C材も磨けばA(ええ)材になります。 株式会社徳田銘木/徳田 浩さん
変わりゆくもの、変わらないもの②
奈良県吉野郡黒滝村。奈良県のちょうど中央に位置する人口619人(2023年10月1日現在)の小さな村に、年間500社以上が訪れる銘木商・徳田銘木があります。一般的に敷居が高いイメージのある「銘木」に、多くの人が注目をしているのはどうしてなのでしょうか。社長の徳田浩さんに会社のストックヤードを案内していただきました。
徳田銘木のストックヤードには、吉野の磨き丸太をはじめ、日本の伝統的な銘木や、海外の銘木、国産の自然木が博物館さながらに整然と並んでいます。その数およそ3万本。野趣溢れる素朴で生き生きとした木材は、一般の材木店では見かけないものばかりです。
「徳田銘木は、もとは林業だけでしたが、戦後の復興期には山林経営と製材業、それから冬は地場産業の磨き丸太の3つをやっていました。その後、製材業をやめて銘木業を増やしていったんです。徳田銘木の社名はね、2つ意味があるんです。ひとつはその名のとおりプレミアムな木。色・形・材質など鑑賞価値が高い貴重な木材という意味です。もうひとつは磨き丸太の皮剥き技術や、銘木業ならでは乾燥方法、カビや虫がつかない品質管理のノウハウを持っているという意味です」
磨き丸太とは、皮を剥いて磨き上げた、数寄屋建築の床柱などに使われる木材です。徳田銘木では、磨き丸太のほかに木に縦皺の入った絞り丸太や天然カビを付けた錆丸太など、和風建築の美意識に合ったさまざまな化粧丸太を扱っています。
「今、日本国内の戸建て住宅で床の間がある家は100軒中1軒もないそうです。伝統的な銘木の需要はこの30年間で激減しました。そこでうちは、30年前から銘木屋の技術を用いた『自然木』という新しい木材の開発にも力を入れてきました」
「自然木」とは、節や曲がりのある木の皮を剥き、自然乾燥を施して仕上げた木材です。伝統的な建築様式では敬遠される、枝を残した枝付き丸太、皮付き丸太、傾斜地で育った曲がり丸太など、木に備わった自然の造形美をそのまま活かした姿が特徴です。これらの「自然木」は幼稚園の遊具や、店舗のインテリア、戸建住居の手すりや柱など、デザイナーや建築家の自由で新しい発想でさまざまな用途に使われています。
徳田銘木のストックヤードに並ぶ「自然木」は、立木の頃の姿を残し、まるで山からそのまま持ち帰ったかのような生命力を放っています。しかし実際は、銘木の知識や感性がない人が山で立木を見ても、自然木に加工したときの魅力的な姿を想像することは難しいそうです。一般的な建材の価値観に合わない木のほとんどは、除伐されチップにされるか、そのまま山に放置されてしまいます。
徳田銘木では、専務の徳田雅也さんが宝の原石ならぬ原木を見つけて仕入れと加工を担当しています。
徳田雅也さん『以前、樹齢500年を超える大木の枝を仕入れたことがあります。このような貴重な木の幹は皆さん欲しがりますが、その枝は誰もが目を留めずに捨てられてしまうものなんです。そういった木を自分の手で磨いたらどんな姿になるのか、挽いたらどんな杢(もく)が出るのか。想像するのが楽しいし、予想を超えた姿になった時の喜びも大きいですね』
「時代の変化とともに木の評価も変わります。高級材としての銘木もじつは明治以降に広まった『新しい価値』だったんです。今はトレンドの変化が速いので銘木業も顧客のニーズを汲み取って商売する時代。材の新たな価値や可能性を見つけるには、昔ながらの価値観や今の常識だけで木の良し悪しを決めるのではなく、より多様な価値観で木を見る目が大事になってきました。そして何より、クリエイティビティが大事ですね。今日見た木、面白いと思いませんか?なんかワクワクするでしょ。バイオマスも大事。安定供給も大事。でも僕達は既存のマーケットではC材として扱われる木を、新しいマーケットと創造的な加工技術を組合わせる事でA材(エエ材)に出来ればと常に試行錯誤しているんですよ」
いつの日かまた、「銘木」の価値や言葉が変わるかもしれません。それでも時代に合わせて業態や商品をアップデートしながら、伝統の技と山を守り続けていく。社名の2つ目の意味に、徳田銘木のしなやかな強さと覚悟を感じました。
(取材日:2023年7月20日)
株式会社徳田銘木 https://www.tokudameiboku.jp/
奈良県吉野郡黒滝村御吉野12番地 TEL 0747-62-2004
吉野杉・吉野桧をはじめとする多彩な自然木・天然木を取り扱う銘木商。「商品」「マーケット」「提案」をクロスオーバーさせた山林・製造・販売の6次産業化を実践。
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