メイン コンテンツにスキップ
新林

春は野草を摘みに 〜柳沢教授の有用植物実習〜 ③実食編

岐阜県立森林文化アカデミー(以下、アカデミー)の柳沢 直教授と一緒に里山へ出かけて野草を摘んだ前回。フジの花やタンポポ、スギナなど、「これ本当に食べられるの?」と思う植物もカゴいっぱいに持ち帰り、校内の調理室へ戻ってきました。座学で教わった「野草と山菜は神様とミジンコくらい違う」という教授の言葉にドキドキしながら、いざ実食です。


柳沢 直(やなぎさわ なお)
岐阜県立森林文化アカデミー教授。
京都府舞鶴市出身。京都大学理学部卒業。京都大学生態学研究センターにて、里山をフィールドに樹木の生態を研究。博士(理学)。専門は植物生態学。新林にて人気エッセイ『森の舞台の役者たち ~植物の暮らし拝見~』『里山よもやま話 〜人と植物が暮らす社会〜』を連載中。


野草料理をつくってみよう

これからノビル味噌と、おひたし、天ぷら、よもぎ餅をつくります。
まずはノビルの根を切って、薄皮を剥いてください。ノビル味噌は、ノビルの球根と味噌、砂糖を混ぜるだけですが、ご飯に乗せても、酒の肴にしてもおいしいです。本当は一晩置くと味が馴染んでおいしいですよ。

ノビル味噌

オオバタネツケバナ、ウシハコベ、セントウソウは茹でておひたしにしましょう。スギナとフジの花、タンポポ、ノビル、それから、コシアブラも天ぷらにしたいと思います。

コシアブラはタラノメやウドと同じウコギ科の落葉高木です。その若芽は爽やかな香りとほのかな苦み、コクが揃った「山菜の女王」とも呼ばれる人気の山菜です。

今日歩いた林のさらに奥に、演習林の小規模皆伐実習の実習地があります。そこにこのコシアブラが生えていました。どうせ伐られてしまうなら先に伐って材を使いたいという学生がいたので、昨日その学生と一緒に演習林に行ってきたんです。学生は根元の根曲がり材を使って飾り炭をつくると言っていたので、じゃあ私は上を貰うねと言って、枝葉の部分を採ってきました。

コシアブラ

もう2週間早ければタラの芽のような新芽を採れたのですが、もう葉っぱが大きくなっていますね。コシアブラの良いところは、伐採して終わりではなく、切り株からまた新しい芽が出て何年か経ったら採集できるということです。演習林付近には天然記念物のカモシカが出没するので、カモシカに食べられなければの話ですが。

よもぎ餅

私たちが調理室を占拠していると、学生さんたちが覗きに来てくれました。「私もコシアブラのおひたしをつくったんです。食べてみますか?」とお裾分けをいただき「よもぎ餅も多分余りますよ!」とお伝えしながらせっせとお餅を丸めていきます。

— 学生さんたちも、日頃から山菜料理をつくるのですか?

さっき顔を出した子は、アカデミーに入るまで料理経験はなかったけれど、入ってから料理に目覚めたみたいです。果実酒を漬けたり、山菜を食べたりしていますよ。授業できっかけをつくると、あとはみんな勝手にやっていますね。

アカデミーで教わったことが、学生たちの生活にそのまま活かされている様子や、教授との楽しげなやり取りにほっこりしながら、限られた時間内で次々と調理をしていく新林編集部員たち。体力では学生に敵わないものの、調理の手際は学生より上だと褒められ、どうにか時間内で全ての料理をつくることができました。

野草料理を食べてみよう

出来上がった料理を見てみると、改めてその品数に驚かされます。野草を摘むのに使った時間はたったの1時間程度。それでこれだけの料理ができるのなら、上出来じゃないでしょうか。あとは肝心の味を確かめるだけです。

— フジの天ぷらは最後にフルーティーに抜ける香り。さすがフジって感じですね。

スギナも香ばしく揚がっていますね。

— ノビルの球根の天ぷらもおいしいですよ。ちょっとニラっぽくてモチッとしています。

天ぷらにノビル味噌を付けて食べてもおいしいですよ。

タンポポの天ぷら

— 味噌タンポポおいしい!スギナも味噌が合いそうな気がします。タンポポの天ぷらは色が綺麗でかわいいですね。

確かにこの緑色はかわいい。そういう目で見たことはなかったですね。タンポポの花の天ぷらはほんのり甘くて好きです。

(左)オオバタネツケバナ(中央奥)ウシハコベ(右前)セントウソウ

ウシハコベは癖がないから青い野菜が苦手な人でも食べられそうですね。オオバタネツケバナはピリッと辛くて味はもうほとんどクレソン。セントウソウはコリアンダーに似ているというお話がありましたが、どちらかというとセリやミツバっぽい。香りが優しいです。

