森林の生業を再構築する 株式会社 百森/田畑 直さん
西粟倉の人たち①
西粟倉村が主体となって進めてきた森林管理事業を民営化したのは2017年のこと。新たに森林管理事業の運営を任されたのは、林業経験のない元商社マンとITベンチャー出身のお2人だった。株式会社百森を立ち上げ、村と共に西粟倉の森林管理を担うことになった代表の田畑 直(すなお)さんに、これまでの経緯や、今後の展望について話を聞いた。
2017年10月、田畑直、中井照大郎の幼なじみ2人で設立。西粟倉村の進める「百年の森林づくり事業」に伴う山林管理、素材生産以外の森林活用、ツール開発等の事業を行っている。
そもそもなぜ村の事業を民間に託すことになったのですか?
役場は数年毎に職員の異動があるので、50年先を見据える森林事業とタイムスパンが合わないことが課題となっていました。また独自の森林施業を進めたい村と広域合併した森林組合とで、歩調が揃わない部分が出てきたんですね。そこで森林組合に変わる村独自の組織を作ることになったんです。民営化したことによって、それまで下請けで森林施業を行っていた事業体が直接仕事を受注するようになり、事業者数や高性能林業機械の導入数が増えるなど、川上の事業体の活性化に繋がりました。
株式会社百森ではどんな事業を行っているのですか?
村から引き継いだ山林管理事業を軸に、新たな山林の活用の提案や林業用のツール開発などもやっています。山林管理では、山の所有者との交渉や山林を整備するための調査設計、事業体への施業発注や現場監督、施工後の検査など、木を伐る以外の川上の山林管理事業が主な内容です。そのほか、補助金の申請・管理などもやっています。
かなり専門的な事業内容だと思いますが、お2人はもともと林業に興味があったのですか?
僕自身は全く(笑)。もう1人の代表の中井が、もともと商社で天然ガスなどのエネルギーを扱っていたことがきっかけで再生可能エネルギーベンチャーに転職し、さらに日本の森林資源に興味を持ったみたいですね。林業について勉強する方法を探していた時に西粟倉のローカルベンチャースクールのことを知ったようです。僕の場合は、ある日彼から連絡がきて、資料作りを手伝ってくれと言われたのがきっかけだったので、始めは軽い気持ちで参加していました。そこで森林管理事業を民営化するための人材を公募していて、他にやる人がいないなら自分たちがやってみようということで応募しました。
既存の森林組合を壊して、新しい組織を作る人を外から公募するって発想が斬新ですね。
公募では、山の知識はなくてもいいから良い組織を作れる人、経営感覚がある人を募集しますという内容だったんですよ。僕はずっとIT畑だったので、林業の事は全くわからなかったですし。村としても、山の専門的な部分は、地元の専門の人に任せればいいという考えでした。実際、今もうちの会社の中では僕が1番山のこと知らないんじゃないかな。
未経験でも西粟倉でやってみようと思った理由は?
経営に入る側としては、村側の課題感や自分たちのミッションが明確だったというのが1番重要でした。百年の森林事業の明確なビジョンがあり、いま村としてここまで頑張ってきて、今後事業を続けていく上でそれを継続的に管理できる組織が存在しない、という話は納得できるものでしたね。
田畑さんがITベンチャー出身ということで、林業用のツール開発も行っているんですね。
そうですね。自分たちの森林管理を効率的に行うための林業専用日報サービス〈Wooday〉や、山主情報管理システム〈百森ちゃん〉を開発し、ツールの販売やコンサルティングを実施しています。ツールの活用の話で言うと、うちでは業務のタスク管理に〈Redmine〉という他業種のツールも導入しています。これは林業の業界的には結構特殊だと思います。
西粟倉が目指す今後の森林整備とは?
西粟倉の山は素材生産のための経済林がほとんどですが、今後も素材生産だけに森林の価値を一点賭けしていくのは厳しいと思っています。もともと森林の立木を伐採するときは、たとえ自分の財産であっても伐採届が必要になるんです。それは森林が公益的な役割を持っているから無秩序に伐採してはいけないという話ですよね。逆に考えると、たとえ私有林であっても、多くの人たちに森林を活用してもらう方法があるんじゃないかと思っていて、いま実際にその方法を模索しているところなんです。たとえば、林業従事者以外の人たちが林業体験や山のアクティビティなどで山を活用するには、どのようなリスクがあるのか、自分たちが窓口になるためには何が必要なのかといったことを調査してサービス化しようと思っています。また2022年11月には、西粟倉村内の森林専門のクラウドファンディングプロジェクトを掲載する「あわくらファンディング」(*1)を立ち上げました。そのほかJ-クレジット(*2)の登録や販売支援も新しくサービス化します。そういった新しい森林活用のチャレンジをどんどん進めて、多くの人が山に訪れたり、活用できたりする環境を整えていきたいですね。
(2022年12月22日現地取材)
注釈:
*1 あわくらファンディング
第一号は、ちぐさ研究室による「ちぐさ顕微室」プロジェクトのファンディング。目標の2倍以上の金額が集まった
*2 J-クレジット
省エネルギー設備の導入や森林整備などによって達成された温室効果ガスの排出削減・吸収量を、炭素クレジット(炭素排出権)として国が認証する制度
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