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シリーズ企業それぞれの「森づくり」

企業による「森づくり」が、今大きな広がりを見せています。 木材や水といった森林資源の恩恵を直接受ける企業は、いち早く森林 …

「生命の循環」を見つめる森【前編】/キヤノン株式会社 天野真一さん 岩崎由理さん

企業それぞれの「森づくり」③-1

ここ数年、都市部の若者を中心に人気が高まっているバードウォッチング。都会の真ん中で双眼鏡を片手に鳥のさえずりに耳を澄ます癒しのひとときが日々のストレスを解消してくれるのだという。

そんな「都会のバードウォッチング」をはじめとした、生物多様性の保全活動に取り組むのが、東京都大田区下丸子に本社を置くキヤノン株式会社(以下、キヤノン)だ。本社敷地内の「下丸子の森」と呼ばれる緑地帯には約80種1,000本の木々が植えられ、野鳥が飛来しやすい環境に整えながら、定期的に野鳥の飛来調査や観察会が行われている。

今回は、この森で野鳥の飛来調査を続けてきたキヤノン株式会社サステナビリティ推進本部の天野(てんの)真一さん、岩崎由理さんに、この森から始まったキヤノンの鳥をテーマとした生物多様性の保全活動〈キヤノンバードブランチプロジェクト〉について、お話しを伺った。


キヤノン株式会社 
サステナビリティ推進本部 主幹 天野(てんの)真一さん
1987 年キヤノン株式会社入社。2015 年よりサステナビリティ推進部でバードブランチプロジェクト等の推進を担う。好きな野鳥はカワラヒワ。どこでも見られる鳥ですが、あの電子楽器みたいな金属的な声が好きです。

キヤノン株式会社 
サステナビリティ推進本部 岩崎由理さん

1998年キヤノン株式会社入社。バードブランチプロジェクトの活動拡大に向けて取り組む。好きな野鳥はシジュウカラ。巣箱の中に丁寧に作られた巣を初めて見たときに感動しました。


写真左より:岩崎由理さん、天野真一さん 

「キヤノンバードブランチプロジェクト」を始めたきっかけは?

天野さん 2010年の第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で生物多様性の保全に関する20項目の世界目標が採択され、その頃から企業も生物多様性の保全に取り組もうという気運が高まりました。我々も、生物多様性が持続可能な社会にとって欠かせないものであると深く認識しまして、2013年にグループ共通の「生物多様性方針」を策定しました。その具体的な取り組みの1つとして立ち上げたのが、鳥をテーマとした生物多様性の保全活動〈キヤノンバードブランチプロジェクト〉です。

なぜ「鳥」をテーマに活動しているのですか?

天野さん 鳥というのは、生物多様性、そして「命の循環」のシンボルなんです。ニホンオオカミが絶滅した日本においては、オオタカなどの猛禽類が食物連鎖の頂点に位置し、その他の鳥たちも上位を占めています。鳥を見ることで、鳥が食べている虫や植物、植物を育む水や土壌といった生態系のバランスがわかることから、鳥が自然環境の指標になっています。

生態系ピラミッド(提供資料)

天野さん また鳥とキヤノンの製品には、親和性があります。双眼鏡やカメラといったキヤノンの製品を使い、国内外の各拠点で「鳥」という世界共通のテーマで活動できると考えました。そして最後にもうひとつ理由がありまして、じつはキヤノンの社章は1937年の会社創業時からワシのマークを採用しています。ワシが優れた視力を持つことから「光学性能が優れている」という意味と、空高く世界に羽ばたいていきたいという、2つの意味を社章に込めています。こういった企業文化の背景もあり、鳥をテーマにして活動することになりました。

キヤノンの社章

下丸子の森ではどのような活動をしていますか?

天野さん プロジェクトの正式な立ち上げは2015年ですが、実はここ「下丸子の森」では、2014年の4月から敷地内に飛来する野鳥の調査を始めていました。最初は日本野鳥の会の方にご指導いただきながら活動していましたが、今では自分たちだけで調査しています。野鳥の観察を月に1回続けるとともに、ネットワークカメラによる定点観察、野鳥の撮影などを行い、2024年で丸10年になります。また巣箱やバードバスの設置、野鳥が好む赤い実のなる木の植樹などを行い、野鳥が飛来しやすい環境を整えています。

本社以外でもこのプロジェクトに参加している事業所はありますか?

