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新林
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シリーズ森を学ぶ人に会いに行ってみる

これからの森林文化をつくる担い手たちは、どのような「学びと実践」の現場で、どうやって学びを深めているのでしょうか。岐阜県森林文化アカデミーと三重県の海山林友株式会社を訪ね、学ぶ人・教える人に会いに行ってきました。

色んな発想を持った人材に育ってもらいたい 海山林友株式会社 川端康樹さん

林業地で森を学ぶ人たち

三重県南部の尾鷲市・紀北町エリアは、「尾鷲ヒノキ」の産地として知られる林業地です。この地で江戸時代から続く速水林業の「大田賀山林」を訪ね、同社の森林管理会社である海山林友株式会社の川端康樹社長に、森づくりの現場で学んだこと、これからの山の担い手たちに伝えたいことをお伺いしました。


川端康樹(かわばた・やすき) 海山林友株式会社代表取締役
1963年生まれ。東京農業大学農学部林学科卒。同大大学院 修士課程修了。1988年速水林業に入社。1989年オーストリアの林業機械現地研修に参加。 2008年トヨタ自動車宮川山林の森林管理業務を行う諸戸林友株式会社代表取締役に就任。2018年より海山林友株式会社 代表取締役として、三重県南部の森林管理業務に従事。


失敗より何もしないことの方がリスクは大きい

速水林業は、戦後、前代表の速水勉氏がはじめた環境に配慮した森林経営により、日本で初めてFSC認証を取得したことで知られています。川端さんは同社に入社以来、機械化による作業の合理化やヒノキの育種など、先進的な森林施業の担い手として第一線で活躍し、現在は尾鷲林業地で約3000haの山林を管理しています。

「僕らの年代はみんな先代の影響を少なからず受けているんじゃないでしょうか。僕自身は、今でも速水林業学校を留年中で、卒業は一生ないという気持ちでいるんですよ。林業は植林から伐採までのスパンが長い分、答えが出るまで長い時間がかかってしまうので、新しいことをやる勇気がなかなか持てないものです。それでも先代は、挑戦に失敗は付き物だと、失敗を恐れて何もしないリスクはそれ以上なんだと、だから毎年ちょっとでも変わる努力をしろと僕たちに教えて来ました。その時は良かれと思ってやったことが、後に良い結果に繋がらなかったとしても、それは経験値として活かしていけばいい。そうやって様々なトライアルを続けてきたつもりです」

多様化する木材の価値

「尾鷲林業地では、無節で年輪が細やかで色艶が良い高級柱材を主力製品とし、高い評価を得てきましたが、建築様式の変化により需要は減り続けています。数年来市場調査を進めてきましたが、建築用以外の市場に強いニーズがあり、漁業関係者や造園業者がその調達に苦労していることがわかってきました」

「昨今建築現場で〈足場丸太〉をほとんど見かけなくなりましたが、私たちも四半世紀前にその生産を諦めました。ところが水産業を中心に必要とされていることを知り、地域の管理に困っている所有者さんの山を集約化し、そこから搬出される細い間伐材の販売事業も始めました。おかげで瀬戸内海では高い評価をいただいております。管理を集約することで、木材の品質と生産量を確保し、建築用、養殖筏用、造園用など、間伐材を幅広く販売することが可能になりました」

「細い間伐材の活用のように、これからの林業は建築用材の生産だけを目標とするのではなく、色んな林業があっていいと思うんですよ。私が若い頃には、バイオマス発電なんて考えもしなかったですし、炭素固定の話が将来出てくるなんて誰も思わなかったですしね。色んな選択肢が増えたという意味では、僕らの若い頃より今の林業の方が面白いのではないでしょうか」

新しい価値を創造するために

「僕は林業に従事して30年以上になりますが、変化が激しい時代においては、自分が持つ経験値というのは、時として悪影響を与えるものだと思っています。若い人たちには、古い価値観や慣習に囚われず、常に新しい発想を持つことを心掛けてもらいたいです。大事なのは伝統などの継承だけでなく、将来にわたって山を管理していってくれる人材の育成だと思っています」

「そのためには、経験値や勘だけに頼らず、施業やマーケットの数値化、分析が大事だと思っています。一般的にどうしようもないと言われる放置林には本当に経済価値がないのか、戦後最大規模で伐期を迎えている山林を急いで伐る必要があるのか、海外の林業はどうなのか。若い人たちには、その内容を自分なりに見極めて、山を管理・利用していく方法を考えてほしいと思っています」

「学びたい」という思いを持って施業する

「毎年、この場所に東大の教授や林野庁の部長を講師に招いて『林業塾』というのを開催していまして、私も講師として登壇し、会社の若いスタッフも塾のサポートとして参加しています。普段は皆ローカルなエリアに居着いていますので、外の世界も知った方がいいですし、林業の学術的な研究に触れる貴重な機会になっています」

藤村さん

藤村さん「私は普段、筏用の小径木丸太を担当していますが、研修で吉野の大径木の山や、1日に5,000本製材するような製材工場を見学させてもらうこともあります。他の林業地に行くことは、地力も違うし、見出す木材の価値も違うのでとても勉強になります。また筏用の小径木丸太を使用している現地に出向くこともあります。マーケットについては知らないことがまだまだありますが、できるだけ色んな現場に足を運んで木を見る引き出しを増やしたいと思っています」

北村さん

北川さん「僕は入社してまだ2年目ですが、現場での学びは林業学校で習わなかったことばかりです。木を見て、考えて、価値を作ることの大切さをここで教わりました。特に、細い木でも価値があることを知ったことは嬉しかったですね。また、普段社長が僕たちに話してくれる話を、林業塾などで遠方からわざわざ聞きに来る方たちに会うことで、改めて自分は貴重な経験をしているのだな、と思うこともあります」

「伐り出した木は市売市場に出しておけばいいという会社もある中で、うちの若いスタッフがそういう思いを持って現場で活躍してくれたら、きっと得られる情報量、成果は違ってくると思います。まずは興味が沸いてこないとダメですよね。そのためにはどうすればいいかというところが林業の人材育成で欠落していると思います」

※木材の流通機関

「事務所には、若いスタッフのために林業関係の本を一通り揃えていますが、なかなか読んでくれませんね(笑)。ただ、本は現場でやっていることを一冊にまとめた、いわば結果論です。社会のニーズを把握し新しいマーケットを作ることは、本には表記されていない現在進行形の部分です。外に出て色んな人の所へ足を運んでやっていくしかないので大変ですが、結局そこがやっていて一番面白いところじゃないですか」

地域で山を守るために

左から藤村寿さん 川端康樹さん 北川晧紀さん

「僕自身は、林業というのは個人ではなく、チームでやるべきだと思っているんです。そこが農業とは違うところですね。そしてそれぞれの事業体の枠組みを越えて、お互いの情報を共有し、刺激を受けながら地域の山を管理していくような仕組みが必要だと思います。それをできた地域が、今後も安定して木材を市場に提供することができるのではないでしょうか」

歴史ある林業地だからこそ外へ出て学ぶ必要があり、新しいチャレンジをし続けることが、山を守る唯一の方法なのかもしれません。

(林業地で森を学ぶ人たち 取材日:2022年6月16日)

▷森を学ぶ人が読む本(川端さんにおすすめの本を紹介してもらいました)

色んな発想を持った人材に育ってもらいたい 海山林友株式会社 川端康樹さん 掲載号

新林 第5号の表紙

新林 第5号
森を学ぶ人に会いに行ってみる

#5を読む

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