばれる打ち上げが行われる。舞手や小崎の人たちはもちろん、芸術祭の来場者も一緒に食べて飲んで夜を明かす。イノシシの肉が出てくる、ヤマメもでてくる、だんご汁も美味い。小崎の人たちは陽気で楽しく、贅沢な時間だ。そう、山の生活とはとても贅沢なものだ。

地域おこし協力隊アーティスト

芸術祭を企画するに当たって、椎葉村の地域おこし協力隊の生島国宜さんに手伝ってもらった。この芸術祭は椎葉村内の3つの地区で行われたが、小崎地区での開催プログラムは、ほぼ生島さんの力によるものだ。生島さんは椎葉村に来る前は福岡でアーティストとして活動していた。福岡の若手アーティストの中でも、精力的に製作を行い、他のアーティストからの信頼も厚く、ファンも多い。そんな生島さんは2年前、椎葉村の地域おこし協力隊のアーティスト枠の募集を見て、椎葉村に移住してきた。福岡のアート関係者は相当驚いたらしい。なぜこれまでの活動の場から、繋がりも何もない椎葉村にやってきたのかを生島さんに聞いた。

「小崎の人たちの生活には学ぶことがとても多いですし、山の生活って福岡にいたときより刺激的なんです」

ちなみに椎葉村地域おこし協力隊の中での、生島さんの肩書は「森のアーティスト」。
なんかカッコいい。

森のアーティスト・生島国宜さん

小崎地区には8つの集落があり、地区全体で200人ほどが生活している。2020年に小学校は閉校になり、いわゆる限界集落なのだが、小崎の人たちは明るく楽しい人たちが多い。標高は平均して700mなので、冬は寒く水道管が凍結する。また夏は大雨や台風で被害も出やすい。災害が起きた時、小崎の人たちは自分たちでなんとかしてしまう。

なぜなら支援や復旧を待っていては自分たちの生命が危うくなってしまうからだ。なのでご自宅でユンボを持っていたり、駐車場にユニックがとまっていて、何かあったら地区のみんなが総出でなんとかする。ここではそれが当たり前なので、夏祭り、冬の夜神楽、グランドゴルフ大会といったイベントもみんなでやる。そしてよく笑う。

イベントに必要なものも、復旧に必要なものも十分に足りているわけではない。近くのホームセンターまで2時間以上かかる。だから創意工夫でなんとかしてしまう。当たり前のような協働と、足りないものをアイデアで乗り切る創造力が小崎の人たちの魅力だと生島さんが教えてくれた。

地域住民がディレクターになる芸術祭

芸術祭の開催の話を生島さんに相談したところ、椎葉村の各地区、各集落ではそれぞれ特徴的な文化がある。アーティストが作品を持ち込む、またはアーティストがその地域で製作する既存の芸術祭ではなく、椎葉の人たちが持つ生活の中の創造性に光を当てることはできないだろうかという話になった。

柳田國男が1908年、明治41年に椎葉村を訪れ、ここでの生活に衝撃を受け、明治42年に『後狩詩記』を出版。これを民俗学の発見とよぶらしく、そのため椎葉村は日本民俗学発祥の地と言われている。柳田國男が衝撃を受けた山の生活は、形は変われど椎葉の人たちの中に息づいている。そこで思いついたのがアーティストが地域住民に寄り添い、椎葉の人たちのための作品づくりを行う地域住民ディレクター制だった。それぞれの集落の人たちの希望や地域課題に対してアーティストを選考し、地域住民ディレクターのもとで、地域の人たちとワークショップを繰り返し、その結果としての芸術祭というフレームが決まった。

そんな芸術祭をやりたいのですが、どうでしょうかと、小崎公民館館長の中瀬さんと、小崎地域活性化グループHinbeeeの那須さんに話をした。話と言っても生島さんの家に集まって、4時間ほど酒を酌み交わしただけだが、やはり焼酎大国宮崎、そして中山間地だけあって、酒を酌み交わすことはとても大事だ。ここでやっと地域に入り込めた気がした。

