メイン コンテンツにスキップ
新林

山を空間的に捉えてみると

新林ゼミ

木はどこからやって来るのか。
と考えた時、これまでの木こり活動や取材を通して、小さな苗木を何年もかけて手入れし、成長した木を伐って運び、製材などの加工が施され、木材あるいは木製品となって手に届く、その時間の長さと木の重さを想像することができるようになりました。

では、木はどの山のどの辺りからどのくらいやって来るのか。
と問われると、その空間的なイメージはまだぼんやりとしています。
この新林ゼミでは、新林編集部がそれぞれの興味関心で論文やデータを持ち寄り山を空間的に捉えてみると、木はどこからやって来るのか、考えてみました。

新林編集部:植野聡子/神尾知里/鈴木陽一郎/野田奈未紀(NCM)/吉岡優一(NCM)

【目次】
皆伐って山のどこで行われているんだろう?
集材車が無人で山の中を走る?
林業機械は犬か猫か
合板はどこからやって来る?
生産量の多い地域は意外な地域だった?

皆伐(かいばつ)って山のどこで行われているんだろう?

植野:日本の木材生産量は、2002年の1,700万m3から2021年の3,400万m3と、この20年で約2倍になっていて、 その増加分はどこから賄われているのか?そして今後も継続的に木材供給できるのか?ということをテーマにリサーチをしている論文(※1)がありました。
林業が盛んな地域として九州を対象に、各県の木材生産量と皆伐(一定区間の木を全て伐ること)地が山のどのあたりに分布しているか、その関係を追っているんですけど、皆伐されるエリアに偏りがあることが示唆されていました。どういうことかと言うと、木材生産量が多い宮崎県や熊本県は、収益性の高い林地に皆伐地がある。つまり勾配が緩いエリアや道からの距離が近いエリアに皆伐地があるそうなんです(図1)。

図1:皆伐されやすい山の空間的特徴

植野:なので、収益性の低い山、つまり急峻であったり、道がないエリアばかり残ってしまうなど、空間的に偏りがあるため継続的な木材生産量を空間的な特徴と合わせて理解する必要があるのでは?という指摘もされていました。

神尾:道があることって重要なんですね。急峻なエリアはそもそも道がつけられないから、今後どうなっていくんだろう?

植野:そういった場所は、架線を張って集材するようになっていくんでしょうか。とはいえ、架線集材頼みになってもいけない(参照:架線集材ノート)という話も聞きますし、急峻なエリアに残った木が今後どうなっていくのか気になりますね。

集材車が無人で山の中を走る?

野田:私は作業道の集材時間に注目してみたんですが、機械の自動化についての研究(※2)が興味深かったです。

吉岡:集材時間というのは?

野田:伐採箇所から作業道を通って土場まで運ぶまでの時間のことですね。林道が整備されてない作業道をつけているエリアは、トラックの代わりに不整地でも走れる集材車のフォワーダを用いて集材作業を行っているわけなんですが、作業道というのは林道に比べて、カーブや道幅、勾配が厳しくて、あまり速度を上げて走ることができないんですよね。

神尾:確かに。木こり活動で作業道でのフォワーダの走行を見ましたけど、トラックのようなスピードは出せないですよね。

野田:そうなんです。どうしても速度を上げることはできないので、長距離になると走行時間がかかって、生産性が下がってしまう。そこで、無人自動走行で山から土場まで行って、荷降ろしして帰ってきてくれるようになったら、これまでフォワーダに乗ってた人が別の作業ができるようになって生産性が上がるのでは?という仮説のもと、走行経路に電線を敷いて、その電線に沿って電磁誘導するというやり方で、土場までの自動走行と自動荷降ろしの実験をされていました。

吉岡:自動運転ではどのくらいの時間がかかるんですか?

野田:661mの作業道で30m3の集材を行った場合、小型のフォワーダで10往復8.5時間、大型フォワーダだとしても、6往復6時間ぐらいかかるそうです。1日の作業時間内で使用するのは、まだ難しい段階のようです。

鈴木:山の中を1日10往復する仕事がなくなると、仕事自体が楽になったり、他の仕事ができたり、生産性が上がりそうだね。実作業で使うにはどういう課題があるんだろう?

野田:例えば、電磁誘導は必ず同じところを走るので、精度が良い反面、 路面に轍(わだち)ができてしまったり、急カーブで電線の破断が起きると、そこから動けないといった結構アナログな問題が多いようでした。また、土場での自動荷降ろしは、有人より降ろした時のズレがあって、その分スペースが必要という問題もあるようです。

林業機械は犬か猫か

神尾:なんかこのフォワーダ、 世話がかかって可愛いなって思いました。小型フォワーダ、大型フォワーダというのも小型犬と大型犬みたいです。

野田:高性能林業機械は長いアームで木を掴んだり伐ったり…りんごを掴む象みたいです。

鈴木:そういうお世話したくなるような機械を作ることによって、アマチュア林業家をたくさん生み出すという戦略もありかも?

植野:そういえば、「山猫」という木を1、2本運ぶための集材機(図2)を作ってる会社が岩手にありますね。

株式会社小友木材店が開発した電動小型木材運搬機「山猫」(写真提供:株式会社小友木材店)

植野:馬搬(ばはん|馬で木材を搬出する技術)からヒントを得ていて、道がないところでも引っ張っていける台車みたいなキャリーケースみたいな形の…

神尾:これいいですね。家庭用の耕運機みたい。もっと可愛くなったらいいな。

鈴木:山猫のサイトに、ガチプロじゃないマイクロ林業家を生み出したいって書いてあって、同じこと思ってる人いた!

