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新林

木への愛着を育み森へつなげるショールーム 「MARUHON FUKUOKA」

「MARUHON FUKUOKA」外観

福岡市の閑静な住宅街に建つ一軒の木造建築。「MARUHON FUKUOKA」と名付けられた楕円形の建物は、静岡県浜松市に本社を置く無垢木材専門メーカー株式会社マルホン(以下、マルホン)の福岡ショールームとして2019年に竣工しました。建物をぐるりと取り囲む外壁材や内装材、構造材に至るまで、使用する木質建材にFSC®※1認証材を採用し、九州で初のFSC®プロジェクト全体認証(FSC®N004710)を取得しています。今回は、「MARUHON FUKUOKA」のプロジェクトを担当した株式会社マルホンの大山 優さんを訪ね、FSC®プロジェクト全体認証の取得した理由や、取得までの道のりについてお話を伺いました。

※1 FSC® (Forest Stewardship Council®:森林管理協議会)
環境保全、社会的な利益、経済的な継続性の観点から、持続可能な森林管理を世界に普及させることを目的とした国際的な森林認証制度。森林を対象としたFM(Forest Management)認証、加工・流通業者を対象としたCoC(Chain of Custody)認証、単体の建築物や船、イベント構造物などを対象としたプロジェクト認証(全体認証・部分認証)がある。


株式会社マルホン 人事部 大山 優さん
2014年入社。東京ショールームにて約6年間勤務。福岡ショールーム(2020年)、大阪ショールーム(2021年)の立ち上げを担当し、FSC®プロジェクト認証の取得に携わる。


環境に配慮した木材を調達するために

ショールームの中に入ると約400種類の豊富な木材サンプルが棚に納められている

マルホンが建物のオーナーとして「FSC®プロジェクト全体認証」の取得を決めたきっかけは何だったのでしょうか。

弊社は、長年にわたり国内外の木質製品を扱う企業として、環境保全活動と持続可能な木材資源の保持に早期から取り組んできました。2006年にはより良い森林管理を支援する観点から、FSC®(FSC®-C004392)及びPEFC※2(PEFC/01-31-15)のCoC認証を取得し、認証材の取り扱いを積極的に増やしています。

2016年には、独自のデューデリジェンスプログラムに基づく木材調達プロセスを導入し、認証がない木材であっても、取り扱う全商品に対して合法性に関するリスクの評価を行っています。弊社は他社を介さず直接サプライヤーから木材を買い付けていますので、定期的に木材調達先に足を運び、現地の状況を確認しています。その結果リスクを排除できないものは、主力樹種であっても取り扱いを停止するという厳格なルールを定めています。

大山 優さん

とはいえ、認証材に関わる担当者は従業員のごく一部でしたので、それ以外の従業員にとっては、あまり身近なものではなかったように思います。そんなとき、新設が決定したマルホン福岡ショールームでも、認証を取得しようという企画が持ち上がったのです。FSC®認証商品を売る立場として、自社ショールームも認証材でつくることは必然的な流れではありましたが、同時に社内の意識を高め、FSC®認証を知らないお客様に対しても、森林や木材の現状を伝えるきっかけになればと考えました。

※2 PEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification Scheme:森林認証制度相互承認プログラム)
持続可能な森林管理の実現を目的とした世界最大規模の森林認証制度。世界各国の認証制度との相互承認を行い、国際基準と国別の基準を融合させた国際的な森林認証制度として各国から賛同を得ている。

※3 デューデリジェンスプログラム(Due Diligence Program:適正詳細調査)
リスク(マルホンの場合は、木材の合法性や森林の環境保全に係るリスク)を詳細に調査する手続きのこと

入口のハードルは低くゴールは遠い

2019年当時、国内で13例目、九州では初の「FSC®プロジェクト全体認証」だったそうですが、資材の調達や認定の取得は順調に進んだのでしょうか?

