国産材の可能性を追求する老舗企業の、精油を使ったブランドづくり/丸山木材ホールディングス株式会社 丸山大知さん
森と香りインタビュー①

日本三大美林である「木曽桧」をはじめ、良質な木材の産地として知られる岐阜県中津川市。「meet tree(ミート トゥリー)」は、この地で大正5年(1916年)に創業し、100年以上にわたり木材加工業を営んできた老舗企業から生まれたブランドです。
精油を使ったブランドづくりをおこなう、丸山木材ホールディングス株式会社代表の丸山 大知さんに、枝葉を使うようになったきっかけや、精油販売に加え、それを二次加工した商品を開発する理由について伺いました。

丸山木材ホールディングス株式会社
代表取締役 丸山大知さん
岐阜県中津川市出身。大学卒業後、住友林業株式会社を経て、2007年に家業の「丸山木材工業株式会社(現 丸山木材ホールディングス株式会社)」へ入社。2019年に同社、代表取締役に就任。
地元で林業を続けていくために取り組み始めた、精油を使った商品づくり
代表の丸山さんは、中津川の材木屋に生まれ、東京の大学を卒業後、住友林業株式会社に入社。カナダのバンクーバーに駐在し、毎日木材に触れながら、カナダの木材を日本に送る、木材輸出の事業に携わっていました。
「2007年に地元に戻り、家業の丸山木材工業株式会社(現 丸山木材ホールディングス株式会社、以下 丸山木材)に入ったのですが、『こんな山奥でも、海から運んできた輸入材を使用しているのか』と、見渡す限り山に囲まれているこの地域が、多くの輸入材で溢れ返っていることに違和感を覚えました」

こういった経験から、国産材を普及させ、地元の経済を回していきたいという想いを持つようになり、丸山さんは2014年、35歳のときに新たな製材会社を立ち上げました。
「始めたばかりの会社の運営は想像以上にむずかしく、丸太1本でさえ、そう簡単には売ってもらえませんでした。直接山まで丸太を買い付けに行っていたとき、たくさんの枝葉が山に放置されているのを見かけました。こういった枝葉は容易に手に入れることができたのですが、バイオマス発電所に販売するにも、運ぶ距離が長距離になると、まったく運賃が見合いません。
枝葉をなんとか使うことができないかと考えていたとき、中津川の最北端にある加子母(かしも)地区の森林組合が精油を作っていることを知りました。そこの精油を使って化粧品開発をはじめたのが、meet treeのはじまりです。起業をして、自身で山に入って買い付けをするということをしていなかったら、大量に放置された未利用材には気付かず、今のような取り組みはしていなかったかもしれません」


これまでの林業のイメージを変えるために立ち上げたコスメブランド
「林業というと、男性的なイメージを持っている方が多いんじゃないでしょうか。『普段、木材に馴染みのない女性の方や若い方、都会に住む方にも、コスメだったら親しみがあるんじゃないか。そういったものを通じて国産木材に触れてもらうことができたら』という想いがありました。
ハンドクリームやバスソルトなどは、母の日や日々のちょっとしたギフトになっていて、meet treeの商品をもらった方が、次に自分が贈り物をするときに選んでくれたりと、連鎖が生まれているんです。消耗品ということもあって、リピートして使ってくださる方も多いですね。
木材価格の下落が続き、林業従事者が減少し、人口減少によって住宅需要が低下するなど様々な問題を抱える中で林業経営を続けていくためには、なかなか地元だけで商売をするのはむずかしく、都会や海外に向けた商材を作りたいという考えもありました。その点では、コスメというのは都合が良いんですね。丸太は簡単に送ることができませんが、化粧品やハンドソープなら海外にも簡単に送ることができますから」

meet treeというブランド名の由来とそこに込められた想い
「meet treeのある岐阜県中津川市は、日本三大美林としても知られ、伊勢神宮にも奉納される木曽桧の産地です。“桧”という字は、“木(tree)”に“会う(meet)”と書きます。meet treeはブランド名でもありますが、生活の中で“木に触れ合う”という行為自体が、“meet tree(木に会うこと)”だと考えています。単に建物や家具としての木材に触れることだけではなく、森林の癒やしの効果を求めて森に行くことも、木になる果実をいただくことも(meet treeのカフェでは栗を使用したスイーツも販売している)、“meet tree”なんじゃないかと思っているんです」

「山がフィルターの役割をして水をきれいにしてくれたり、山から流れ出た栄養素が木曽川を通じて伊勢湾に流れることで良い漁場が生まれていたり…、意識していないところでも、私たちの生活は森林と密接につながっています。
“meet tree”という言葉は、今では精油の事業だけでなく、マルヤマグループ全体で大切にしている考え方のひとつになっています。meet treeは、まだ苗木のように小さい事業ではありますが、もしかしたら今後、マルヤマグループ全体を牽引していく事業となるかもしれません。どこかでmeet treeを知って、それがきっかけで丸山木材で国産材の家を建ててくれたら本望です」
木々に囲まれた地域でありながら、輸入材に依存する状況に違和感を覚え、山に入ったときの気付きから生まれた、meet treeの取り組み。国産材を使った精油は、日々の暮らしに寄り添う化粧品として、少しずつ浸透してきています。ヒノキの香りのように、誰もが軽やかに国産材に触れ、関心を持つことが、国産材の普及や地域経済の発展へと広がっていくのかもしれません。
(2025年4月15日 オンライン取材)
丸山木材ホールディングス株式会社 https://www.maruyama-g.co.jp
岐阜県中津川市で1916年に創業し100余年、木材加工業からスタートし、木材関連事業や電子基板製造、道路関連事業、ホテル事業、子育て事業にいたるまで幅広く事業をおこなう総合企業。