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シリーズ山に生きる。— 西川町の知恵と術 —

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出羽三山信仰と月山の山菜料理(前編) / 志田靖彦さん

山に生きる。— 西川町の知恵と術 —③

月山志津温泉郷

山伏や参拝者を世話する宿場町

本道寺口ノ宮 湯殿山神社

「出羽三山には『八方七口(はっぽうななくち)』と呼ばれる7つの登拝口がありますが、志津は本道寺口(ほんどうじぐち)と湯殿山神社 本宮までのちょうど中間に位置します。古くは夏の間だけ山伏や参拝者を世話する番所(小屋)があるだけでしたが、1611年に口留番所(くちどめばんしょ)※1ができたことをきっかけに人が定住するようになりました。

志田靖彦さん
湯殿山神社 本宮

「山伏修行を始めたのは59歳の時です。出羽三山参りは『生まれ変わりの旅』とも言われていますが、私も還暦(=生まれ変わり)を機に修行を始めました。山伏修行は個人的な思いで始めたものですが、志津は出羽三山信仰に深く関わってきた歴史があります。地域の郷土料理も伝統行事も、そこに根っこがあるわけですから、私が山伏修行を始めたことは必然的なものだったと思っています」

身体が目覚める春の山菜料理

つたや 山菜御膳

西川町の山菜料理の特徴は、一年を通して、種類豊富な山菜料理をいただけることです。〈つたや〉を訪れた4月下旬はまだ山菜が出始めたばかりにもかかわらず、テーブルいっぱいに料理が並びます。春の山菜の苦味には、冬の間に体に蓄積された老廃物や余分な水分を排出する強力なデトックス効果があり、身体の内側から目覚めるような春の息吹を感じます。

ミズバショウ

「早春、雪の隙間から真っ先に姿を現すのがミズバショウです。ミズバショウは毒があるので人間は食べませんが、クマは冬眠から目覚めるとまずミズバショウを食べます。クマは冬眠をする時に硬い糞で肛門に栓をしているので、ミズバショウを食べて腹をわざと下し、通じよくしてから活動を始めるのです。ミズバショウはクマの目覚めるタイミングに合わせたように一番に芽を出します。自然の営みというのは本当に良くできていて、無駄がないですね」

出羽三山信仰から始まった山菜料理

塩漬けしてから干したワラビの煮物
つたや 月山山菜そば

「湯殿山は明治の神仏分離令まで女性の入山が禁じられていましたので、本道寺より奥は俗世の穢れを持ち込むことを禁じる参内(さんない)の場とされていました。宿では精進潔斎(しょうじんけっさい)のために精進料理を出していましたので、山菜は都合が良かったのです。

志津では、出羽三山信仰をきっかけに山菜文化が発展してきましたが、それを支えたのは月山の気候風土です。ここは今でも多い年は積雪が6mに及ぶこともある豪雪地。雪は麓から溶けはじめ、溶けた所から山菜が芽吹きます。雪解けに合わせて麓から奥地へと芽が出る時期が少しずつずれるので、山の上では7月まで山菜を収穫することができるのです。また、長い冬に備えて山菜を保存食として加工することで、一年を通じて山菜料理を食べる独自の食文化が育まれてきたのだと思います」

山菜の宝庫

月山

「自由に採れるのは、山が豊かだからこそ。以前、釣りを諦めて山菜採りをしながら山を登ってきた、という人に会ったことがあります。釣りより山菜の収穫が多かったのでしょうね。ただ、私がウドを採りに行くような場所は、山が険しくクマの生息地でもあるので、地元の人が来ることはあっても余所の人が登ってくることはまずありません。ある意味クマに守られてるみたいなところがあります。今はまだ、私の子どもたちも険しい山まで登って採ることはしませんが、いずれ私の山の知識をちゃんと伝えて、それをまた彼らに活かしてほしいと思っています」 

後編につづく(2026年4月28日 現地取材)



執筆者
神尾 知里
兵庫県出身。浜松市在住。新林編集部ライターとして2020年より活動を開始。全国の林業地や森林文化、企業の森などを取材する。

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