春は野草を摘みに 〜柳沢教授の有用植物実習〜 ②採集編

「野草を摘んで食べてみたい!」と企画した春の野草摘み体験会。前回、岐阜県立森林文化アカデミー(以下、アカデミー)の柳沢 直教授の講義を受けた新林編集部は、いよいよ教授と一緒に野草採集へ出かけることになりました。アカデミーの周辺には、どんな野草が自生しているのでしょうか?

柳沢 直(やなぎさわ なお)
岐阜県立森林文化アカデミー教授。
京都府舞鶴市出身。京都大学理学部卒業。京都大学生態学研究センターにて、里山をフィールドに樹木の生態を研究。博士(理学)。専門は植物生態学。新林にて人気エッセイ『森の舞台の役者たち ~植物の暮らし拝見~』『里山よもやま話 〜人と植物が暮らす社会〜』を連載中。
タンポポの葉はレタスみたいなもの

アカデミーの校舎を出ると、田んぼや畑が連なる里山の風景が広がっていました。食べられる野草を採集するには、林の奥まで行くのだろうと勝手に想像していました。ところが出発してわずか数分、教授が最初に足を止めたのは、誰もが知っているタンポポの前でした。

まずは近場のタンポポからどんどん採っていきましょう(ここでは在来のタンポポも外来のタンポポもひとまとめにタンポポとして扱います)。タンポポの根っこはタンポポコーヒーになりますし、地上部は花も葉っぱも食べられます。タンポポはレタスと同じキク科なので、どちらもちぎると白い汁が出たり、食べるとちょっと苦かったりします。セイヨウタンポポは、ヨーロッパではサラダ用の栽培品種があるほどです。葉っぱはレタスみたいなものですから、サラダにして食べてみてください。花は天ぷらがいいと思います。在来種もセイヨウタンポポも同じように食べられますが、綿毛は食べない方が良いでしょう。
マメ科は食べられる野草が多い

— 先生、カラスノエンドウって食べられないんですか?
タンポポを摘んですっかり童心に返り、どうしても知りたかったことを質問してみました。
カラスノエンドウは全草※1食べられますよ。マメ科は食べられるものが多く、スミレもシロツメクサも食べられます。コクがあるものが多い印象ですね。一方でマメ科植物は共通してレクチンという毒を含んでいます。よく加熱して食べましょう。
全国の子どもたち、カラスノエンドウもシロツメクサも食べられますよ!(しかし教授は「おいしい」とは言っていない)個人的には、この事実がこの日一番の衝撃でした。
※1 全草:植物のすべての部分(花、葉、茎、根など)を指す言葉
スギナで目くじらを立てる人はいない(と思う)

教授の解説付きで歩くと、これまで気にも留めなかった植物の輪郭が途端にはっきりと、そして生き生きと目に飛び込んできます。次のスギナも、タンポポと同じくらいどこでも見ることができる植物です。
ツクシを採ったことがあるという人はいると思いますが、実はスギナも食べられます。スギナはお茶にすることが多いですね。今日はお茶にしている時間がないので、天ぷらで食べましょう。スギナを採っていても、スギナで目くじら立てる人はほぼいないので(個人の見解です)、気楽に採れるのが良いですね。でも近くの田んぼで作業している人がおられたらひと声かけてから摘みましょう。そのほうが安心です。

食べられると聞いた途端、おいしそうに見えてくるから不思議です。みんなでせっせと摘み始めました。
本日のスター野草

さて、次は今日のスター野草のひとつ、ノビルです。よっしゃ!見てください、この太さ!俄然力が入りますね。この白い球根が特徴です。球根が付いていて、しかもノビルの匂いがしていたら、もう間違いなくノビルですよ。匂いは大事なので必ず確認してください。
教授が足を止めた場所は、以前から目を付けていたノビルが群生する一角。青ネギのような細長い葉が休耕田の縁(へり)を覆っていて、教授のテンションの高さからも、ここがノビル採集の穴場であることがわかります。
ノビルは学生たちも狙っている人が多いんです。ここは普段収穫していないから、球根が大きいですね。

ノビルの採集は、なるべく根元を持って、途中で切れないように「いい塩梅」でそっと引き抜くのがコツ。掘り方で性格が出るそうです。
途中で切れてしまっても、全草食べられるので大丈夫ですよ。葉っぱの味はネギとニラの中間ぐらいですね。茹でると匂いが飛んでしまうので、生のまま刻んでラーメンの上に乗せるなど、薬味的に使うといいと思います。球根を生のまま味噌を付けてかじるとすごくおいしいですよ。
— 良く見たらノビルだらけですね。一度見つけたら全部見えてきますね。
それには理由があるんですよ。ノビルの親球根には、小さな球根が付いていることがあります。それがポロッと外れると一個体増えます。そうして時間をかけて大きな群落になるんです。ワラビは地下茎で増えていくので、ひとつ見つけると周りにつながっていて見つけやすくなります。ちなみにタラノキもそうです。タラノキは樹木のくせにタケノコみたいに地下茎が広がるので、1本見つけると周りに小さな個体が地面から生えているのを見つけたりします。
フジは蕾がおいしい

