「国有林のFSC認証率100%達成」で見えた台湾林業の新しい未来

2024年12月、台湾当局が管理するすべての森林がFSC認証※1を取得した。その森林面積は約160万haにおよび、台湾の総森林面積の71.5%を占めるという。取り組み開始からわずか5年でアジア最高の認証率となった台湾の森では、今何が起きているのだろうか。2016年に林務局(現・林業及自然保育署)局長に就任して以来、台湾の林業の再興を推進してきた林華慶(リン・ホアチン)署長に、台湾がFSC認証取得に取り組んだ背景と、台湾林業のこれからについて伺った。
農業部林業及自然保育署 署長 林華慶(リン・ホアチン)さん
国立台湾博物館副館長、台北動物園副研究員兼係長などを経て、2016年に林務局(現・農林部林業及自然保育署)局長に就任。以来、国有林におけるFSC認証の導入や「林下経済」の推進など、台湾社会との対話を重視した台湾林業の行政改革を牽引している。
複雑な歴史を持つ台湾の森

国土の約6割が森林に覆われ、急峻な山が多い台湾の森。一見すると日本とよく似ていると感じるが、国有林の割合は日本が約3割であるのに対し、台湾は約9割と大きく異なる。そしてこの国有林の割合には、私たち日本人が深く関わっていることをどれだけの人が知っているのだろうか。
先史より台湾原住民※2によって守られてきた森は、日本統治時代に台湾総督府によって接収され、台湾原住民は森林の利用や所有において大きな制限を受けることになった。その後、台湾総督府が木材資源の持続可能な利用を目的とした森林事業計画を策定したものの、太平洋戦争の勃発によって当初の植林地開発は頓挫。結果として台湾の森の大部分が天然林として残り、終戦まで大量の天然ヒノキや天然クスノキが伐採された。
※1 FSC (Forest Stewardship Council:森林管理協議会)
環境保全、社会的な利益、経済的な継続性の観点から、持続可能な森林管理を世界に普及させることを目的とした国際的な森林認証制度。森林を対象としたFM(Forest Management)認証、加工・流通業者を対象としたCoC(Chain of Custody)認証、単体の建築物や船、イベント構造物などを対象としたプロジェクト認証(全体認証・部分認証)がある。
※2 台湾原住民:台湾には政府から認定された16の部族が独自の言語、文化、伝統を持ち、主に東部や山岳地帯に居住している。台湾では「原住民」が正しい呼称であるため、台湾の表記を尊重して本サイトでは「原住民」を採用する。
環境保護運動と林業の衰退
台湾総督府が管理した森は、終戦後に台湾当局が国有林として引き継ぎ、天然林の伐採に依存した森林開発が続いた。その後、戦後の経済発展とともに乱伐が進み、森林破壊が深刻化すると、台湾社会で天然林を保護すべきだという世論が高まった。80年代後半になると森林環境保護運動は急激に拡大し、1991年には「天然林伐採禁止令」が発令された。
その後、台湾の環境保護の概念は、人工林の木を伐ることさえ環境保護に反する行為だという考え方が定着。環境活動団体からの抗議を懸念した台湾当局は、伐期を迎えた人工林であっても伐採に踏み切ることができない状態が続き、台湾の林業は衰退を余儀なくされたという。
「木を伐る=環境破壊」なのか

この状況に危機感を感じたのが、2016年に林務局(現・農林部林業及自然保育署)局長に就任した林華慶(リン・ホアチン)さんだった。当時の木材自給率は0.5%を下回り、台湾で消費される木材のほとんどが輸入材となっていた。
「当時の輸入材の多くは東南アジア諸国の天然林から伐採されており、それらの天然林はオランウータンやサイチョウといった絶滅危惧種の生息地でもありました。さらに輸入材は、木材輸送に膨大なエネルギーが消費され、大量のCO2が排出されます。これらの問題は、地球市民として我々が取り組むべき生物多様性の保全や気候変動対策にも反するものでした」
林業の衰退は、輸入材依存による生物多様性喪失、木材輸送によるCO2排出量の増加、人工林の荒廃、林業従事者の後継者不足、山村の過疎化といった新たな社会課題を生む結果となった。
「人工林は本来、間伐などの適切な管理が必要です。さらに木材は、鉄やコンクリート等の資材に比べて製造や加工に要するエネルギーが少なく、再生可能な資源です。そこで私が林務局の局長に就任した年に、人工林を改めてしっかり管理すべきだと同僚たちに話しました。局内では台湾社会からの不要な反発を避けるため、反対する意見も出ていました。そこで半年以上かけて同僚たちと協議を重ね、2017年に『国産木材元年』を宣言しました。こうして林務局は、台湾原住民に対して20余年来続けてきた伐採禁止政策を緩和し、国産木材の自給率を向上させる政策へと舵を切ったのです」
FSC認証が選ばれた理由

