ツル植物で手仕事してみる【前編】 アオツヅラフジでカゴづくり
里山よもやま話 〜人と植物が暮らす社会〜 #5
はじめに
前回の後半で、ツル植物の茎である「ツル」の部分を利用したカゴ編みについてご紹介した。しかし人の作ったものをただ紹介するだけでは芸が無い。自分で作ってみてナンボであろう。
しかし、簡単には作れない「篭」を、手先が不器用で、カッコイイものづくりとは最も対極にいるような私が、果たして編むことができるのだろうか? 本を見ても出来る気がまったくしない。だが幸い身近にカゴ編みを趣味とする同僚のO先生(師匠!)がおられることを知ったので、さっそく教えを請うことにした。
里山整備をすると大量のツル植物と格闘することになる。これを自分でカゴに編むことができればカッコイイのでは? さてさてそんなに上手くいくのだろうか? では続きをどうぞ。
材料探し
何はともあれまずは材料のツル探しだ。前回にも紹介したアオツヅラフジがターゲットである。幸い、と言っていいかどうかは分からないが、手入れされていない林縁ならそこかしこにあるはずだ。ところが簡単に入手できるだろうと思っていたら、いくつかのハードルがあることが分かった。まず、手入れされていない、とは言っても道に藪がせり出してきては困るので、道路周辺は思ったより頻繁に刈り込まれている。せっかく(?)生えてきた林縁のツル植物も一緒に刈られていることが多い。さらに、比較的多く自生している印象のアオツヅラフジも、結構探さないと見つからない。いるところにはいるのだが・・・。
山際の道路を探していると、さっそく藪っぽい場所を発見(写真1)。

ここは師匠のO先生があらかじめ目をつけていたあたりだそうだ。流石カゴ編みをしている人は普段から目を光らせているのだなと感心した。目を凝らしてみると・・・あったあった。アオツヅラフジである(写真2)。さて、さっそく採集開始である。が、アオツヅラフジはお互いにツルが絡み合って何が何だかわからない状況になっている(写真3)。


なるべく長く1本つながった状態でツルの材料を採取したいので、根元を探してそこから剪定ばさみでチョキンと切る(写真4)。もう少し上、芽の上で切ったら翌年また生えてくるかも・・と頭によぎったが、土の中には根茎があるはず、悪いけどそこから芽を出して一からやり直してくれ、と、開き直る。

採集するためには道を外れて斜面を下り、藪に突撃しなければならない。アオツヅラフジの絡んでいるネザサは、刈り込まれることでちょうど膝下くらいの高さになり、尖った稈(かん:稲・竹などの、中空になっている茎。)が容赦なくズボンの上から脛のあたりを刺してくる。最近風呂に入ると脚がヒリヒリすると思ったが、これが原因か。藪をガサガサするなら膝までの長靴がお薦めである。膝から下が多少はガードされる。
頑張って採集したツルは、葉っぱを全てむしって、絡んでいるツルはほぐし、それぞれ1本のコードのようにする。互いに絡んでいたり、ネザサの稈に巻きついていた部分は、巻癖がついていてまるで引き伸ばしたバネのようだ(写真5)。後で嫌と言うほど知ることになるのだが、巻き癖のついたツルは素直で無いので使いにくい。うまくカゴを編もうと思ったら、採集の時から既に闘いは始まっているのだ。一方で、上の方に背伸びして絡んでいる部分や、上からたれ下がっているようなものは比較的素直で真っ直ぐである。できるだけこういった部分が多くなるように集めるといいらしい(写真6)。確かに上から下に垂れ下がるときは比較的まっすぐになりやすい気がする。


次の写真は丸太から垂れ下がって生えているスイカズラとフジのツルである(写真7)。

素直でよさげな素材になるように見える。その次の写真は、里山整備の実習のひとコマなのだが、注目していただきたいのは、実習の様子では無く、写真右側の足元に写り込んでいるツルである(写真8)。

これは林内を這うフジのツルなのである。以前紹介したように、フジは木登りに特化した器官を持たないため、ツルを巻いて全身で登っていく。しかし林床に生えていて、よじ登る対象が見つかっていないときは、ひたすら直線的に枝(というか茎)を地面に這わせるのだ。地面を這う林床のフジのツルは、あまり太くなっていなければ、素直でカゴ編みに使いやすいのだそうだ。こういった真っ直ぐなフジヅルを見つけたければ、よじ登りやすい素材のたくさんあるような林縁は向いていない。長いこと放置されて低木層が常緑樹でいっぱいになり、林床が暗くなって低木が淘汰されてきたような林が狙い目である。
下ごしらえ
さて、採集したツルを一旦リールのようにぐるぐる巻きにして持ち帰ると、あとは屋内での作業である。ちなみに巻いただけのものは、色々と飾りを挿せばクリスマスリースのベースとしても使うこともできる(写真9)。あまりテクニックは必要なさそうなので、私にもできそうだ。今回は使わない。

