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新林

チェンソーで木を伐ってみる

木こり活動レポート #6

2022年12月9日、静岡県浜松市天竜区の熊(くんま)地区で、チェンソーによる伐木体験を実施しました。今回は、林業の中でも特に危険な作業のため木こり隊は4名のみ。講師の前田剛志さん、鈴木将之さんから安全に木を伐るための装備や山ならではの注意点、チェンソーの扱い方、ロープを使った伐倒方向の誘導などを学びながら、今までにない緊張感で作業に臨みました。


チェンソーを使う時の安全装備

チェンソーを使った伐木作業をするうえで最も大切なのが、安全対策です。山へ入る前に、チェンソーのメンテナンスと、チェンソーを使うための安全装備の確認をします。チェンソーから下半身を守る防護服は2015年より着用が義務化されています。

前田さん「伐木作業では、左の太もも付近を切創する事故が圧倒的に多いです。グローブも左手の甲にだけ保護材が入っているくらい左側のリスクが高いんです」

ヘルメット 飛来落下物から頭部を守るヘルメットは必須。顔に飛んできた木屑を防ぐフェイスガードや、作業音から耳を守るイヤーマフ(防音保護具)が付いたものを使用する。

防護パンツ 防護服には内部に特殊繊維が入っていて、刃がパンツに当たると中から特殊繊維が出てきてチェンソーに絡まり、回転が止まる仕組み。

グローブ 左手の甲にチェンソーから身を守る防護繊維が内蔵されているものもある。
チェンソー エンジンやモーターでソーチェンと呼ばれるチェーン状の刃を回転させ、木材や木の剪定・伐採などに使われる工具

チェンソーは刃物なので切れ味を保つためのメンテナンスが大事。作業前には必ず丸ヤスリを使って小さな刃をひとつずつ研ぐ「目立て」をします。
(写真左から)鈴木さん、前田さん
装備をすべて身につけると全身オレンジ。林業用品の色は森林の緑の補色にあたるオレンジ色がよく使われます

チェンソーで木を伐ってみる

安全装備を身に着けたらさっそく山へ。じつは、山の中で一番多いトラブルが転倒です。道も何もないただの山肌を古い切り株や枝に足をとられないように気を付けて登ります。足元ばかりに気を取られていると前田さんから声がかかりました。

「上を見てもらうと、樹冠が閉じているのが見えますよね。このままだと林内に光が入らないので間伐が必要になるんですね」

伐倒方向は上りか下りか?

木を伐る前は、伐倒木周辺の落枝や石、下草を取り除き、避難経路を確保してから伐倒方向を確認します。

前田さん「傾斜に生えている木はだいたい下に傾いていることが多いので、倒すことだけを考えると重心が傾いている下り方向に倒すのが簡単ですが、下りだと木から斜面までの距離が長いので、加速度が付いて危険な上に、倒れた時に木が傷んでしまうんですね。今回は安全性を優先し、ロープで伐倒木を誘導しながら上りの方向に倒していきたいと思います」

伐倒木を背中に付け、伐倒方向を確認する

「上りでも下りでも、大事なのは他の立木に干渉しない方向を探すこと。倒れた木が他の立木の枝に引っかかって倒れている途中で止まってしまった状態を『かかり木』と言いますが、このかかり木の処理の時に事故が一番多く発生するんですね」

チェンソーで受け口をつくる

伐倒方向が決まったら、チェンソーで斜めと横から2回切り込みを入れて受け口をつくります。

チェンソーはすべて右利き用。エンジンの始動方法、安全装置アクセルスロットルの握り方、停止方法などのレクチャーを受けるともう本番。前田さんが横で見守るなか、生まれて初めてのチェンソー作業を1人ずつ行います。

受け口をつくる

チェンソーは両手で腰より下で持つのが鉄則。足場をしっかりと確保し、安定した体勢でチェンソーを構えると、森の中に原付バイクのようなエンジン音が鳴り響き、木屑を撒き散らしながら切り進んでいきます。大切なのは、狙った伐倒方向に受け口が向くように伐ること。受け口に対して90度の方向に木は倒れるので、確認しながら正しい方向に修正していきます。

「チェンソーの使用で気をつけたいのがキックバック。使用中に突然作業者の方向にチェンソーが跳ね返る現象です。ガイドバーの先端上部が木材に触れるときに起こります」

ロープで伐倒木を誘導する

伐倒木にロープをかけて引っ張る準備をする

次に伐倒木を誘導するためのロープを木にかけます。ロープは倒れた木の下敷きにならないように、支点となる木に滑車をかけて、安全な場所からロープを引っ張ります。

追い口を入れて倒す

追い口を切る作業

追い口を水平に入れて、真ん中のつるを残します。残ったつるが蝶番の役目をして伐倒方向をコントロールします。一見簡単そうな作業ですが、斜面で水平を捉えることも至難の技。前田さんからは「切りすぎないように」と注意を受けるも、実際は怖くてなかなか思うように切り進めないのです。

