芦別の合板工場が描く、カラフルな合板づくりのかたち/滝沢ベニヤ株式会社 瀧澤貴弘さん

北海道芦別市に拠点を置く滝澤ベニヤ株式会社は、いま国内外から高く評価されている単板※1と合板※2のメーカーです。色紙と木材を交互に積層した断面が印象的な合板「ペーパーウッド」を筆頭に斬新なプロダクトを生み出していることに加え、「多品種少量生産」を掲げて事業拡大よりも地域の資源や環境との調和を目指した経営方針に注目が集まっています。斬新な事業活動を牽引する瀧澤貴弘社長を中心にお話をうかがいました。
※1 単板:「たんぱん」と読む。丸太を薄くスライスした板材で、大根の桂剥きの要領でつくられる
※2 合板:単板を複数枚貼り合わせた板材。詳しくはこちらの記事に記載

滝澤べニヤ株式会社
代表取締役 瀧澤貴弘さん
1981年芦別市生まれ。2004年青山学院大学卒業後、07年に滝澤ベニヤ株式会社入社。現在は同社代表取締役。2010年に木材とカラフルな再生紙を交互に貼り合わせした世界初のオリジナル合板「Paper-Wood」を開発しグッドデザイン賞を受賞。17年には、はばたく中小企業、小規模事業者300社、日本ものづくり大賞地域貢献賞を受賞。道内に3工場があり、社員数55名。北海道産の広葉樹を使った単板、合板をメインに製造し、オリジナル合板を使用したインテリア商品の企画、販売も手掛ける。
窮地から生まれた起死回生の合板

大学卒業後、都内の旅行会社へ就職した瀧澤貴弘さんは、父(現会長の量久<かずひさ>さん)から会社に入って欲しいと請われ2007年に北海道へと戻ってきたそうです。滝澤ベニヤは1936年の創業以来、シナという樹種を用いた単板とそれを貼り合わせた合板の製造を中心に事業拡大してきた老舗工場でしたが、貴弘さんが戻った当時は厳しい経営状況に直面していました。主力商品と呼べるものはシナ合板※3のみで売り上げは右肩下がり。当時は問屋さんに依存した営業体制により、自社商品の存在感を示すことも難しい状況でした。「当時はシナ合板しか作っておらず、価格競争に巻き込まれてばかりでした。問屋さんに頼る販売スタイルだけでは自社名が末端のユーザーに届かないことも知り、将来が全く見えなかったんです」と瀧澤社長は当時を振り返ります。
このままでは未来が無いと危機感を抱いた滝澤社長は営業部を新設し、自ら新商品の開発に乗り出しました。最初の試みとして北海道産のシラカバを使った「エコシラ合板※4」を生み出しました。シラカバの木は成長が早く、北海道の広葉樹の中で唯一備蓄量が増加している樹種だったにも関わらず、当時はほとんど建材に利用されていませんでした。エコシラ合板はこの特徴を活かしたシラカバ間伐材の有効利用を狙った合板です。しかし価格競争の壁は依然として高く、販路拡大に苦戦しました。
※3 シナ合板:シナという木を用いて作られる黄白色の合板。全国のホームセンターなどにも流通している
※4 北海道などの寒冷地に育つシラカバという木の間伐材を使用した滝澤ベニヤのオリジナル合板
そこで東京で開催されていたインテリア関係の展示会に自ら足を運び、新たな可能性を模索することに。そこに出展していた合板研究所というブースとの偶然の出会いが、ペーパーウッドの誕生へとつながります。
「色紙を挟んだカラフルな合板を用いたプロダクトが目に留まりました。これまでにない斬新な合板だったので、これを商品化すれば面白いんじゃないかと思ったんです。このブースはドリルデザインとフルスイングという2つのデザインスタジオによる小さなモックアップの展示でしたが、うちの技術を使えば合板製品として成立するだろうと感じ、その日のうちに相談を持ちかけました」