編む前に、ツルにある冬芽を爪やハサミ、カッター、剪定ばさみなどで取り除く(写真10)。

つけたままでも編めないことはないそうだが、色々とひっかかるため編みにくいそうだ。この作業は地味だが時間を要する。私みたいな下手くそはここで手間を惜しんではいけない。ただし、丁寧に作業しないとせっかくのツルを途中で切ってしまうことになる。短くなったツルも、途中から挿し込めば使えるそうだが、工程が増えてしまうし雑な感じになるので、長いにこしたことはない。慎重に作業を進める。20~30分で下ごしらえは終了、いよいよ編みの工程に入る。
編み
編みの最初に目的のカゴの大まかな形と大きさを決める。今回は直径10cm、高さ5cmくらいの浅めのカゴを想定して編むことにする。最初にカゴの底と側面の骨格になる部分のフレームを作る。少ししっかりめのツルをカゴの大きさに合わせて6本用意し、3本ずつにして直行するように重ねて置く(写真11)。

ここで互い違いに編んでしまえばいいような気もするのだが、ただ置くだけでいいそうだ。これを細めの長いツルで隣り合うフレーム同士の間を縫うようにして編んでゆく。編んでいる最中は無言で集中していたため、写真を撮り忘れてしまった。
やってみて分かったのは、素材のツルの重要性である。カゴの出来は採ってきたツルで半分以上決まってしまっていると言っても過言では無い。フレームは途中でカゴの壁面になるため、立ち上がるように折り曲げなくてはならないが、素材が悪いと曲げている最中にポキッと折れてしまう。次々に折れると心も折れる。やめて最初からやり直したくなってくる。最初は11本あったフレームが、曲げに失敗しているうちに1本減り、2本減り・・といったことも珍しくない。綺麗に編むためにはフレームの本数は奇数である必要があるが、途中で減ると計算が狂ってしまう。なかなかどうしてうまくいかないものである。
出来栄え
さて、出来上がりをご覧頂きたい(写真12)。

生まれて初めて作ったにしてはまぁまぁの出来ではないかと思うがどうだろうか。底のところはキッチリ編めているように見えるのだが(写真13)、だんだんと縁に上がってくるにつれ、使っているツルが捻れたものになってきた関係で、うまく編めないようになっているのがわかる(写真12)。ツルが暴れてなかなか言うことをきかないのである。

まぁそれも自然素材ならでは、と考えればよいのかもしれない。「これも味」とか言って誤魔化すことにしよう。アオツヅラフジは、若くて青いツルをそのまま編むと、綺麗な若草色になる(写真12・13)。美しいのだが、時間がたつと茶色っぽく変色してしまう(写真14)。これはこれで良いと思うが、鮮やかな緑色も捨てがたい。色をとめておく方法があればいいのに、と思う。

調子に乗ってもう1個作ってみた(写真15)。残りの材料が少なかったので、親指が3本入るくらいの大きさの小ぶりのカゴである。

側面を立ち上げるために小さな瓶を使ってフレームをうまく曲げていく。フレームを底面から急角度で立ち上げるのがなかなか難しい。底が微妙に平らでないのできっちり直立しないがそこはまぁご愛敬。白・茶・緑と三色が模様になっていていい感じ(だと自分では思う)なのだが、これも時間が経つと変色してしまう(写真16)。

まとめ
編んでみて気づいたのは、ツル植物の強靱さと柔軟性である。もともとよじ登るための器官でもある「ツル」の部分は十分な強度を持っている。さらに途中で水と養分を送っている道管が切れてしまったり折れたりすると、そこから上で光合成ができなくなってしまう。そうならないためには力がかかっても切れないだけで無く、ポキッと折れず力に対して柔軟に対応できる必要がある。これはカゴを編むためには欠かせない性質なのではないだろうか。
とってきたばかりの新鮮なツルは、曲げても折れにくいが、時間が経てば経つほど枯れて折れやすくなるような気がする。一度編んでしまえば枯れてしまっても大丈夫だが、枯れたツルで編むときには樹種を選びそうである。まだ始めたばかりだが、カゴ編みはなかなか奥が深そうだ。
100円ショップで似たようなものを買ってくることもできるが、生活に必要なものを自分で作るのは単に趣味というだけでなく、何というか、大袈裟にいえば自分の生活環境を能動的に作り上げているという意味で、生きている実感につながる気がする。何でも買って間に合わせることのできる時代だからこそ、自分で作ることに意味が見いだせるのかもしれない。
(後編につづきます)
今回登場した植物

著者:柳沢 直(やなぎさわ なお)
岐阜県立森林文化アカデミー教授。
京都府舞鶴市出身。京都大学理学部卒業。京都大学生態学研究センターにて、里山をフィールドに樹木の生態を研究。博士(理学)。専門は植物生態学。地質と植生の関係に興味がある。2001年より現職。風土と人々の暮らしが育んできた岐阜県の自然が大好きだが、特に近所の低山(標高250m未満)いくつかに登っては自分の家を眺めて悦に入っている。温暖化で年中登れなくなっているのが悲しい(低山は夏~秋は暑くて死にそうになるため)。
シリーズ里山よもやま話 〜人と植物が暮らす社会〜

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