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新林
今、木を伐る理由② 防災の関連画像

シリーズ今、木を伐る理由② 防災

国土の2/3を森林が占める日本において、自然災害から山林と人の暮らしを守る方法とは?

都市の暮らしを守り、人と山の関わりを結び直す 神戸市役所・建設局防災課/田村悠旭さん

今、木を伐る理由② 防災

兵庫県南東部に位置する神戸市は、東西に約30kmにわたって六甲山系が連なり、海と山に挟まれた街として知られている。その神戸市では、2012年から「六甲山森林整備戦略」(*1)を掲げ、六甲山系をはじめとする市内の森林整備や、六甲山材の活用を推進しているという。街中からのアクセスが良く、緑豊かな憩いの場所として市民に親しまれている六甲山には、どのような森林整備が求められているのだろうか。

都市部から見た現在の六甲山系(写真提供:一般財団法人神戸観光局)

はげ山から都市山へ

「今日は新幹線ですか?新神戸駅の北側もすぐ山の斜面になっていますが、そこも土砂災害や倒木があると駅舎や人に影響が出るということで、神戸市が2012年度に森林整備を実施したところなんです」(*2)

お話を伺ったのは、神戸市建設局防災課の田村悠旭さん。防災課では、六甲山系をはじめとする市内の森林整備に関する調査、計画の策定などを行っている。

「六甲山系は広葉樹林の緑によって、一見するとまるで手つかずの自然が広がっているように見えますが、じつは江戸時代以前から続いた乱伐や利用によってはげ山になった歴史があるんです。明治に入ってから大規模な植林事業を展開したことで、時間をかけて再生したのが今の姿です」

神戸市建設局防災課の田村悠旭さん

神戸の市街地は、水害や土砂崩れ、大地震による山腹崩壊など、これまでに幾度となく自然災害に見舞われてきた。山を健全に保つことが都市の暮らしに直結している神戸市では、120年も前から治山事業や砂防工事に取り組み、現在では六甲山系だけで大小2000機もの砂防ダムが存在するという。また防災事業と並行して道路や電気のインフラの整備、観光開発を進めてきた六甲山系は、都市生活と深く関わり、防災、環境、景観などさまざまな役割を果たす「都市山」として市民に愛されてきた。

調査で明らかになった植生の変化

「六甲山系には、わずかに残っている自然林や、裏六甲にスギ・ヒノキが広がる人工林もありますが、その多くははげ山になってから再生した二次林です。人の手で作り上げて回復してきた森林の状況を調べるのは非常に大切だということで、神戸市では1974年から5年に一度の森林調査を「再度山永久植生保存地(*3)」で続けています。この調査結果を見ると、50年前は中低木が多く、照葉樹林、夏緑樹林など多様な樹種によって森林が形成されていたのに対し、現在では照葉樹林化が進み、樹高が高い木ばかりになってきたことがわかりました。林冠(*4)が閉鎖された林内は、光が届かなくなったことで下層植生が育たず、表層土の保全や生物多様性の維持が困難になり、防災上の懸念も出てきたのです」

六甲山の樹林構造 出典:神戸市(再度山永久植生保存地調査報告書より)
図上:樹高と被度のグラフ  図下:樹種の変化の概略図

六甲山系は、森林の約5割は神戸市有林を含む公有林が占め、公有林・私有林ともに、十分な手入れができずに荒廃が進んでいる。そこで神戸市では、2012年に「六甲山森林整備戦略」という基本的な概念を策定し、都市の暮らしと密接に結びついた森林の手入れを進めていく方針を定めた。

「はげ山になった経緯もそうですが、六甲山系は人との関わりがあったからこそ今のような状況になりました。そこで神戸市では近隣住民や企業との関わりを維持しながら、森林を育てていきたいという考えで取り組んでいます。方法としては、歴史や自然条件、社会的条件など六甲山系の現状を専門家の方のご意見を伺いながら把握し、森林の多面的な機能が十分に発揮できるよう、森林の特徴によってゾーニングを行い、目的に応じた森林整備を進めています」

森林環境譲与税の活用

また神戸市には、市内の森林のうち、スギ・ヒノキの人工林は1割以下と少なく、林業だけを生業としている団体所有者がいないという特殊な事情がある。当然森林組合もなく、木材市場もない。原木を搬出するための作業道も整備されていない。さらに市内の森林の6割以上が私有林で、人手不足による放置山林化は深刻さを増している。そこで神戸市では森林環境譲与税(*5)の創設を機に森林整備を六甲山から神戸市内全域に広げ、2019年から私有林も含めた整備を進めてきたという。

「森林環境譲与税を活用した森林整備では、六甲山系や帝釈丹生山系などの山地エリアを対象とした『こうべ都市山再生事業』として行政が実施主体となって森林整備を行っています。また農村エリアの森林は『里山整備支援事業』として、里山や竹林の整備を行うための経費を補助する制度を作りました。我々も現地調査で話を伺うと、山に詳しい人がご高齢だったり、山の上で行う神事ができなくなっていたりと、過疎高齢化によって森林整備が立ち行かない状況を目の当たりにします」

人と山の関わりを結び直すために

官民協働による森林循環の仕組み「こうべ森と木のプラットホーム」相関図

「新たな取り組みとしては、これまで利用されていなかった森林整備の際に発生する材を公共性の高いプロジェクトで有効活用してもらう取り組みや、森林整備の普及活動などを通して、六甲山材のブランド化につなげています。また森林整備や木材活用を円滑に行うための、行政機関、森林所有者、林業・木材産業事業者など、川上から川下までの多様な主体の連携の場となるプラットフォームの設立に向けた準備を進めています。そのほか森林整備にあたる人材の育成や、一般の方を対象として森林整備や木材利用を普及啓発する取組みなども行っています」

120年の歴史を持つ神戸市の森林整備事業は、2012年の「六甲山森林整備戦略」策定を機にリスタートを切った。全国の人工林で、人が入らないまま放置された森林が増えるなか、誰もが気軽に山へ入り、さまざまな活動を通して森林に親しんできた森林文化が、山と人の関わりを結び直す力になりそうだ。

(2022年12月8日 現地取材)


*1^ 六甲山森林整備戦略:六甲山と人との関わりを結び直し、新たな都市山・里山として再生することを目的に2012年策定。2015年までを準備期間、2025年までを短期計画、2050年までを長期計画としている

*2^ 新幹線の停車駅・新神戸駅は駅舎の1階出口が六甲山の登山口に直結していて、駅から徒歩0分で登山が始められる全国でも珍しい駅として知られている

*3^ 再度山(ふたたびさん)
1902年より水源涵養・砂防を推進してきた山として、1974年から神戸市では森の一部を「再度山永久植生保存地」に指定。以後5年ごとに植生や土壌の変化を調査・記録し、六甲山系の緑の管理や育成に活かしている

*4^ 林冠:森林の上部において太陽光を受ける部分

*5^ 森林環境譲与税:2019年度から始まった税制度。市町村による森林整備の財源として、国から市町村や都道府県に対して、私有林人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して譲与される。なお、2024年度からは森林環境譲与税の財源となる「森林環境税」の課税が始まる

執筆者
神尾 知里
兵庫県出身。浜松市在住。浜松市内を中心にライターとして活動しています。

都市の暮らしを守り、人と山の関わりを結び直す 神戸市役所・建設局防災課/田村悠旭さん 掲載号

新林 第6号の表紙

新林 第6号
今、木を伐る理由を考えてみる

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シリーズ今、木を伐る理由② 防災

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