カードゲームで森の未来を考える【後編】/山梨日日新聞社
企業それぞれの「森づくり」②-2
山梨日日新聞社(やまなしにちにちしんぶんしゃ)が創刊150年を記念して制作したカードゲーム〈moritomirai(モリトミライ)〉。体験会に参加した前編に引き続き、後編ではゲームを企画した山梨日日新聞社メディア企画局メディアビジネス部の秋山高男さん、三井将也さん、藤井聖二さんにお集まりいただき、ゲーム制作の経緯や皆さんが思い描く持続可能な森との関わり方についてお話を伺った。
山梨日日新聞社
明治5(1872)年7月1日に創刊した、最も歴史のある地方紙。編集方針に報道を通して山梨の発展に寄与することを掲げ、県内のニュース、話題をきめ細かく取材し、国内外のニュースとともに掲載。また2022年7月には創刊150年の記念事業として「やまなしSDGsプロジェクト」をを立ち上げ、山梨県内においてSDGsにつながるさまざまな活動を推進している。
秋山高男さん
山梨日日新聞社メディア企画局メディアビジネス部 部長
三井将也さん
山梨日日新聞社メディア企画局メディアビジネス部 副部長
藤井 聖二さん
アドブレーン社営業3部 部長
この度は体験会にお誘いいただきありがとうございました。大阪や山形など遠方からの参加者が多くて正直驚きました
三井さん 体験会を平日に開催するのは、じつは今回がほぼ初めてだと思います。人が集まるのか心配していましたが、予想外の人数が集まって私たちも驚きました。ファシリテーターになりたい方や、仕事の研修で参加する方にとっては、平日の方が都合が良いということが今回で良く分かりました。
実際のカードゲーム開発はどのように進められたのですか?
三井さん 「やまなしSDGsプロジェクト『moritomirai』(モリトミライ)」は2022年の7月1日から始まりましたが、カードゲームの制作はプロジェクトが走り出してからです。ゲーム制作に必要な取材は、本業の私たちが担当し、実際のゲーム開発はビジネスゲームなどを手掛ける株式会社プロジェクトデザイン(本社・富山県)に依頼しました。プロジェクトデザインの方がもともと森林課題に詳しかったこともあり、制作は順調に進み、約4カ月で体験版ができました。
プロジェクトデザインのすごいところは、弊社と共同で行なった取材内容を元に、ゲーム中の森の状況を「森への愛情」「手入れ・管理」「整備森林(資源量)」「林業の経営力」の4つのメーターで示したことです。このメーターの数値が上下することで森の状態をわかりやすく可視化することができたと思います。
三井さん 体験版ができた2022年11月に、これまで取材でお世話になった林業や行政の方たちを招いて体験会を実施しました。この時の感想をもとにゲームの難易度などを調整し、2023年3月にリリースしました。専門家の方からは、ゲームの設定が現実的ではないという意見もいただきましたが、森に関心のない方に興味を持ってもらうためのゲームですので、リアリティを追求して内容が難しくなりすぎないように気を配りました。
ゲーム中にイベントが発生し、ニュースが入るところが新聞社らしくてユニークですね
秋山さん 今回の参加した皆さんは優秀な方が多く、2ターン目からグッドニュースが出て、ほとんどの方がゴールを達成していましたが、これは本当に稀なケースなんですよ。
三井さん ただこのゲームは、ゴールしたかどうかというゲーム結果に関係なく、 どういう学びを提供できたかがゲーム体験会の成功の評価になると思います。そういう意味では、ゴールしない人が多い方が、学びが多い場合もあるんです。
ゲームではついついお金を稼ぐことに夢中になって、途中でハッとするほど、没入感を感じられたのが楽しかったです
藤井さん 初対面の人とチームを組むことがほとんどですが、毎回必ず盛り上がりますね。子どもたちは大人たちより情報交換が活発ですし、お金カードもどんどん使ってゲームを進めていきます。大人の方がお金に執着したり、ルールを完全に理解しようとしますね。
2030年までにゲーム体験者数1万人、公認ファシリテーター500人を目指しているそうですが、体験会はどのような形で開催していますか?
