巨人の肩の上で「論文」を読んでみよう ②生物×建築?一体何から調べたらいいのやら…
ちぐさ研究室の研究日誌 #4
岡山県・西粟倉村で活動する「ちぐさ研究室」のお二人と、季節ごとに実験や観察を楽しむ連載。
第四回の今回は、論文の読み方について4回に分けて紹介していきます。
▷①生物視点の建築について知りたい
▶︎②生物×建築?一体何から調べたらいいのやら…
▷③建築学の論文を生物学視点で読んでみる
▷④秋山さんを交えてディスカッション
○登場人物:川上えりか、清水美波(ちぐさ研究室) 植野聡子(新林編集部) ゲスト:秋山淳
ーー 前回は、ちぐさ研究室のお仲間である秋山さんから「生き物にとって価値がある建築とは?」「そんな建築にするためにしなければいけない調査方法や環境整備とは?」という知りたいことのテーマをいただきました。
川上 今回は、秋山さんのお困りごとの参考になるような論文がないか、探してみたいと思います。
まずはキーワードを書き出してみよう!
清水 まずは、秋山さんのお話から鍵になりそうなキーワードを考えてみましょう。重要になりそうなワードは「建築材料」「住宅設計」「自然素材」「生き物」「生物多様性」などでしょうか。
川上 まず、「建築材料」と「生き物」というキーワードの組み合わせで調べてみました。建築材料は「建築」と「材料」の項目も含めた検索結果が出てきてしまうので、“建築材料”と“ ”で括って、検索結果を絞るようにしました。生き物に配慮した建築材料に関する研究事例が出てこないかな……?
清水 うーん、論文として研究をしている事例はあまりヒットしていないね。「生き物」を比喩的に使っている論文や報告書を検出してしまっているみたい。
川上 ほんとだなあ。ちなみに、「建築材料」と「生物」に少し変えて検索すると、生物に配慮したという観点ではなくて、生物素材の建築材料への応用や、微生物による木材の劣化について調べた研究などが見つかったよ。ちょっと用語を変えるだけで、見つかる論文が全然変わってくるよね。でもやっぱり、秋山さんが探しているテーマとは違うなあ。
いろんな検索ワードで試してみよう!
清水 そしたら、もう少し具体的なキーワードで、「建築材料」と「生物多様性」で調べてみるとどうなる?
川上 そうだね。あ、2件目と4件目に、「生物多様性に配慮した建築」というワードがタイトルに入っている論文があった!「生物多様性に配慮した建築」というのは、今回秋山さんが探している事例にとても近いかもしれない。『「生物多様性に配慮した建築」の設計手法』は、設計手法そのものの研究で「「生物多様性に配慮した建築」を支える事物のネットワーク」は、建築に関わる自然環境や組織のネットワークの研究のようだね。
清水 今回秋山さんが気になっているテーマから考えると、『「生物多様性に配慮した建築」を支える事物のネットワーク』の研究の方かなと思うのですが、秋山さんいかがでしょうか?
秋山 そうですね!人のネットワークやコミュニティという視点から建築と生き物の狭間を見ていくイメージを持っています。この論文を読むことで、自分が今回取り組む小屋のプロジェクトのヒントが得られそうな気がしてきました!
川上 ではこちらの論文を読み進めて行きましょう。
論文リンク▶️ https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/85/773/85_1575/_pdf
ーー 生物分野のちぐさ研究室さんが、建築分野の論文を読むのは難しくありませんか?
清水 確かに専門が異なるので、分からない部分もあるかもしれませんが、隅から隅まで理解しようとする必要はありません。まずは、何が書いてあるか把握するために、ざっくり読んでみましょう。
どんなふうに読み進める?
ーー そもそも論文ってどんな構成になっているのか教えていただけますか?
川上 一般的には物語などの起承転結に近く、「1.背景」「2.方法」「3.結果」「4.考察」「5.結論」と大きく5ブロックに分かれています。まず目に入るのは1ページ目の「タイトル」ですね。タイトルだけでざっくりこの研究で何を目的にしたのかが分かる分野もあれば、含まれている単語が難しく、その定義を知らないと読み解けない分野もあります。
清水 あとは、論文の本文が始まる前の「Keywords」に書いてある用語も気にしていますね。これらの用語の意味や定義は、論文の中で出てきたら把握しておくといいです。
タイトルやキーワードの用語は要チェック!
論文の中にも出てくる箇所がないか見てみよう。
川上 「背景」では、まず最初にその分野での大きな議題をあげ、そのあとにこれまで行われてきた研究(先行研究)で分かったこと、まだ明らかになっていないことなどが説明され、最後に論文で取り扱う研究の目的や内容、その意義が述べられることが多いです。
清水 背景の総まとめ、また論文の目的は一番最後の段落にあることが多いですね。この論文では「背景」と「方法」が「1.序章」としてまとめられているので、研究の目的は「1-1. 研究の背景と目的」の末尾に記されています。
川上 次に「方法」ですが、ここは分野によってボリュームや内容にかなりバリエーションがありますね。野外調査がメインの分野の場合だと、①調査の時期や場所(いつどこで)、②調査方法(何をどのように)、③調査で得たデータの解析方法(どうやって)などと、かなり長めになることが多いです。
清水 今回取り上げる論文のように文献調査がメインだと、文献の集め方と、その分析方法、という形でシンプルに説明されていますね。方法の章は、専門用語も出てくることが多くて読みづらいですが、各段落の最初の一文を読むと、方法の概要が掴めるので、まずはそこだけ理解して読み進めるのもいいかもしれません。
背景と目的/研究方法は段落の最初や最後の一文に注目!
川上 次に「結果」です。結果では、筆者の主観は入れずに、調査や実験から分かったことが淡々と羅列されていることが多いです。文章を読むだけでは理解しづらいことが多いので、ここからは図表と行ったり来たりしながら読み進めるのがおすすめです。
清水 その次の「考察」では、「結果」から推測されるこの研究で導き出された答えを、過去の似た研究結果と照らし合わせながら、筆者独自の解釈を加えて議論していきます。この論文では、「結果」と「考察」が一体化しているので、結果とその解釈を同時に理解していけそうですね。
川上 最後に「結」という短い段落があります。論文では、だいたい最後に「結論」として、この研究で分かった結果と、その結果から一番言いたいことをまとめてくれています。最後の一文で、「~を明らかにした。」とあるので、その前に書かれていることが、この論文で筆者らが明らかにしたこと=最初の目的で掲げていた問いの答えなのだな、ということが分かります。
結果や考察は図表を見ながら読んでみよう!
清水 初めて論文を読むときは、全部隅々まで読み込まなきゃ……と思うとハードルが高いですよね。今回紹介したような重要な部分(背景の最初と最後、各段落の最初の一文など)を抜き出しながら1回ざっくりの概要をつかむことをおすすめします。
ーー まずは分かるところだけ飛ばし飛ばしに読んでみてもいいんですね。これなら挫折せずに読み進められそうで、安心しました!
川上 1回論文の全体像が1回掴めると、そこから「もっと細かく結果を知りたい」「〇〇の方法ってどういうこと?」など、もっと読み解きたくなる疑問が出てくると思いますね。
清水 論文の大枠がつかめたところで、さっそく今回取り上げる論文を読んでいきましょう。
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