田畑の間の道を通り抜け、田畑と林の境目となる「林縁(りんえん)」までやってきました。林縁に蔓(つる)植物が多いということは、先生の新連載『里山よもやま話 〜人と植物が暮らす社会〜 #1 最強のツル植物① 空き地の暴れん坊将軍 “クズ”』で習ったばかりですが、今日狙うのはクズではなくフジ。確かに、林縁のあちこちでフジの花が咲いています。

フジは花の蕾を食べますが、開花のタイミングがなかなか読めなくて、もうだいぶ咲いてしまいましたね。花はポロポロと落ちてしまうので、先っぽの蕾の部分を天ぷらにして食べましょう。お花も飾り用に少し採っておきましょう。

フジもマメ科なのでコクがあります。フジの花は同じマメ科のスイートピーと似たような形をしています。これはもともと5枚の花びらだったものが一部くっついて、このような形になったんです。
水辺の野草を探して

田んぼや畑の縁(へり)といった日当たりの良い場所で採集を始めた私たちは、フジが自生する林縁へ移動し、最後の目的地として、アカデミーの演習林がある人工林の中までやって来ました。
これから山の沢沿いのような、水気が多くて暗いところに自生している野草を探しに行こうと思います。この辺りを歩いていると、山の中まで来たみたいな雰囲気ですが、実はアカデミー周辺の里山から結構近くです。

これがウシハコベです。春の七草のハコベの仲間ですが、「牛」と名前が付いているだけあって、葉っぱが大きいのが特徴です。水辺でなくても少し湿って日当たりのよいところに普通に生えています。今日はサッと茹でて食べましょう。

これはセリ科のセントウソウと言います。水気のある湿ったところに生えています。ちょっと嗅いでみてください。香りがコリアンダーに似ていませんか?ミツバにも似ていますね。セリもミツバもコリアンダーもセリ科です。

今度はこれを花ごとガブって食べてみてください。
— あ!辛い!

これはアブラナ科のオオバタネツケバナです。水辺に生えていて、ワサビのようなピリッとした辛味があり、和製クレソンと呼ばれることもあります。ちなみにワサビもアブラナ科ですよ。
野草摘みは鼻が大事
教授が狙っていたセントウソウとオオバタネツケバナも無事見つかり、アカデミーの校舎に戻りながら、最後に学内に生えていたヨモギを摘んで帰ります。

ヨモギはあと1ヶ月もしたらアブラムシだらけになりますから、遠慮なく採りましょう。採る時は根本からではなく、ポキっと簡単に採れる柔らかいところで採ってみてください。ワラビなどの山菜の採り方と一緒です。ヨモギもノビルのように匂いで見分けてください。ということは、鼻が詰まっている時に採るのは、ある意味危険かもしれないですね。

この日採集した野草はタンポポ、ノビル、スギナ、フジ、ウシハコベ、セントウソウ、オオバタネツケバナ、ヨモギの8種類。
どうにか採れましたね。本当のところ、野草摘みをするなら2週間前がベストでした。ただ、フジの花を採りたければ今ですね。でもタラノキとかコシアブラを採ろうと思うとあと1週間か2週間前がよかったです。
—「食べられる」と思うと、植物を見る目もなんだかギラギラしてきて、ついつい夢中になって採ってしまいました。
でも「食べたい」という欲求がじつは大事なんですよ。ちょっと大げさな言い方をすると、その欲望が人と自然をつなぐと私は思っています。やりすぎはいけませんけどね。じゃあ、校舎に戻ってさっそく調理してみましょう!
次はいよいよ実食です!(実食編につづく)
出会った有毒植物



センニンソウ
キンポウゲ科の毒草。全草にプロトアネモニンと呼ばれる有毒成分を含む。葉や茎の汁が皮膚に付着すると肌の弱い人ではかぶれを起こす場合がある。
スルガテンナンショウ
サトイモ科の毒草。マムシグサの仲間。サトイモ科に多いシュウ酸カルシウムという毒を含む。
ムラサキケマン
ケシ科の毒草。紫色の花が咲く。全草にプロトピンと呼ばれる毒を含み、誤って食べると嘔吐などをひきおこす。
(2025年4月25日 現地取材)

執筆者 神尾知里
兵庫県出身。結婚を機に天竜杉で知られる浜松市に移住。浜松市の書店「BOOKS AND PRINTS」の勤務を経て執筆を開始。2020年より新林編集部のライターとして全国の林業地をまわり、森林文化を育む人たちを取材している。