藤井さん 県内で開催する場合は新聞やプロジェクトデザインのWebサイトで告知して開催しています。体験した方からは面白かったと言ってもらえますが、そもそも森林に興味がない人を対象にしていますので、体験していただくまでのハードルが高いですね。
秋山さん 結局は地道な声かけですね。また、自社のゲームですのでなるべく社員にも体験してもらえるようにしています。系列会社を含めて毎年約30人の新入社員が入って来ますので、新人研修でもゲームを取り入れています。
三井さん 山梨県を中心に体験会を実施していますが、じつは岐阜県の体験者数が全国で一番多いです。岐阜県の国立乗鞍青少年交流の家にはファシリテーターが5人いらっしゃって、そこで自然体験プログラムのツールの1つとして、〈moritomirai〉を使っていただいています。私たちもゲームの様子を見学に行ったことがありますが、ゲームの進め方や盛り上げ方をよく研究されていて、私たちが勉強になりました。
また我々は元々新聞広告を扱う部署ですので、ただのCSR活動ではなく、このプロジェクトをどうやって広告協賛に繋げていくかという観点で活動しています。実際に昨年は、カードゲームの体験会と企業の森の散策を組み合わせたバスツアーを企画し、広告を紙面に出しました。企業の取り組みと森への理解を深めることができる内容に、参加者の方はもちろん、スポンサー企業の満足度も高いツアーとなりました。
秋山さん やはりこういった活動は、ボランティアでは長く続かないですね。〈moritomirai〉の取り組みを通じてスポンサーさんに何かメリットをお渡しできるような企画を作っていくことで、取り組み自体が持続可能なものになっていくのかなと思います。
ゲームをリリースしたことでご自身に変化はありましたか?
藤井さん 森の見方は変わりましたね。あの山は荒れていて暗いな、と見るようになりました。
秋山さん それはありますね。あと私の場合は、普段、読者の反応を知る機会が少ない中、ゲームを通じて皆さんの反応を直接知ることができる貴重な機会となっています。以前、小学校で体験会を実施した時、ゲームの最後に小学5年生の女の子が手を挙げて「私のお母さんは林業従事者です。今日初めてお母さんの仕事がよくわかりました。だから今日家に帰ったら、お母さんにいつもありがとうって伝えたいと思います」と感想を言ってくれたことがあったんです。自分たちのゲームが、自分たちが思っていた以上に伝わっていることを感じられて、この企画をやって本当に良かったと思えました。
三井さん 私は今のメディア企画局に異動する前に新聞記者を10年やっていましたが、世の中を変えるつもりで記事を書いていても、本当に変わっているかどうか、全く実感が持てずにいました。ですからこのプロジェクトを立ち上げた時に、ただ記事を書くだけではどこか無責任な気がしていたんです。そこで私たちなりのアクションという意味付けで企画した中の一つが〈moritomirai〉のカードゲームでした。
もちろんこれは、創刊150年というタイミングで会社として何かやろうというムードにうまく乗れたことが大きかったですし、仲間や協賛いただいた企業の皆様のおかげで実現できた企画です。それでも私たちは、全国のメディアに先駆けて自分たちでアクションを起こし、自分たちで責任を持ちながら社会課題にアプローチしていることを誇りに思っていますし、その誇りを持ってこれからも〈moritomirai〉を広めていきたいと思っています。
ゲームの中も、現実世界も、常にカードは私たちの手の中にあり、使うかどうかは私たち次第だ。それでもゲームのように、あるいは山梨日日新聞社の人たちのように、多くの人が森と関わり、一緒に考えて「カードを出す=何かやってみる」ことが一番の好手であり、森の未来を変えられるのだと思いたい。
(2024年4月25日 現地取材)
やまなしSDGsプロジェクト「moritomirai(モリトミライ)」
https://www.moritomirai.com/
お問合せ
やまなしSDGsプロジェクト事務局 TEL 055-231-3131(平日9:00〜17:00)
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