試行錯誤のうえ生み出されたペーパーウッドは、狙い通りその斬新なデザインで注目を集める一方、高価格帯商品ゆえに販売当初は苦戦を強いられました。最初の3年間はほとんど売れず、年間20枚程度しか売れない年もあったそうです。それもそのはず、ペーパーウッドの販売価格は当時の一般的な合板の10倍近くの値段です。それでも「良いものを安売りしない」という信念を貫き、製品価値を理解してくれる顧客を一人ずつ増やしていきました。
「当初は価格だけで判断される時期が続きましたが地道に営業を続け、設計事務所やデザイン事務所を一軒一軒回ることで、少しずつ製品に対する理解が広がり、今ではペーパーウッドに引き上げられるように既存製品の品質面なども評価してもらえるようになりました」



会長の瀧澤量久さんは「ペーパーウッドについて、正直作ることも売ることも難しいと思っていました」と当時の胸の内を明かします。「過去に似たような挑戦をした経験があったので、簡単ではないだろうと予想していました。ただ、やらないで後悔するより、やってみた方がいいという思いで送り出しました。結果的にぼくの予想ははずれ、ペーパーウッドを通じて滝澤ベニヤのブランド価値が徐々に築かれてきたことを肌で感じ取っています」
現在では建築からプロダクトまで幅広い分野で活用され、海外からの問い合わせも増えています。一連の製品開発を通じて従来からの常識だった「合板=木」という固定観念はなくなり、今までよりも広い視野で事業に取り組めているそうです。

山田さん「入社1年目にペーパーウッドを出展した東京の展示会に参加し、多くの人が『この製品はどうやって作られているんだろう』と興味を持つ姿を見て、改めて自社の製品の可能性を実感しました。現在は原木の管理を担当し、丸太の集荷や品質の目利きに携わっています。木材は1本1本性質が異なるので、見極めが難しい部分もありますが、日々学んでいます」
森林資源との付き合い方と未来の合板づくり

ペーパーウッドの断面は、色紙と木の単板が重なり合い、美しいストライプ模様を描いていますが、このデザインこそが滝澤ベニヤの目指す森との関係性を象徴しているようです。広大な北海道の広葉樹林には多様な色や個性の樹木が混在しており、それらを調和させ無駄なく活かすことが、持続可能な社会の実現への第一歩であると瀧澤社長は語ります。
「うちはずっと広葉樹でやってきました。でも広葉樹って、そもそもまとまった量を確保できる樹種があまりないんですよ。実際に山を見てもらえば分かりますが、色々な樹種が少しずつあるというのが実情です。それでもその状況をポジティブに捉えて積極的に活用していこうという姿勢が、会社の理念でもある『多品種少量生産』の考え方に繋がっています。異なる特徴を持つ樹種それぞれの個性を活かし、究極的には『季節の合板』や『〇〇山の合板』みたいな、その時々の山の実情に合わせたものが作れると1番良いですね」
現在はニレやタモとシラカバを合わせたハイブリット合板の開発が進行中。さらに針葉樹の芯板にカバの単板を貼り合わせた針広混交合板が公共施設に採用されるなど、目の前にある森林資源をいかに活用できるかという点に日々取り組んでいる最中とのことです。

「近年では『道産材の原木使用率』『再生可能エネルギー使用率』『材料有効活用率』という3つの指標を100%にするという具体的なアクションを進行中です。実際にはすでにほとんど達成できている状況ですが、ここからはいかに付加価値を高められるかという部分に挑戦しています。例えば木材カット時に出る木粉などを単なる燃料材にするのではなく3Dプリンターのフィラメント※5に転用する研究を大学と共同実施するなど、木材の最後の一片までも大切に扱いたいですね」
滝澤ベニヤが目指す未来、それは芦別でつくられる合板の断面のように、多様な森林資源が調和しながら循環していく社会と言えるのかもしれません。美しさと社会的な意義を両立させた合板づくりを通じて、芦別の小さな合板工場の取り組みが世界に広がっています。
※5 フィラメント:3Dプリンターに用いられる固形の樹脂。基本的にはプラスチック類の素材が多い
(2024年7月 現地取材/8月 オンライン取材)
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