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新林

オフィスを木質化する木を伐ってみる

木こり活動レポート #10

2025年10月31日、静岡県浜松市天竜区の〈Kicoroの森〉に、NCMの木こり隊9名がやってきました。ここは、木を伐る活動で伐採指導をしていただいている前田剛志さんの活動拠点であり、木を伐る活動の原点とも言える場所です。今回はこの森から、NCMの大阪オフィスの家具をつくる材料として、木を伐り出します。


倒れてほしい方向に木を倒すには

今回のメンバーは9人のうち7人が初めて木を伐るため、山へ入る前に丸太を使って木の倒し方を学びました。

「木を倒すというと、難しいことのように感じるかもしれませんが、じつは木を倒すこと自体はとても簡単で、チェンソーを使えば『ワン・ツー・スリー』の3ステップで10秒もあれば完了します。難しいのは、倒れてほしい方向に、木に倒れてもらうことなんですよ。

「そこで、伐倒方向を定めるための『受け口』が必要になります。まず、水平と斜めにノコギリを入れて受け口をつくります。木は、受け口の会合線(かいごうせん)に対してほぼ90度に倒れます。この受け口の向きで伐倒方向の8割が決まってしまいます」

「次に、受け口と反対の方向から、『追い口』を入れます。受け口の下の水平に切ったラインから少し上を狙って、水平に切っていきます。この時最後まで切らずに、数センチ間を残します。残した部分を『ツル』と言い、ツルが蝶番の役割を果たして、木が受け口で定めた方向に倒れます。最後まで切ってしまうと、木が倒れたい方向に勝手に倒れてしまうので、必ずツルを残しましょう」

受け口の方向は修正できますか?

講師を務める木こりの前田剛志さん(Kicoro代表)

「できますよ。ただ、受け口の深さは直径の1/3から1/4と決まっています。修正を繰り返すと受け口がそれ以上に深くなってしまうので、できれば一発で決めていきたいと思います。一番最初にノコギリを入れる人の責任が重大ですね」

シカが森の植生を決めている

いよいよ山へ入って、間伐に挑戦します。じつに3年ぶりの訪問となった〈Kicoroの森〉。中へと足を進めると、土留めが整備され、以前よりすっきりとした森になっていました。

「天竜ではシカが増えすぎて、シカが下草(樹木の下に生えている草や低木)を食べ尽くしてしまうことが問題となっています。下草が無くなり山肌が剥き出しになると、大雨で表土が流出し、そのまま放置すると土砂崩れを引き起こす原因にもなります。そこで〈Kicoroの森〉では、地元企業のソミック石川の社員の方々と共同で、2023年から土留めを整備するプロジェクトを開始し、土砂の流出を防いでいます」

森のあちこちで見かけるシカのフン

「今の天竜の森は、シカが森の植生を決めていると言ってもいいほど被害が拡大しています。下草の樹種が年々減り、シカが好まない植物ばかりになってきました」

見てみると、スギ以外の植物は、お茶の木やシキミ、アセビ、ミツマタ、クスノキ、マツカゼソウ、コンテリクラマゴケなど、「葉が硬い」「トゲがある」「香りが強い」「毒がある」植物が目立ちます。

かつてここで栽培していたお茶の木

森を構成する樹種が多ければ多いほど、多様な根の張り方で森の土を守ります。多様な植物や動物が共生する豊かな森を育てるためにも、適切な間伐を行い、森に光を入れて下草を茂らせることが大切です。早速、木こり隊も間伐に挑戦してみましょう。

急斜面で木を伐ってみる

この日伐採するスギの木は2本。1本目は足場の悪い急斜面に生えていました。木が密集していて、まさに間伐をする必要がありそうな場所です。

「まず木に背中を当てて、上を見ます。どちらの方向に木が倒れる空間があるのか、木の重心はどちらに向いているのかを確かめてください。枝が伸びている方向に重心がある場合が多いですが、この木は斜面の下の方向に枝が伸びているのに、頭は上を向いていますね。私が選んだ木ですが、難易度が高いですね」

「間伐とは、文字通り木と木の間の木を伐って、木の密度を調整する森林整備のこと。倒す場所も木と木の間に正確に倒さなければいけません」

全員で順番に背中をつけて上を見上げながら、話し合います。

伐倒方向が決まると、手ノコで受け口をつくります。使い慣れない手ノコを使って、これほどの斜面で水平を保ちながら切るのは至難の技。水平や方向を他のメンバーに確認してもらいながら切り進めます。

