メイン コンテンツにスキップ
新林
山に生きる。— 西川町の知恵と術 —の関連画像

シリーズ山に生きる。— 西川町の知恵と術 —

山形県のほぼ中央に位置する西川町は、南に朝日連峰、北に出羽三山を望み、山岳信仰やマタギ文化、山菜料理、つる細工など、山に …

山と手しごと/KOGUMA 伊東 広さん

山に生きる。— 西川町の知恵と術 —①

大井沢の手しごと

土間で履く「ひきずんべ」

「今は『籠バッグ』として人気のつる細工ですが、もとは弁当かごや山仕事に行く時などに使う『はけご』と呼ばれる籠など、日常の生活用具としてつくられていたものです。大井沢ではヤマブドウに限らず、アケビのつる細工や、わらで編んだ蓑(みの)、ふかぐつ、ひきずんべ(スリッパ)、雪道を歩く時に使うかんじきなど、さまざまな暮らしの道具を自分たちの手でつくってきました。とはいえ、地域の高齢化や過疎化が進み、素材となるヤマブドウが減少したことで、今では職人の数も片手で数えるほどです」

伊東 広さん

雪国の自然と暮らし

「ここは1年の半分が雪に閉ざされ、積雪が3mになることもあります。地元のお年寄りに話を訊くと、昔は医者に診てもらうために冬の山を越えて隣町まで歩いて行ったそうですから、その過酷さは想像を絶します。僕は大井沢に来るまで世界中を放浪し、人の生き抜く知恵や術というものに関心を持っていました。ここにはまさに、厳しい冬を越すための生活の知恵や術があり、尊敬できる暮らしがあります。そうした暮らしを自分もしてみたいと思ったことが移住のきっかけです」

築113年の古民家

大井沢の〈山葡萄つる細工〉

伊東さんが編んだ〈山葡萄つるかご〉

「大井沢では、細いひごで隙間なく編み上げる『網代(あじろ)編み』という技法が伝統的な編み方です。もうひとつの特徴は、籠の縁(ふち)ですね。大井沢では矢筈縁(やはずぶち)という技法が主流で、何度も往復して編み込むことで、がっちりとした堅牢なつくりになっています。籠の形は縁に向かって少し丸みを帯びています。角張ると今っぽい『籠バッグ』にはなりますが、僕は伝統的で機能的な大井沢のかたちを踏襲しています」

頑丈な構造と優れた耐久性、手に馴染む無駄のない機能美が大井沢の山葡萄籠の特徴です

山からはじまる「手しごと」

「梅雨時期はツルが水を一番吸い上げる時期なので、ツルの成長に伴って幹と樹皮の間が浮いて皮が剥ぎやすくなります。この時期しか皮が剥げないので、一年分のツルを一カ月で集めます」

ヤマブドウのツル

「ヤマブドウは、一度採取した木から再びつる細工に適した太く長いツルに成長するまでに数十年かかります。ところが30年ほど前に大井沢のつる細工が注目されたことで、地元の人だけでなく県外から採りに来る人が増えてしまいました。そのような理由から今ではとても貴重な植物になってしまいましたね」

「ヤマブドウのツルを採集する時は、鬼皮の表面や皮の剥け具合、厚みを見て必要なツルだけを採ります。たとえその年はツルの状態が悪くても、雨や気候などの条件で、次の年にはちょっと良くなることもあります。そうしたことを見極めながら、できるだけ無駄が出ないように採っています」

「ヤマブドウは、秋になると他の植物より早く葉っぱが色づくので見つけやすくなり、冬は落葉するので、ツルが見えやすくなります。そのようして日頃から山菜採りやキノコ狩りのついでにヤマブドウを探しています」

自然の理にかなったものづくり

堰から引いた山の水

「山から採ってきたツルの皮は、天日で十分乾燥させ、編むまでの間はカビさせないように屋根裏などで保管します。籠を編む時は、山から引いた冷たい水に一昼夜浸し、柔らかくしてから使います。流水に浸しているので、山の水が使えるのは助かりますね」

ツルを一昼夜かけて水に浸す
ツルをなめす道具

「網代編みの部分は、多少厚みがあって硬いひごでも大丈夫ですが、取っ手の部分のように細かく巻く部分は薄くて柔軟性のあるひごを使用します。ひごの厚みは削って調整もできますが、削ってしまうとその分強度が弱くなってしまうので、そのまま使うのが一番です」

「編む場所によってツルの皮の厚さを変えるために、あらかじめ山で3種類(普通・薄め・厚め)の厚さに分けて集めます。長さが足りないものや、節があるものなど、網代編みに不向きな素材は、ツルの個性を活かした籠やコースター、アクセサリー小物の制作に使っています」

暮らしに宿る美意識を伝える

Like Vine Project」のリーフレット
山仕事の時に被る「ときと」

「ものづくりは、大井沢を知ってもらうための一つの手段です。僕にとって大切なのは、大井沢の伝統を受け継いだ継承者として次の世代に繋げていくこと。そして、つる細工をきっかけに、自分が好きな大井沢を多くの人に知ってもらうことです。そこに僕がやる意義があると思っています」


1990年生まれ。長崎県出身。世界30カ国以上を旅し、帰国後、2020年に訪れた山形県西川町大井沢で雪国の暮らしに感銘を受け、そのまま移住を決断。地元の職人から〈山葡萄つる細工〉の手ほどきを受け、現在は築113年の古民家で暮らしながら制作を続けている。2023年〜25年、日本民藝館展入選。2024年、「NIPPONの47 2025 CRAFT 47の意志にみるこれからのクラフト」に選出される。

Website:koguma-o.com
Instagram:__ko_gu_ma__


シリーズ山に生きる。— 西川町の知恵と術 —

山に生きる。— 西川町の知恵と術 —の関連画像

山に生きる。— 西川町の知恵と術 —

山形県のほぼ中央に位置する西川町は、南に朝日連峰、北に出羽三山を望み、山岳信仰やマタギ文化、山菜料理、つる細工など、山に …

new forestory

山に生きる。— 西川町の知恵と術 —の続きを読む
マタギ文化と大井沢の暮らし/金子利光さんの関連画像

マタギ文化と大井沢の暮らし/金子利光さん

[山に生きる。— 西川町の知恵と術 —②] 山形県西川町の山葡萄つる細工職人・金子利光さんに、マタギ文化を継承する大井沢の暮らしについて教えてもらいました。

new forestory

マタギ文化と大井沢の暮らし/金子利光さんの続きを読む

関連記事

木こりの一年の関連画像

木こりの一年

木を植える、木を育てる、木を伐る、丸太にして市場に運べる状態にするまでの一連の作業が木こりの仕事です。 春 木の伐採が終 …

FORESCOPE

木こりの一年の続きを読む
ページの先頭へ戻るCopyright © Nikken Sekkei Construction Management, Inc.
All Rights Reserved.