森林の世界はもっとずっと、面白い ちぐさ研究室/川上えりかさん 清水美波さん
西粟倉の人たち③
西粟倉村を拠点に、植物や森林に関する活動を行っているちぐさ研究室。 2021年に地域おこし協力隊として西粟倉にやってきた川上さん、清水さんが、活動を通じて伝えたいこと、西粟倉でやってみたいこととは?
ちぐさ研究室
2021年に西粟倉村の地域おこし協力隊の2人が結成した任意団体。西粟倉を拠点に、植物や森林に親しむワークショップや展示などの企画のほか、独自に調査活動などを行っている。
清水美波さん
園芸学部卒。植物はもちろん、動物や岩石も見分けられるようになりたい!
川上えりかさん
農学研究院(森林科学)修了。根っこや土壌生物など、足下に隠された世界が特に好きです。
ちぐさ研究室とは?
川上:私たちは、2021年から西粟倉村で植物や森林に関するイベント、調査、展示などの活動を行っている任意団体です。普段は地域おこし協力隊として、それぞれ役場と株式会社百森で働いていますが、2人とも大学で森林に関する研究をしてきたので、もっと森に関わる活動がしたくなって、村内のあわくら図書館で講座「やまと森の知らない世界」をスタートさせました。
図書館の講座「やまと森の知らない世界」とは?
清水:講座では森林に関わる座学や実験、調査研究などを開催しています。ドングリを食べたり、植物の油を絞ったりするワークショップや、吸虫管 (*1)を使った土壌調査 (*2)、森林の中での毎木調査 (*3)などを開催しました。下は4歳の女の子から上は70代のおじいさんまで、参加者の年齢層は結構幅広いですね。
活動拠点として見えてきた西粟倉の森の姿とは?
川上:西粟倉は緑に囲まれていますが、ほとんどは人工林なので生態系的に豊かな森が多いというわけでもなくて、じつは鹿による食害の影響も深刻なんです。その一方で、西粟倉には役場から車で20分で行くことができる若杉天然林(*4)など、貴重な森も残っています。そこも鹿による食害の影響は受けていますが、人工林以外のフィールドとしてはアクセスが良くて、とても使いやすいです。私は大学で何時間もかけてブナ林の調査をしていたのでこの近さには驚きましたし、知り合いの研究者も西粟倉にこんな場所があるんだと言っていました。
清水:豊かな森林という意味では、もっと西粟倉以外の地域に足を運んで、下層植生が繁茂した広葉樹の森などに調査領域を広げて活動したいとは思っています。ただ西粟倉では、村が森林を起点としたさまざまな事業を展開しているので、私たちのように森林で何かやりたいという人にはダントツで恵まれている場所なんです。例えば、西粟倉では森林のデータがしっかり集計されているので、所有者さんの地籍がはっきりしているとか、誰に聞けばいいかとか、森林の情報へアクセスし易いという特徴がありますね。
今後の予定している活動を教えてください
川上:西粟倉村内の森林に関するクラウドファンディング〈あわくらファン〉を利用して、2023年の春からあわくら温泉駅という無人駅の待合室で、森に関する展示や実験ができる博物館「ちぐさ顕微室」の運営を行う予定です。そこでは村内で採った標本や、西粟倉の森の歴史や動植物について展示するので、今はちょうどその準備をしていているところなんです。
清水:西粟倉にいると、ローカルベンチャーの起業家の皆さんのように「事業にしないの?」と訊かれることもありますが、今はまだ自分たちが本当にやりたいことをやりたいですね。それは私たちの講座も同じで、環境問題に結びつけた講座や知識を増やすためのワークショップではなく、人間が本来持っている探求心をくすぐるような、森の面白さを感じてもらえる体験を大切にして企画していきたいですね。「面白かった」だけで終わる講座があっても全然いいと思っています。
川上:植樹体験や伐倒体験というのは、よく企業向けの研修などで開催されていますが、私たちが大学研究を通して熱中したような、もっとマニアックな森の世界に触れてもらうと、今までとは違う森林の価値が見えてくると思っています。
(2022年12月22日現地取材)
*1^ 吸虫管:昆虫採集に用いられる道具の一つ。 ピンセットでつまめないほど小さな昆虫を、吸い口のあるガラス管で吸い込むことによって捕まえる
*2^ 土壌調査:森から採取してきた落ち葉の中にいるミリ単位の微生物を吸虫管で吸い上げて、顕微鏡で観察する
*3^ 毎木調査:森林の中である一定の区画を設けて、その中に生えている木を全部調べ尽くす
*4^ 若杉天然林:岡山県、鳥取県、兵庫県の県境付近にある天然林
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