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シリーズ森を学ぶ人に会いに行ってみる

これからの森林文化をつくる担い手たちは、どのような「学びと実践」の現場で、どうやって学びを深めているのでしょうか。岐阜県森林文化アカデミーと三重県の海山林友株式会社を訪ね、学ぶ人・教える人に会いに行ってきました。

多様な価値観に触れ、理想の森を考える。 岐阜県立森林文化アカデミー

学校で森を学ぶ人たち

2001年、岐阜県美濃市に設立された岐阜県立森林文化アカデミー(以下、アカデミー)は、日本で唯一キャンパスに隣接して演習林がある教育機関です。広大な敷地内には岐阜県産材で作られた木造の施設群が並び、その背後に広がる33ヘクタールの演習林では、学生たちによる植生調査の実習や林業実習が実施されているほか、外部に向けた学習や交流の場として広く活用されています。今回は、「森と木のクリエーター科」で学ぶ2人の学生さんに、入学したきっかけや、アカデミーでの学びについてお話を伺いました。


岐阜県立森林文化アカデミー
森林と人との共生」を基本理念とし、森林や木材に関わるさまざまな分野で活躍する人材を育成することを目指して設立された専門学校。高校卒業程度を対象とした「森と木のエンジニア科」と、22歳以上を対象とした「森と木のクリエイター科」があり、林業、森林環境教育、木造建築、木工など、森林や木材に関わる分野を学ぶことができる。


佐藤聖人さん
森と木のクリエーター科 森林環境教育専攻2年

スイスの森づくりに憧れて

大学で森林動物管理学、大学院で環境社会学を学んだ佐藤さんは、卒業後、林業に4年半従事していた林業経験者です。近自然の森で経済と環境を両立させる『スイスの森づくり』に興味を持ったことをきっかけに、森づくり事業を進める食品製造会社に就職。会社から派遣という形でアカデミーに入学しました。

「僕が就職した岐阜県の食品製造会社〈銀の森コーポレーション〉では、工場を新設するために買い取ったゴルフ場跡地を森に還す『森づくり事業』が進められていて、僕はその森を運営する人材として採用されました。アカデミーへ入学することが採用の条件に含まれていたので、会社に属しながら勉強に専念させてもらっています」

森を学び直す

「アカデミーの1年生は座学も実習もあり、とにかく授業が沢山ありました。森林環境教育が専攻なので樹木の同定は必修で、樹木は72種類くらい覚えました。恥ずかしい話ですが、林業に従事していた頃はスギ・ヒノキ意外は育林のために刈り払い機で伐る対象だったので、『スギ・ヒノキ・雑木』という頭しかなく、ここに来てはじめてこんなに種類があるんだと気づかされました」

「森林環境教育の学びは多岐に渡りますので、ときには、ローカルビジネスの現場へ視察に行ったり、地域の高齢者から昔の暮らしを聞き書きしたりすることもあります。そのほかにも、ファシリテーションの実習、パーマカルチャー、馬耕・馬搬の体験というものまでありました。2年生になると授業という形式はかなり減って、各々が深めたい課題を探求し、実践していく期間になります」

アカデミーが教えてくれたこと

「アカデミーの学生たちはお互いやりたいことが違いますし、それを尊重する学校なので意見を言いやすいですね。先日は建築専攻の同級生と一緒にパーマカルチャーの研修を受講しましたが、専攻は違っても共通する部分があったり視点が全く違ったりと、新しい発見がありました」

「大学を出てすぐ林業の世界に入り、目指すべき森の姿がわからないまま徐々に違和感を感じていった僕にとって、アカデミーは森の理想の姿を見せてくれる場所です。理想が見えていれば、現場とのギャップを埋める方法を考えられるし、今できなくても知っているのと知らないのとでは違うと思います。またアカデミーは理想を語るだけでなく社会に向けてちゃんと実装していこうという動きがあるのが強みだと思います」

