実践編 森を歩いてみた 東海自然歩道
出発の前に
いよいよ実践編です!事前にコースを入念に検討し『①日帰りで行ける②公共交通機関で行ける③中間地点で折り返さない』という条件に合致した、岐阜県恵那市を跨ぐ1セクションを日帰り日程で歩いてみます。今回は南端の明智鉄道岩村駅をスタートし、ゴールのJR武並駅まで約22kmの区間を6時間程度で歩く予定です。


具体的な行動計画を立てる上で、最近では登山アプリなどから同じコースをたどったハイカーの記録が見れる場合が多いので、大まかな行程の目安として参考にしながら安全第一で計画しましょう。
この日はYAMAPというアプリを使用して道中のルートを随時確認していました。事前に地図をダウンロードしておくことで電波の届かない深い森の中でもGPSによる位置情報を正確にマップ上に表示してくれ、この先の移動経路や到着にかかる時間などを見ることができる、現代のハイキングに無くてはならない存在です。
10:00 活動開始!

始発の電車を乗り継ぎ午前10時に岩村駅から出発です。3月下旬の気温20℃湿度40%、絶好のハイキング日和。今回は新林編集部で本記事を書く鈴木(写真右。登山歴5年、ハイキングは初心者)と普段は設計事務所勤務でガイドの岩田貴昭さん(写真左)の二人でのハイキングです。初心者であればあるほど複数人での行動を心がけましょう。出発する際にはアプリから登山計画を提出した上で記録をスタートさせます。

今回は現地まで電車移動だったこともあり、持ち物はなるべく軽量コンパクトを意識して合計重量5.6kgで臨みます。基本の装備はトレッキングシューズに厚手の靴下、通気性の良いトレイル用パンツ、速乾性のシャツに薄手のアウトドアジャケットでスタート。寒くないけど汗もかかないちょうど良いラインを目指して脱ぎ着のしやすいものでまとめています。
バックパックとポーチに入れた持ち物は『着替え/防寒着/軽量折りたたみ傘/手拭い/水筒/予備の水筒と浄水器/常備薬/絆創膏/温度計/トレッキングポール/ヘッドライト/撮影用のカメラとドローン/食料』です。
今回は日帰りの予定ですが、食料に関しては不慮の怪我や遭難で帰れなくなることも想定して少し多めに用意しています。
10:30 歴史を辿る

岐阜県内の東海自然歩道は分岐ごとにしっかりとした道標が立てられていて、基本的にはこれを辿っていけば大丈夫といった具合に歩道が整備されていました。一般的な登山道と違い、自然歩道は森や山と人里の境界を出入りすることが多々あります。民家の裏道を通って森へと入り、森を抜けたと思ったら田畑が広がっていたり、場合によっては硬いアスファルトの道を数キロ歩くことも。さまざまなバリエーションの地面を歩くにあたり、一般的なスニーカーではソールが柔らかすぎて足の裏の負担が大きくなるため、トレッキング用などの専用シューズを履きましょう。
道中には史跡や巡礼の一部になっていることも多々あるようで、その痕跡や看板などを読み込むことも、自然歩道を歩く醍醐味のようです。

11:30 小川で小休止

しばらく歩いていると歩道脇に綺麗な小川が流れていたのでここぞとばかりに水分を補給しました。今回はボトルに取り付けられるポータブル浄水器を使用しています。意外なことにも浄水した水は驚くほど無味無臭で美味しいです。相対的に普段何気なく飲んでいるミネラルウォーターや水道水がいかに何かしらの味があったのかと気付かされます。なお生水を直接飲む行為は衛生上の問題があるため避けましょう。細菌由来の下痢や嘔吐は脱水症状の原因となり、命の危険にも繋がります。
13:30 ひたすら歩く

今回は日帰り計画のため暗くなる前にゴールまで歩き切る予定です。長いお昼休憩を挟むよりも歩くことを優先して、食事も歩きながら済ませることに。行動食と呼ばれる小さく高カロリーなものをいくつか食べながら移動距離を稼ぎます。ちなみにこの日の鈴木の行動食はおにぎり、ひとくち羊羹、ラムネ、栄養ゼリーなど。

歩き始めは慣れない山道に注意を払いながら歩き、ルート確認などでも手間取っていましたが、何キロも歩いているといつの間にか路面のよくない道でも自然に歩けるようになってきました。代わりにそれまで見えていなかった、ふとした景色や人の営みの気配や鳥のさえずりなどをどんどん感知できるようになってくる感覚がとても心地良いです。虫探しの達人は「虫目」を持っていると聞くけれど、森歩きの人たちもきっと森目や森耳を持っているのだろうなと思いながら、少しずつ森が身体化されていくロングトレイルならでは経験を噛み締めます。
15:30 危機との遭遇

そんなことを考えながら土と雑草の道中を順調に進んでいると、視界の隅に違和感を感じて歩みを止めます。よくよく注視すると明らかにオーラのある蛇が尾を振り威嚇しながらこちらを伺っていました。調べてみると案の定「ニホンマムシ」という日本中に生息する毒蛇。枯草や土と体色が似ているため存在に気づかず間近を通って襲われるケースが多々あるようで、今回も一歩間違えば踏むか噛まれるかの、まさしくヒヤリハットの一瞬でした。森歩きの楽しい面だけでなくこんな危険にも出くわしたことで、改めて普段いかに自然と距離のある都市生活を送っているか考えざるを得ません。蛇の脇を静かに通り過ぎながら、これも森目になってきたからこそ気づけた危機でもあるのかなと、そっと胸を撫で下ろしました。


無事に蛇を乗り越え倒木に腰掛けひと休みです。この時点で歩き始めて18km。行動食と水分を補給しながらマップ上で残りの行程をたどり、明るい時間にゴールに到着できそうなことを確認します。
16:15 ラストスパート!

森の裾野を抜けて国道沿いの道をずんずん進んでいくと、頭上にゴールの武並駅への看板が!いよいよラストスパートです。しかしここにきてアスファルトの硬い路面が疲労感を高めます。それまで歩いてきた土や落ち葉の道が足裏へのショックを吸収してくれていたことを痛感させられました。山道と違って歩きやすいはずなのに、平坦で硬い道を延々と歩く方が実はしんどいというのは、長距離を歩いてみて初めてわかる発見でした。

6時間半ひたすら歩き、ようやくゴールの駅舎に到着です。ただ黙々と歩いていただけなのに、何かすごいことをやり遂げたような感慨と充実感が思いのほか込み上げてきます。今回はたった1セクション22kmを「ただ歩くだけ」でしたが、歩みを進めるにつれてじわじわと自然と身体が交わる感覚を味わい、すっかり長距離自然歩道の虜になってしまいました。何か特別な技術や過酷なトレーニングがなくても、足元に注意を払い歩き出すだけで、これほど深く自然と繋がり自分自身を満たすことができることは驚きでした。もし日常の都市生活に少し疲れを感じたら、皆さんもぜひ近くの自然歩道やトレイルに足を運んでみてください。もしかしたらあなただけの歩く楽しみを見出す瞬間があるかもしれません。
今回の歩行ログはこちらで公開中!