最後はロープを引きながら前田さんが慎重に楔を打つと、パキパキと木の繊維が引き千切れる音を立てながら木が倒れていきました。

チェンソーを使った伐木体験は、お2人の講師の指導のもと無事終了することができました。林床に光を届け、健全な森林の姿に導くために必要な間伐作業。約2年ぶりとなった伐木体験は、改めてその必要性と難しさを実感する機会となりました。

(番外編) 斧で木を伐ってみる

「想像していた斧より小さいけど、大丈夫かな」

現在では林業の機械化が進み、木伐の道具はチェンソーから高性能林業機械へと移行しつつありますが、ノコギリやチェンソーの登場より遥か昔、人類は石器時代から斧を使って木を伐ってきました。木を伐る道具として最も長い歴史を持つ斧で、先人たちのように木を伐ることはできるのだろうか?木こり隊の好奇心の赴くままに、斧による伐木作業にチャレンジしてみました。

ノコギリは波型の刃で「引ききる」、チェンソーはチェーンに付いたカンナ状の刃で「削る」のに対し、斧は「はつる」道具。斧を木に打ちつけて、木の繊維を砕きながら削るようにして受け口をつくります。体力がいる上に、受け口を正確につくるのも難しい作業です。

本来は追い口も斧を使いますが、今回は手ノコを使いました。斧に比べると便利なはずの手ノコもチェンソーを使ったあとでは大変です。

日本の伝統的な斧の刃には、左に3本、右に4本の筋が刻まれています。3本の筋は山の神様へのお供物、4本の筋は木を育てる地・水・火・風を象徴しているそうです(「三を四ける」から、「危険から身を避ける」という意味もあるとか。諸説あります)。

林業の現場ではいまも自然信仰が息づき、山の生業を支えています。斧を使うということは、単に古い道具を使うだけではなく、先人たちの自然観に触れ、森林への思いを受け継ぐ意味があるのかもしれません。チェンソーに比べ体力的には大変でしたが、日本古来の自然を敬う精神に触れる貴重な体験となりました。


伐木作業を終えて

山本さん
「チェンソーの扱い方を事前にYouTubeで勉強しましたが、実際やってみると難しかったですね。木材は乾燥にかなりの期間がかかるという話は前から聞いていましたが、自分が山で伐った木から水が弾くのを見て、やっぱり木は生きてて、木の中にこれだけの水を蓄えているんだなということを実感しました」

杉井さん
「チェンソーを持つこと自体が初めてで、今まで経験したことのない貴重な体験ができました。昨今は環境問題への関心の高まりから、木造の需要が高まっていると感じていますが、木材価格の現状を知るとその難しさも実感しました」

松本さん
「普段、建築材料として木材に触れる機会はありますが、生の木に触れる機会はなかなかないので貴重な体験でした。建築資材になるまでの木材の流通なども含めて、色々お話を聞くことができ勉強になりました」

木こり隊長 吉岡さん
「今回はチェンソーを使った危険な作業だったので、講師2名に対し参加者4名で、結構ギリギリだったと思います。作業に最適な人数編成、社内交流の場となるメンバー構成を考えながら今後の木こり活動に生かしていけたらと思います」

前田さん(講師)
「怪我なく終了できて良かったです。山元と木材を使う建築業界では、普段なかなか情報交換するような機会がないので、こうして山の中で建築業界の方たちとお話ができたのもよかったと思います」

鈴木さん(講師)
「山は空気が違うし、日頃のストレスが解消できると思います。木を伐るためだけでなく、またいつでも山に来てください」


感じたこと、その先へ
木こり活動に参加したNCM社員によるリレーコラム

「森をまもる」ことの大切さ、「森と人がともに生きていく」ことの大切さを、言葉では理解しているつもりでした。厳しい山の中で、何十年にも渡り、大切に育てた木が1本数千円で取引されている現実を鑑みると、自分が言葉で理解していたことと、現実の大きなギャップに「森をまもる」ことの課題を感じました。
 今回の「木こり活動」では、チェンソーを使った間伐をチームで手順を学びながら体験しました。傾斜地でエンジン付きの機械を扱うことの難しさを感じつつ、間伐というひとつの行為を通じて「森と人がともに生きていく」ための一端に関われたことを嬉しく思います。こういった小さな実感は、森のことを身近に感じるきっかけにもなりました。また「山の時間尺度」でものごとを捉えるという新鮮な感覚を得ることができ、これからは日々の小さな行為に気を配りながら、山との関わりについても考えていきたいです。

マネジメント・コンサルティング部門 ユニットコーディネーター
山本健二

執筆者
神尾 知里
兵庫県出身。浜松市在住。浜松市内を中心にライターとして活動しています。

チェンソーで木を伐ってみる 掲載号

新林 第6号の表紙

新林 第6号
今、木を伐る理由を考えてみる

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