「しかし台湾社会は、環境破壊を招いた過去の森林政策によって、当時の林務局に不信感を抱いていました。そこで私たちは、一般市民とのさまざまな対話の機会をつくり、これからの台湾林業のあり方を模索しました。また、独立した第三者の認証機関による審査を受けることで、人工林の伐採が環境に優しい収穫や収益創出のプロセスであることを証明し、国内の環境保護団体や多くの市民の信頼を得ようと考えました。これがFSC認証を取得しようと決めた理由でした」
社会から信頼を得る手段として導入を進めたFSCの認証制度。しかし、数ある認証機関の中で、林署長がFSCを選んだ理由とは何だったのだろうか。
「台湾は、国有林の約90%が原住民の伝統的な領域であり、終戦後から続いた原住民の森林利用権の制限により、当時の林務局と原住民の間には、数十年にわたる複雑な因縁がありました。この歴史的経緯こそが、FSC認証の導入をさらに必要とするゆえんです。
FSCは森林経営や開発における、環境・社会・経済の包括的な配慮を重視しており、地域コミュニティや部族のインフォームド・コンセント(十分な情報に基づく同意)や参加を強く求めています。また、林業従事者の権利保護についても言及されています。この理念は私が強く共感するところでもあります。
しかし2017年当時、当局職員の原住民に対する理解は経済面のみに焦点が当てられており、環境面や社会面に対する認識は比較的乏しい状態でした。これは当然ながら、職員たちがこれまで受けてきた教育に、台湾という特殊な状況——多様な民族が共存し、過去の歴史的経緯が複雑に絡み合った過程——において、注目すべき社会的側面が軽視されてきたことが関係しています。だからこそ、FSCの認証制度の導入を通じて、当局の職員が森林管理の経済面だけでなく、社会面や環境面についてさらに理解を深める余地があると考えました」
社会課題に対する共通認識を育てる

「FSCの導入を推進するにあたっては、職員の旧来の意識変革が最大の課題でした。また、林務局にはすでに独自の森林経営計画がありましたので、2つの森林管理システムが存在することによる業務負担を軽減する必要がありました。そこで、全職員を対象とした研修を行う一方で、署内規程や行政手続きの簡素化を図り、段階的に職員の意識と業務の両面を整備していきました。
認証の取得では、南部の屏東(ピンドン)地区から先行してモデル事業を開始し、FSCの認証を取得しました。その後、先行実施による経験を活かし、段階的に全区域の認証を取得していきました。じつは、当初最も慣れなかったのは人工林の伐採活動です。以前は私たちが伐採し、入札を行い、請負業者が獲得すれば、それが一つの入札案件として進めていました。しかし現在は、まず現地の部族と話し合い、彼らの同意を得る必要があります。当初、職員の中にはなぜわざわざ部族に説明しに行く必要があるのかといった不満もありましたし、部族の同意がなかなか得られない案件もありました。しかし今では、徐々にこうしたプロセスが当然のことだと理解されつつあります。これは非常に重要なことです。なぜなら台湾の森林管理において、原住民こそが最も重要な利害関係者だからです。
新たな仕組みを受け入れることによって、原住民側も部族やコミュニティに専門知識を持つ人材を招いて参加してもらうなど、何らかの干渉や影響を受けることになります。いずれにせよ、この数年間で私たち職員も原住民側も、過去とは大きく異なる考え方を学び、徐々にこうしたプロセスに適応していったのです」
林署長の狙いは、地域コミュニティや部族の同意を得るというFSCの認証プロセスが、双方向のコミュニケーションを促し、社会課題に対する共通認識を育てることにあった。そして課題共有が関係者の主体的な解決行動や迅速な意思決定に繋がり、結果として「5年で100%」という成果に繋がっていった。まさに「急がば回れ」の行政改革だ。
持続可能な林業と自然保護で築く新たな未来
2024年にすべての国有林がFSC認証を取得したことで、台湾の林業は新たな時代を迎えた。林務局は名称を農林部林業及自然保育署に改め、その役割も単なる林業の推進から、「持続可能な林業」と「人と自然の調和のとれた共存」へと変わり、国産材の自給率の向上、森林管理と現地先住民族の権益の融合、森林の共同管理の実施、山村経済の活性化、生態系ネットワーク※3の構築に努めてきた。
「今では『なぜ木を伐採するのか』という世間の声は次第に少なくなってきました。これは、私たちが徐々に社会の信頼を獲得していることを示しています。台湾で森林保護に最も注力している環境保護団体も現地視察で問題がないと判断し、この方向性を歓迎しています。森林課題は一見すると環境問題のように見えますが、実は背後に社会問題や経済問題が潜んでいます。だからこそ私たちは社会と経済の側面から改善を図り、それによって環境問題も解決しようとしています。これはFSCの理念とも関連しており、これからの台湾の林業が基盤となっていくでしょう」
FSCの認証制度は持続可能な森林管理を実現するための手段であり、目的ではない。認証の取得に向けたプロセスにこそ価値があるということを、私たちは忘れてはいけない。(2025年12月3日 現地取材)
※3 生態系ネットワーク:森林、河川、農地、都市緑地などの生息地(コア)を有機的につなぎ、野生生物の移動・交流を確保する取り組み
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