「受け口」完成の笑顔

木にロープをかけ、引っ張る準備ができたら追い口を入れます。

「せーの」のかけ声でロープを引くと、木がしなりながら、パキン、パキンと音を立てて倒れていきます。立木が密集する場所でしたが、立木を避けて狙った方向に木が倒れました。

斧で木を伐ってみる

2本目の木は、1本目より足場の良い場所に立っています。

「1本目より難易度が少々上がりますが、今度は斧を使って受け口をつくり、手ノコで追い口を入れる方法で木を伐ってみましょう」

斧は「切る」のではなく、「叩いて砕く」道具。木を削るようにして受け口をつくるので、会合線の向きを調節するのがさらに難しくなります。

斧で木を伐ったことがある人は、現役の林業就業者でもごくわずかなのかもしれません。慣れない道具を使って順番に斧を打ち付けるうちに、男性陣がパワーで木を砕き、女性陣が形を微調整をするという役割分担が自然と生まれてきました。

不思議と手ノコより斧の方が盛り上がります

ロープをかけてみる

木を引っ張るための「ロープ掛け」を練習します。できるだけ高い位置にロープを掛けるため、ロープに波を送って上へ上へとロープを登らせます。

前田さんは簡単そうなのにどうして自分は出来ないのか、誰が一番高く上げられるのか。家に帰ってからも練習したくなるほど盛り上がるのが、この「ロープ掛け」です。

この日一番のロープ掛け名人

ロープを掛け、追い口を入れる準備が整うと、いよいよ木を倒します。伐倒方向の立木を経由してロープの方向を変えることで、安全な場所から引っ張ることことができます。

2本目の木を倒し、この日の木こり活動は終了しました。
伐ったばかりの瑞々しい木の断面や、水分を含んだ丸太の重さに植物の生命を感じ、不思議と木に対する愛着が芽生えます。

オフィスを木質化する

通常の間伐材は、集成材の材料や、土木用材、あるいはバイオマス燃料用、製紙用、園芸用のチップなどに活用されます。木を搬出するコストの採算が合わず、山から運び出さずにそのまま山に放置される「切り捨て間伐」も発生します。この日木こり隊が伐った間伐材は、今後、NCMのオフィスで家具の材料として活用することが予定されています。

オフィスの構造材や内装、家具などに国産材を利用するメリットは、天然素材ならではの温もりや香り、素材感を感じられることだけはありません。

木は光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収し、ショ糖やデンプンなどの炭水化物をつくり、酸素を排出します。炭水化物は、幹や根、枝葉をつくる材料やエネルギーとなって木を成長させ、炭水化物中の炭素が木に蓄積(固定)されます。乾燥した木の重量のおよそ半分が炭素で構成されていることから、木材は「炭素の缶詰」森林は「炭素の貯蔵庫」と呼ばれています。

そこで今、都市部の中高層建築物に国産材を積極的に利用し、建築物自体を森林のように「長期的な炭素貯蔵庫」としての役割を持たせようという動きが広まっています。さらに、「伐って、使って、植えて、育てる」という森林資源の循環利用によって、木材の生産と森林育成の活性化が期待されています。

この日の最後に活動を振り返ってもらうと、参加したメンバーからは「木が木材になるプロセスを具体的にイメージできるようになった」「斧を使うことで、木を伐る大変さを実感した」「木を可愛いと思った」「生きている木を伐って倒すことで、森の中の木一本一本が生きているということを実感した」など、さまざまな感想が出てきました。また全員から「今後、仕事で木を活用してみたい」「伐るだけでなく、活用することが大事」という声があがりました。

「この重さがいいですね。この丸太持って帰っていいですか?」

建造物の木造化・木質化には、耐火性や耐震性、コストなど、さまざまな課題がありますが、木と人の繋がりに関心を寄せること、木に親しみを感じることができれば、都市の森(=木造化・木質化した建造物)が大きく育つ日も近いのかもしれません。「木を伐る活動」から「木を伐り、つかう活動」へ。そんな予感を感じる一日となりました。(2025年10月31日 現地取材)

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