神尾:森の中で1人で黙々と作業してたら寂しくなるから、なんかこう、相棒みたいな感じで心が通うような機械があったらいいですよね。

合板はどこからやって来る?

鈴木:僕は「森と合板」の合板リサーチをしていて、国内で生産している合板の原材料はどこから来てるんだ?と気になって色々見てみました。この表(図3)がその供給量と内訳なんですが、国内生産の合板は約90%が国産材なんです。

吉岡:この表は素材供給量とあるから、合板などをつくるための丸太の供給量のことだね。

鈴木:そうですね。ちょっとややこしいですが、国内で生産される合板以外に、国内流通する合板の約50%は、製品として海外から輸入されるものです。

野田:国産材の合板にはどんな木が使われているんですか?

鈴木:スギが一番多いんだけど、このグラフ(図4)のアカマツ、クロマツ、エゾマツ、カラマツ、トドマツと細かく分けられているマツを足していくと、全体で約27%もマツ系の木材が占めていて、実はヒノキより多いんですよね。

神尾:これまでスギとヒノキの林業地ばかり取材していたから、マツの人工林に着目していなかったな。

鈴木:そうですよね。マツの人工林は北海道が圧倒的に多くて、長野も北海道の半分ぐらいあるんですけど、その割に長野産のマツが流通してないんですよね。

鈴木:このピンクのダイヤが合板加工工場なんですけど(図5)、中部地方には、岐阜と長野の県境に一つあるだけなんですよね。マツはあるけど加工する場所がないから、伐られてないのかなと思いました。

植野:逆に、木材生産量が伸びている宮崎県には、合板だけじゃなくて集成材工場や製材工場も密集してるから、やっぱりアウトプット先が豊富にあると木材生産量も伸びていくのかもしれません。

生産量の多い地域は意外な地域だった?

神尾:私は各県の人工林と製材品の生産量の関係を調べてみたんです。(図6)

神尾:そうすると、長野県は、森林面積が第3位なのに製材品生産量は22位で、木曽ヒノキのようなブランド材の産地は意外にも製材品の生産量は多くないのだなと思っていたんです。

吉岡:長野県は森林面積は大きくても、天然林も多いから、木材生産の比重は低いのかもしれないですね。とはいえ、新林では伝統的な林業地の取材が多かったから、製材品生産量が多い産地の状況はよく分かってないですね。他にも意外な地域はありました?

神尾:このグラフ(図6)を見ると、人工林面積に対して、意外にも茨城と広島と宮崎の製材品生産量が多い。広島県は人工林自体もそれほど大きくないのに、製材品生産量は1位なんですよね。

鈴木:人工林面積の大きい北海道より製材品の生産量が多いんだ。

神尾:そうそう。なんかこうダークホース的な感じがしました。

鈴木:さっきの工場の分布図(図5)を見ると、広島県の湾岸にバイオマス発電と集成材の工場が集まっていますね。

吉岡:広島県における主な製材工場の原木消費量のマッピングを見ると(図7)、令和3年度は呉市なんかは外材のみを製材していて、規模も大きい。

植野:海沿いの輸出入しやすいエリアでは外材の利用とともに原木消費量が多くて、山間部では国産材の利用を比較的小規模に行っているという構図なのでしょうか。

野田:それにしても、梱包材やパレットの需要って高いんですね。

吉岡:これまで建材を使うことばかりにフォーカスしてたけど、山の環境という視点で考えたら、適正な量が計画的に使われて山の管理がされていればいいわけだから、何に使われてもいいわけだ。

神尾:用途によらず多様な需要を生み出すことは大事ですね。一方で、安い材の需要が増えるだけでは良い木は売れないままというジレンマは残るようにも思いますが、どうなんでしょう?

植野:確かに、木材の質と需要の関係には偏りが起きているかもしれませんね。今回の新林ゼミでは山の空間的特徴であったり、地理的特性、生産量から、各産地の特徴が読み取れてきました。しかし、担い手の想いや取り組みには、データでは表しきれない多様な考えがありますよね。また取材に出かけて、様々な地域のそれぞれのお話を聞いていきましょう!


※1:山田祐亮・福本桂子 (2023) 九州各県における年間木材生産量と皆伐地の空間分布の関係性, 日林誌 105, 259-263
※2:毛綱昌弘 他 (2021) 電磁誘導式自動走行フォワーダによる集材作業の無人化に関する研究, 森林総合研究所研究報告, 20, 19-28

山を空間的に捉えてみると 掲載号

新林 第7号の表紙

新林 第7号
木はどこからやって来る?

#7を読む

関連記事

天竜の森で木を運び出してみるの関連画像

天竜の森で木を運び出してみる

[木こり活動レポート #2] 第1回の木こり体験から4ヶ月。私たちは再び木こりの前田さんに会いに、静岡県浜松市天竜区のKicoroの森にやって来ました …

木こり活動レポート

天竜の森で木を運び出してみるの続きを読む
森と重機の関連画像

森と重機

チェーンソーで伐った木を集材機に載せて森から降ろす。今も日本の林業の現場では、このような昔ながらの方法が主流です。一方で …

森と〇〇

森と重機の続きを読む
木材輸送の歴史の関連画像

木材輸送の歴史

日本の森では、伐り出した木をどのように運び出していたのでしょうか。先人たちの知恵と技術の発展を紐解いてみましょう。

FORESCOPE

木材輸送の歴史の続きを読む
ページの先頭へ戻る Copyright © Nikken Sekkei Construction Management, Inc.
All Rights Reserved.