出羽三山信仰と月山の山菜料理(後編) / 志田靖彦さん・英子さん
山に生きる。— 西川町の知恵と術 —④

山形県西川町の月山志津温泉郷にある老舗旅館〈変若水(おちみず)の湯 つたや(以下、つたや)〉を訪れたのは、旅館の周囲に雪景色が広がる4月下旬。山菜はまだ少ないとのことでしたが、この日調理場で見せていただいた山菜は7種。ナルコユリ、ウルイ、タラノメ、コシアブラ、モミジガサ、アカコゴミ、アオコゴミ、シドケ、ハンゴンソウと、ほとんどが見るのも食べるのも初めてのものばかり。今回は前編に引き続き、〈つたや〉の志田靖彦さんと妻の志田英子さんに、志津地区に伝わる山菜料理の調理法や保存法を教えていただきました。
四季折々の月山の恵み

英子さん「山菜は独特の香りやほろ苦さが特徴ですが、ウルイは山菜にしては苦味がなくあっさりしているので、お漬物や煮物でもおいしいです。タラノメは天ぷらにするのが一番。シドケは山菜らしい独特のきどさ(苦味・えぐみ)があります。ハンゴンソウはちょっと珍しい山菜ですよ」

靖彦さん「茎の色が赤いのはアカコゴミ。緑色が混じっているのはアカコゴミのオスの株です。それとは別に、アオコゴミもあります。アカコゴミのオスは茎に毛が生えているので、アオコゴミと見分けがつきます」


英子さん「今はまだ旬の『走り』。これから5月の末ぐらいまでが山菜が沢山揃う時期だと思います。山菜が旬の『名残り』を迎える頃、今度はガッサンダケ(月山筍/別名:根曲がり竹)が出てきます。ただここは雪が多い地域でしょう。夏でも上に行けば春のものが収穫できますが、山の上は秋も早いので、春と夏と秋が混在する時期があります。山の夏は一瞬ですね。秋になると紅葉が上からずっと降りてきて、今度はキノコを収穫します。山でも森林限界になるほど上の方はキノコが採れませんが、ブナ林に出るキノコは意外と種類がありますよ。かえって、土に出るマツタケやシメジなどは、マツ自体が少ないのであまり採れません」
冬を越すための山菜料理

西川町では、春から秋にかけて収穫した山の幸を、厳しい冬に備えて保存食にして蓄えます。自然の恵みを最後まで大切に食べるための知恵と工夫が、この土地ならではの山菜食文化を育んできました。

靖彦さん「山菜は素材に適したいろいろな保存の仕方がありますが、塩蔵(塩漬け)が多いですね。その中でもウドは塩蔵(えんぞう)することで、よりおいしくなる山菜だと思います。ワラビ、オゾ(コゴミ)、アザミ、フキなども塩蔵することが多いです 」

靖彦さん「塩漬けのウドはを食べる時は、一度土鍋で茹でて一昼夜流水にさらして塩を抜きます。塩漬けにすると茶色に変色しますが、塩抜きをすることできれいな緑色が復活します」

靖彦さん「塩漬けワラビは、沸騰したお湯に入れてお湯が冷めるまで置いてから、流水で一昼夜かけて塩抜きします。塩漬けの時は真っ黒ですが、これも塩抜きすると色はだいぶ薄くなります。アザミは棘があるので、塩蔵にする前に、棘の部分を取って下処理をしてから漬けます。その分手間はかかります。ワラビもアザミも塩漬けはだいたい煮物にします」


英子さん「アカコゴミ、カタクリ、ゼンマイは、さっと茹でてから乾燥させます。アカコゴミは干すとこんなに細くなります。茹でたものをそのまま乾燥させると、ピンとまっすぐになって折れやすくなるので、少し揉んで乾燥させます。そうすると絡んで折れにくくなります。じつはこの手作業が大変で、特にゼンマイは手揉みの技術を持った人が少なくなり、値段も高くなりました」

英子さん「これはゼンマイに見えますが、ワラビです。ワラビを塩漬けにして、夏の天日で揉みながら干したものです。ワラビの塩蔵は各地で行われていますが、さらに干すというのは他県では見ない保存方法かもしれません。干すと食感が柔らかくなり、旨味も凝縮します」

靖彦さん「これはサワモダシというキノコで、シャキシャキとした歯応えがあります。キノコの塩蔵は、1対1か、塩の方が多いくらいの割合で塩を使います。そうしないと腐ってしまうので、この辺では塩をケチってキノコを腐らせると、バカにされますよ」
英子さん「ガッサンダケ(月山筍/別名:根曲り竹)とモウソウチクの筍は瓶詰めにすると、汁までおいしくいただけます。ガッサンダケは畑でも栽培していますが、これは天然です。うちのお父さんが採ってくる筍はすごくおいしいですよ。山菜のアク抜きや保存食は確かに手間がかかりますが、慣れると案外出来てしまうもの。雪国は冬に何も採れないので、昔の人は、春も秋も食材を採っては、保存方法を考えたのでしょうね。うちでは冬の山菜料理が一番手間がかかっていると思います。そこが知恵ですよね。先人の知恵って大したものだと思います」

靖彦さん「西川町には、山菜採り名人は沢山いますし、山菜のシーズンには他県からも大勢の人が山菜を採りに来ます。ただ最近では、家の人に『天ぷらにできる山菜しか採ってこないでね』と言われてしまうそうです。山菜は下処理に一手間も二手間もかかりますから、慣れていない人には大変なのだと思います。うちのお客様の中には、『昔、家で食べていた懐かしい山菜料理が食べたい』と、来てくださる方もいらっしゃいますよ」
「ご馳走」という言葉には、本来「食材を調達するために奔走する」という意味があります。かつて冬を生き延びるために、先人たちが山を巡り、見つけた食材を余すことなく食べられるように工夫を凝らした山菜料理は、まさに「ご馳走」。手軽に何でも食べられる現代だからこそ、最高に贅沢な料理なのです。ご馳走さまでした。(2026年4月28日 現地取材)
志田靖彦さん
1952年生まれ。山形県西川町志津出身。月山志津温泉の旅館「変若水(おちみず)の湯 つたや」の取締役会長。一般社団法人 月山朝日観光協会会長。59歳で山伏修行を始め、旅館の運営を通じて、出羽三山信仰と深く結びついた志津の歴史や文化を守り伝える。
志田英子さん
昭和27年生まれ。東京都三鷹市出身。靖彦さんと大学のクラブで知り合い、卒業後に山形県西川町に嫁ぐ。靖彦さんと旅館を営み、今年で結婚50年の節目を迎える。
変若水(おちみず)の湯 つたや https://gassan-tsutaya.com/
住所:〒990-0734 山形県西村山郡西川町志津10
Instagram:https://www.instagram.com/gassan_tsutaya/
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