「川の上にステージが欲しい」と那須さんが言った。川の上に!?ステージが!?なぜ!?と驚いたのだが、先程も述べた通り、小崎地区の中心は小崎川が流れていて、地区全体の中心地である。閉校になった小崎小学校から河原に降りたところには川の中にプールがあり、その周りは無料のキャンプ場になっていた。夏になるとたくさんの家族連れがテントを張り、バーベキューをし、子どもたちは川で遊んでいた。山法師踊りという伝統芸能が川のそばで行われている写真が出てきた。小崎の人たちの生活は広大な山と、そして人が集まる川にあった。しかし昨今の気候変動により、川の流れが大きく変わり、キャンプができるほど広かった河原も削られてしまった。土砂が流れ込んで川の中のプールが埋まってしまった。林業は椎葉村の大事な産業の一つであるが、伐採の技術が上がる一方で、人口が減り、植林が追いつかなくなっている。山が丸ごとえぐられるような土砂災害が起きてしまう。川を中心にした小崎地区の生活は変わりつつある。だからこそ小崎には川の生活があった、今もあり続けていることをアートで表現することは意義もあり、コンセプトも十分に立つ。とはいえ、川の上にステージを作るというのは全く発想になかった。しかし、面白い。だが、できるのか、そんなことが。

アーティスト探しと建築許可申請

アーティスト探しと、川の上の建築許可を同時に進めた。アートディレクター稼業の中で、こんなことは初めてだ。アーティストは意外と早く決まった。10年以上の仲であるランドスケープアーティストの杉原信幸さんに話をしたら乗っかってくれた。

「川の上にステージつくるんですよ?地域住民がディレクターだから、住民のみなさんにご奉仕するんですよ?そんなにお金もないですよ?椎葉村、遠いですよ?」
「面白そうじゃないっすか!」

アーティストの方というのは、面白いと思ってくれたら話が早い。そもそも杉原さんは椎葉村に関心を持っていてくれていた。そして世界中の森の中で作品を作っている。杉原さんが主催する「原始感覚美術祭」は長野の森の中でもう15年も開催されている。8月に杉原さんが椎葉村に視察に来てくれた際には、小崎の人たちと朝まで酒を飲んでいたらしい。久しぶりに杉原さんに会ったら、小崎の人たちと仲良しになっていた。すごい。

しかし、川の上の建築許可は断念せざるを得なかった。私の職場であるアーツカウンシルみやざきは、宮崎県庁の中にあるので、県庁の中で様々に情報交換ができる。6月から10月末までを出水期にあたるため、洪水リスクが高まる。河川の公共事業もこの時期は避けている中、民間の工事を認めるのはほとんど無理と言われた。出水期のこともそんな事情があることも何も知らなかった。アートプロジェクトを行うというのは、毎日が勉強だなぁと思う。

その旨を小崎の人たちに伝えたところ、新しい候補地の議論を進めてくれていた。その結果、小崎小学校の跡地とキャンプ場の間の広場に決まった。広いスペースに公衆トイレが一つあるだけのスペースだ。他の候補地よりも重機が入れやすい、人も集まりやすい。結果ベストな場所になったと思っている。

流木の舞台~山津波~

製作は9月12日から始まった。今年の夏は特に暑かった。標高が高いとはいえ、小崎も相当に暑かった。まず九州電力さんのご協力で、ダムに流れてきた流木を集めているヤードから50本ほどご提供いただいた。しかし、それでは全然足りないということになり、小崎川で流木を拾うことから始まった。流木を拾うというと小枝を小脇に抱えるように聞こえるが、7メートルほどの流木をユンボで運び出し、ユニックで地上に上げる作業だ。集められた流木を杉原さんが組み上げていく。固定方法は小崎の人たちが教えてくれたらしい。ステージが欲しいと言ったものの、小崎の人たちも杉原さんのやっていることがよくわからなかったそうだ。しかし完成に向かうにつれ、ものすごいものが出来上がりそうだとみんながワクワクしはじめた。9月24日の最終日まで小崎の人たちが毎日昼から夜までやってきてくれた。こんなに地域の人たちと一緒になって作った作品は初めてだと、杉原さんが言っていた。