個体によって味に違いがありますね。

よもぎ餅

— 最後によもぎ餅をいただきます!香りがフレッシュでおいしいですね。ハーブっぽい風味がします。

最後にクロモジの新芽のハーブティーとよもぎ餅で締めれば完璧だったかな。

— 最初に先生が脅かすので、もっとまずいものがあるのかと思っていましたが、今日いただいた野草は全部食べやすくておいしかったです。

この10年ぐらいで蓄積された有用植物実習の経験を元に、まずい野草はみんな外して、残ったものがここに並んでいます。とはいえ、おいしいのがもうあと数種類あるかな。まずい野草などと失礼なことを言ってきましたが、調理法や採集時期によってはおいしくいただけるものが相当数あるはずです。今後調理法などを工夫する必要がありますね。今日食べた中で1番入手が難しいものはコシアブラです。あとの野草の入手は比較的容易です。おいしさは皆さんで判断してください。

「食べる」が自然と関わる第一歩

みなさん、いかがでしたか?今日の体験を通じて、わざわざ山奥まで貴重な山菜を採りに行かなくても、身近に食べられる野草があるということに気づいてもらえたらいいなと思います。「身近な自然」と言っても、自分から関わらないと、その存在に気づかないものです。食べるというのは一番手っ取り早い「自然との関わり方」です。そして「食べたい」という欲望が大事なんです。欲望というのは、どちらにも働くので、倫理観の裏付けがない欲望は資源を使い潰して終わるのでNGです。資本主義社会で利益の追求に傾くとそうなりがちですよね。そうではなくて、どうにかして食べたいという気持ちが、毎年収穫するにはどうしたらいいのか考えるとか、その山に対する関心につながっていくとよいと思うんですよね。

用意された山菜を買ってきて食べるのではなく、自分で生えている場所を見つけて採るというのが、自然に関わる第一歩です。自分が生活する場所にどんな資源があるのかを把握しているということは、自分の生活の基盤が周囲の自然の上に成り立っていて、その自然がちゃんと守られている限り、自分の生活も守られる、といった安心感につながっていると僕は思っているんです。あ、そうそう、もちろん山には持ち主がいるので、断りなく闇雲に山菜を採集してはいけません。

自然に目を向ける暮らし方

またそうした自然と共にある暮らしが、本当の意味で「文化」として「山を使う」ということなんじゃないかなと思います。うちのアカデミーは、学校名に「森林文化」を冠する教育機関ですが、よく間違って「森林アカデミー」って省略されてしまうんですよ。林業も文化を抜いてしまうと単なる効率重視の産業になってしまいますが、文化の上に成り立っている生業や暮らしは、時代や環境が変わっても無くしてはいけないんじゃないかな。

林業のように生業として山と関わらなくても、別の仕事を持ちながら農業をする、あるいは山と関わる生活をすることは可能です。例えばわが家でも、初夏はクワの実、秋はブルーベリーの仲間のナツハゼ、12月はフユイチゴを採ってジャムにします。そうすると「そろそろクワの実が成る季節かな」と気になりますし、ちょっとしたことですけど、常に自然に目を向ける暮らしのサイクルができてきます。でもこれを1億2千万の人がやると、資源の取り合いになってしまいますけどね。本当にわがままなこと言うと、自分だけが採れる場所を知っていて、資源取り放題っていうのが理想です(笑)。でもそうならないように昔はコミュニティごとにルールがあったわけです。それも「森林文化」の一部かもしれませんね。

桃太郎のお話に出てくる「お爺さんは山へしばかりに」という有名な一節。この「しばかり」が「芝刈り」ではなく、「柴刈り(燃料用の枯れ枝を集めること)」と書くことを私が知ったのは、実は大人になってからでした。桃太郎のお爺さんは、山へ柴刈りに行くついでに、山菜や木の実、きのこなどを採って帰ってくることもあったでしょう。ところが、子どもの頃は「柴刈り」という言葉がよく分からなかったので、そんな山の情景も頭に浮かばないまま、お話を聞いていたように思います。そして、かまども火鉢も必要無い現代の暮らしは山をどんどん遠ざけていき、「柴刈り」という言葉と一緒に山の様子を知る機会も無くなってしまいました。

今からかまどや火鉢の生活に戻すことはちょっと難しいですが、教授のように「おじさんは山へジャム用の木の実を採りに」なら楽しそうです。「おばさんは道端にタンポポやスギナを採りに」ならすぐにでも始められます。今回の野草摘み体験ですっかり自信をつけた私たちのように、みなさんも「食べておいしい、自然への第一歩」をぜひお試しください。

(2025年4月25日 現地取材)


執筆者 神尾知里
兵庫県出身。結婚を機に天竜杉で知られる浜松市に移住。浜松市の書店「BOOKS AND PRINTS」の勤務を経て執筆を開始。2020年より新林編集部のライターとして全国の林業地をまわり、森林文化を育む人たちを取材している。

関連記事

ページの先頭へ戻る Copyright © Nikken Sekkei Construction Management, Inc.
All Rights Reserved.