天野さん 現在ここを含めて国内外のキヤノングループ59拠点(2024年9月2日現在)がこのプロジェクトに参加しています。昨日も岩崎が神奈川県の川崎事業所に行ってきたところですが、駅に近いわりに緑地帯が比較的多く、多摩川もあるので鳥が集まってきます。昨日はカワラヒワという鳥が来ていました。

海外も中国やマレーシアでも観察会が開催されていますし、USAは昨年からの参加ですが、かなり本格的に取り組んでくれているようです。またフランスでは、研究開発拠点内の緑地を、鳥たちが生息しやすい環境にするため、あえて草を綺麗に刈り込み過ぎないなど、緑地整備の見直しを行っています。地域によって集まる野鳥も違いますで、地域の専門家と連携しながらその土地に合った生物多様性保全活動を進めています。

また下丸子の森は、これまでの活動が認められ、環境省の「自然共生サイト」認定事業において、2023年に「生物多様性保全区域」として認定されました。今後、本社以外の拠点でも「自然共生サイト」認定を目指しながら、生物多様性の保全に向けた活動をキヤノングループ全体で推進していく予定です。

※自然共生サイト:2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする世界目標(30by30)の達成に向けて、「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定するもの

社員の方もこの活動に参加していますか?

天野さん 毎月の飛来調査は我々担当者で行なっていますが、社員向けに野鳥観察会や巣箱の観察会を開催しています。

岩崎さん SNSの公式アカウントでは、下丸子の森で見られる野鳥を中心に、社員ボランティアの方たちに撮影していただいた写真を紹介しています。

天野さん 下丸子の森では8箇所にシジュウカラ用の巣箱をかけていますが、鳥たちは春から夏に子育てをして、秋以降は巣箱を使いません。そこで秋には必ず巣箱の中の巣材を取り出し、掃除・補修をして架け替えます。そのタイミングで巣箱の観察会を開催し、使われなくなった巣箱の中身を観察するんです。茨城県の取手事業所では、毎年巣箱コンテストも開催しています。

岩崎さん 鳥の種類によって巣の作り方も異なります。シジュウカラが使った巣箱の中には、苔や小枝、動物の毛などが入っています。

天野さん 巣箱を使う鳥は、日本には30種類ぐらいいるそうです。鳥の大きさに合わせて入り口の穴や巣箱の深さ、底の広さが違うんですよ。

事業所以外のプロジェクト活動はありますか?

天野さん はい、バードブランチプロジェクトでは、事業所を中心とした生物多様性への配慮のほかに、生物多様性を育む社会づくりへの貢献、生物多様性保全への自社技術、製品の活用に力を入れています。生物多様性を育む社会づくりとしては、主にWEBサイトによる情報発信ですね。野鳥写真図鑑や野鳥の撮りかた解説、 野鳥に関するコラムなどを通じた情報発信を積極的に行っていますが、なかでも野鳥写真図鑑と野鳥の撮りかたが最も閲覧数の多いコンテンツですね。このWEBサイトをきっかけに野鳥に目を向けていただき、そこから生物多様性の大切さを知っていただけたらという想いでつくっています。

プリンター部門では、鳥のペーパークラフトを作っています。こちらも〈キヤノンクリエイティブパーク〉というWEBサイトで公開していますので、ダウンロードしていただければ、どなたでもつくることができます。じつは私たちからもリクエストして、絶滅種のシマフクロウとアホウドリのオリジナルペーパークラフトを作っていただきました。

キヤノン製のネットワークカメラ

自社技術、製品の活用では、我々はカメラが本業ですので、銀座のショールームでの野鳥の写真展や、お客様向けの野鳥撮影セミナーの開催、プロジェクトの活動を伝えるYouTubeチャンネルの配信などを行なっています。またカメラやレンズといった機材の寄贈、東京港野鳥公園にはネットワークカメラを設置しています。

鳥好きの仲間から、動いている鳥の様子を撮影できるキヤノンの望遠鏡を見せてもらったことがあります。

〈PowerShot ZOOM〉ですね。これは観察しながら同時に撮影、記録できる「撮れる、望遠鏡」として2020年に発売されました。発売前にはこの望遠鏡を使って、東京港野鳥公園のレンジャーさんと鳥を観察する自然観察会を開催しました。私もプライベートでアオバトを撮りに行きましたが、とてもコンパクトで軽く、操作が簡単なのが特徴です。

それではそろそろ、「下丸子の森」で鳥を観察してみましょう。(後編につづく)

(2024年5月15日 現地取材)


「生命の循環」を見つめる森【後編】

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