木質製品を扱い、早期に認証材を調達していた弊社としては、他のオーナーさんと比べると、挑戦するハードルはやや低かったと思います。

建物の外壁材と柱には、弊社が本社を構える静岡県浜松市の天竜杉(FSC®認証材)を使用しました。天竜杉は、浜松市や森林組合などで構成される天竜林材業振興協議会が全国的にもかなり早い時期にFSC®のFM認証を取得しています。また製材所など市内の木材に関わる約80団体がCoC認証を取得していますので、プロジェクトを進める上で非常にやりやすかったですね。

また、弊社の商品はほとんどが無垢材ですが、挽板(合板の表面に2〜4mmの無垢材を貼ったもの)も取り扱っています。今回のプロジェクトでは、ショールームを取り囲む棚板部分に合板を使用していますが、そこには挽板の基材として使用しているFSC®認証材の合板を使用しました。

ただ、例えば石膏ボードのような一部に木質原料を含む複合系の材料に関しては、調査と調達にかなりの時間を要しました。

CoC認証のチェーンをつなぐ

具体的にはどういった場面で苦労されましたか?

プロジェクト全体認証を取得するには、適正な流通経路を経た認証材を使うことはもちろん、非認証の材料と混同しない建築工事を行うことが必要です。木材の調達自体は弊社の商品のFSC®担当者と連携して進めましたが、調達先が決定してからも、CoC認証のチェーンをつなげるために担当者が調達先に出向いて確認したり、建設現場の大工さんに対してプロジェクトの周知を徹底したりと、通常にはない業務がありました。

例えば、現場で木材が1枚足りないような場合、通常であれば、現場で同じような材を調達して対応することはよくある話です。ところがこのプロジェクト認証では一発アウトになってしまいます。そうならないように「FSC®とは何か」というところから周知を徹底し、設計士さんも頻繁に現場で確認していただきました。建築自体も個性的な形状ですから、現場の方は慣れない仕事が多くご苦労をおかけしたと思います。もちろん、私たち施主も工程ごとに現場に足を運び、施主検査を実施しました。

また竣工後は、FSC®認証機関の審査員による審査を受けます。チェックリストに沿って建物を審査するほか、プロジェクトに関わるすべての取引先とのFSC®認証材の購入関連伝票を照合し、検証が行われます。そのため取引先に対して書類を提出していただくようお願いしなければならないのが大変でしたね。

木への愛着を育み森への関心につなげるには

木材サンプルで埋め尽くされた棚

建物のオーナーとしてプロジェクト全体認証にチャレンジし、どのような成果が得られましたか?

「MARUHON FUKUOKA」が九州初のFSC®プロジェクト全体認証ということもあり、世間から注目していただく機会が増え、認証材や環境に配慮した木材に着目していただけるオーナー様も少しずつ増えてきました。建築に興味を持ってご来店いただくことも多く、お客様の滞在時間は全国のショールームの中で一番長いのです。そういった意味では、「MARUHON FUKUOKA」が弊社の取り組みのアイコンのような役割を果たしていますし、弊社の信頼の証にもなっていると思います。

草木染めの手法で染色した天竜杉の外装材

社内においては、外装材に使用している天竜杉のFSC®認証材を、草木染めの手法を用いて社員総出で染色したことで、作業を通じてショールームに対する愛着が生まれ、FSC®認証材や環境保全への意識も高まりました。

そして「MARUHON FUKUOKA」の取り組みが、木材を利活用するプロジェクトへとつながっています。ナラ枯れ材を活用したフローリング材や、自社製品の製造過程で出る余剰材を活用したフォトフレームなど、環境に配慮した商品を通じて、お客様が森林や環境問題に関心を持つきっかけになればと思います。

「MARUHON FUKUOKA」の壁一面に並んだ木材サンプル。世界中から厳選された無垢材に満たされ、木の香りや色、肌ざわりを感じていると、自然と木への愛着が湧いてきます。この愛着こそが木から森へと私たちの関心をつなぎ、森を守ってくれるものなのかもしれません。(2025年4月16日 株式会社マルホン本社にて取材)


◾️マルホン 福岡ショールーム
810-0028 福岡県福岡市中央区浄水通5-1 / TEL.092-406-9236
営業時間:10:00 – 18:30 (オンライン来場予約にて要予約)
休館日:水・木(祝日を除く)

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