森と人をつなげるために

「2年の課題研究は、ゴルフ場跡地でパーマカルチャーの考え方や手法を取り入れたフィールドデザインと、森の仲間やファンを増やすためのデザインをやろうと思っています。森林が抱えている課題は林業だけで考えていても解決できませんし、色んな視点を持った他業種の人たちが森に関わる必要があります。僕は林業の素材生産に関わるようなメインストリームからは外れてしまったけれど、これからも社内の人や地域の人も巻き込みながら、森の世界につながるような存在になりたいと思っています」


岩屋良明さん
森と木のクリエーター科 林業専攻 2年

岐阜県郡上八幡出身の岩屋さんは、30年勤めたスポーツ新聞社を早期退職し、アカデミーに入学した異色の経歴の持ち主です。

きっかけは親から相続した山

私の父が地元で製材会社を営んでいましたので、山に無関係というわけでもなかったのですが、私が高校生の頃から林業は斜陽産業という認識でいましたので、私自身が林業に関わるつもりは全くありませんでした。早期退職をきっかけに地元に戻って何か始めてみようと思い、ようやく親から相続していた山について真剣に考えるようになりました。ところが相続した山がどこにあるか知りませんし、どんな風に境界が決まっているのかもわかりません。色々調べているうちにアカデミーの存在を知り、面接を受けた時は54歳。体力には自信がありましたが、林業の経験も知識もゼロで入学しました。私がアカデミーを卒業する時は57歳です。妻には70まで働いてねと言われていますが、あと13年続けても楽しそうだなと思えることを見つけたと思っています」

若い人たちと一緒に学ぶこと

「現在は森林施業プランナーを目指し、林業専攻で森林経営から現場の作業まで林業全般について幅広く学んでいます。今日は、『集約化』と言って、複数の山主さんが持っている山をまとめて施業する際に、どのような施業計画を立てて、どうやって山主さんを説得するかといったことをシミュレーションする授業を受けました。大学では経営工学を学んだので、どこに機械を配置したら効率良く木を出せるかといった事を考えるのは好きですね。林業機械の免許も取りましたし、チェーンソーや木の伐出作業の実習では、自分の子どもより若い子たちに混じって作業することもあります。彼らと一緒になって作業していると自分も若くなれるし、本当に楽しいんですよ。今では自分の山に入っても、この木はちゃんと用材として使えるなとか、山の木をどこからどうやって運び出せばいいかなど、山の算段がなんとなくつくようになったことが、この学校に来た一番の成果かもしれないですね」

次の世代に山を残すために

「色んな先生方や年の離れた同級生たちと話すのは本当に楽しくて、あちこちに顔を出したり参加したりするようにしています。ただ木を使わない世の中になり、林業の先行きは決して明るくはないです。その点に関してはアカデミーの先生や林業専攻の学生ともよく議論します。未来に向け、少しでも明るくなるような方法を考えるべきだし、それができるのもアカデミーだと思います。私自身もそうでしたが、地元の同級生の中には山なんて負の遺産だからいらないし、どこに山があるかわからないと言う人たちがいます。私の世代でこんな状況ですから、それが子どもの世代になったらどうなるのか考えただけでも恐ろしいですよね。今はこの辺の山に囲まれた地域の子どもたちでさえ、スギとヒノキの区別がつかないのが現状です。子どもたちがもっと山に入って、山の木って面白い、山で林業やってみたいと感じられるような、山の魅力を訴求する活動もやっていきたいですね」

川上から川下まで、森林文化に関わるさまざまな専門分野が集まることで、あらゆる価値基準持った人たちがそれぞれに森について考え、研究成果を社会に還元できる環境があることが、ここでの学びを価値あるものにしています。

(学校で森を学ぶ人たち 取材日:2022年6月8日)

▷森を学ぶ人が読む本(お二人におすすめの本を紹介してもらいました)

多様な価値観に触れ、理想の森を考える。 岐阜県立森林文化アカデミー 掲載号

新林 第5号の表紙

新林 第5号
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#5を読む

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