ランドスケープアーティストの杉原信幸さん
ユンボを川に降ろし、小崎川の流木を引き上げる
小崎の人たちと流木の舞台を組み立てる

こうして小崎川が見下ろせる場所に「流木の舞台~山津波~」は完成した。栗の木が4本立っている場所は、そのまま神楽が舞われる御神屋(みこうや)になる。ちなみに向かって左側の小さい小屋のようなものは、公衆トイレだ。流木の舞台を作っている間、公民館長さんが杉原さんの製作に触発され、公衆トイレを流木で囲った作品の仕上げてしまった。館長は「流木の雪隠(せっちん)」と名前をつけた。いわば、流木のトイレだ。

杉原さんの流木の舞台(右)とそれに触発されて公民館長が作った流木の雪隠(左)

本来なら芸術祭の製作物は、芸術祭期間終了後、作品の権利、保全や管理の面から撤去されることが前提になっている。しかし公民館長さんを始め、小崎の人たちは自分たちが杉原さんと作ったものとして大事にしたいと話してくれた。

管理、保全、最悪の場合撤去に関しても小崎の人たちが行うということになり、無償譲渡という形をとった。春になったらここでクラシックのコンサートとかやりたいね、やっぱり屋根はあったほうが良いよね、といった具合にこの場所はソフトもハードも日々アップグレードが進んでいる。つまり現在はこの画像とは違う作品になり続けているということだ。これはアート作品の改変ということにも当然なるのだが、自分と皆さんの作品が成長していくのが嬉しいと、杉原さんは喜んでいた。

山の生活から学ぶもの

芸術祭の期間中はこの流木の舞台を作品として見に来る方もいれば、毎週土曜日に行っていた伝統芸能イベント「川辺の芸能祭」でステージとして楽しむ方もいた。昼間は公民館長さんが木や竹を運んで、何かできないかとみんなで話をしていた。さすが小崎のみなさん、空いた時間の使い方がクリエイティブだ。不便さゆえに協働し、不便さゆえに創造性が育つ山の生活から、私たちが学ぶものはたくさんある。しかし小崎の人たちにとってそれは生活の中にある当たり前のことであって、わざわざ「学ぶ」という言葉を使うことに違和感を感じさせてしまうかもしれない。

「河辺の芸能祭」

私たちの意識を山の生活を基準にしてみたらどうだろうか。どうやら文明のおかげで便利になりすぎてしまった、みんなで集まる理由も見当たらない、アイデアを出すよりも誰かが解決してもらうように働きかける方が楽だ、そんな生活に慣れすぎてしまっていて気づかなくなってしまったのではないか。不便さを排除して、創造性を楽しむことをしなくなった私たちのほうがおかしくなっているのではないか。

椎葉村の人たちはずっと変わらず山の生活を続けている。都市で私たちが生活するよりはるか昔から、山の生活はあった。きっとその矛盾はどこかで感じていたんだろうと思う。そこに思いのある人たちが山に招かれてやってきたのが、この「山は招く芸術祭」であったと思う。いや、ちょっと大げさに言い過ぎたかもしれない。しかし椎葉村の山の生活のアウトプットとして芸術祭ができたことはとても幸せだった。この文章を読んでくれた方で気になる方が入れば、椎葉村に行ってみてください。流木の舞台の周りには今日も小崎の誰かがいます。私が書いたこの文章よりも魅力的に話をしてくれると思います。


山は招く芸術祭
会期:2025年10月10日〜11月7日
会場:宮崎県椎葉村
主催:アーツカウンシルみやざき(宮崎県芸術文化協会)、宮崎県
協力:椎葉村、九州電力株式会社、一般社団法人椎葉村観光協会
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