木を見て森を知ろう!「毎木調査」をやってみよう ④結果発表とまとめ
ちぐさ研究室の研究日誌 #5
岡山県・西粟倉村で活動する「ちぐさ研究室」のお二人と、季節ごとに実験や観察を楽しむ連載。
第5回の今回は、毎木調査のやり方と調査レポートを、4回に分けて紹介していただきます。
▷①毎木調査って何だろう?
▷②必要な道具と図鑑での調べ方
▷③調査をやってみよう!
▶︎④結果発表とまとめ
○登場人物:川上えりか、清水美波(ちぐさ研室) 植野聡子(新林編集部)
結果はどうだった?
清水 調査が無事に終了してひと息ついたら、早速結果をまとめていきましょう!
ーー どんな風にまとめていきますか?
川上 まずは「どんな種類の樹木が多かったのか?」が気になりますね。今回調査した区画に登場した樹種は、アオハダ、イロハモミジ、クリ、コシアブラ、コナラ、サカキ、ソヨゴ、ナツツバキ、ヒノキ、リョウブの10種類。それぞれの樹種の幹の本数(直径5cm以上)を数えてみると、下のような結果になりました。
清水 この区画で多く生育している樹種は、「コシアブラ」「ソヨゴ」「ナツツバキ」などの落葉広葉樹だったことが分かりました。10m四方という狭い範囲でしたが、予想以上に色んな樹種が出てきて嬉しいですね。
川上 では次に、それぞれの樹木の大きさを比べてみましょう。毎木調査の結果を検証する時によく使われるのは、「胸高断面積」という言葉です。ちょっと難しい言葉ですが、文字通り今回測った「周囲長」から計算できる値です。胸の高さで幹を輪切りにした時、断面は円になりますよね。今回はその円の周囲長を測ったので、そこから直径を計算します(直径×円周率=円周=周囲長)。胸高断面積が分かると、その木が今回の区画の中でどのくらいの面積を占めている木なのかを知ることができます。
胸高断面積=胸高直径/2×3.14
ーー 胸の高さは人によって変わってきますが、基準はありますか?
川上 概ね120cmの高さで測るように、と私は大学で教わりました。最初に毎木調査を行う時は、測った高さに赤いスプレーなどで目印をつけたり、ナンバーテープを胸の高さにつけて、テープを基準に測るように統一したり、と調査地ごとに統一したルールを設けるとより正確になります。
清水 早速今回の区画でも計算してみました。1本ずつの胸高断面積を、樹種ごとに合計してみると…
川上 ヒノキが圧倒的です!本数では3本しか生育していなかったですが、区画全体の胸高断面積(2,903㎠)の中で、ヒノキは約60%を占めていることが分かりました。
川上 このヒノキは恐らく近くの人工林から混ざってきたか、元々植えられていたのか、歴史は分からないのですが、広葉樹がたくさん周りで育つ中でも、安定して太く、高く生きているんだなあということが分かります。
ーー ヒノキの成長の安定度には驚きますね。木材として育てるには、とても優秀な樹木なんだなぁと改めて納得しました。
清水 だいぶマニアックなお話になってしまいましたが、せっかく3年間調査を続けてきたので、「3年間でどのくらい木が成長したのか?」を検証してみましょう。各個体の3年間の成長度合いを、「3年目の直径-1年目の直径」で表すことにして、まとめてみた結果がこちらです。
ーー あれ?成長がマイナスになっている木がありますね。痩せ細ってしまったのでしょうか?
川上 ちょっと違和感がありますよね。6本ほど、成長量がマイナスになってしまっている個体があります…。これは、私たちの注意不足によるエラーです。
ーー なんと!
川上 毎木調査で幹の太さを測る際に注意しなければいけない点が大きく2つあります。1つは、コケや地衣類がついている部分やでこぼこした部分はできるだけ含まずに測ること。2つ目は、測定者の身長が変わって、胸の高さが変わったとしても、毎年同じ位置で測ること。今回、成長量がマイナスになってしまったのは、これらの点が毎年の測定でずれてしまっていたからではないかなと思っています。
ーー なるほど〜。
清水 それ以外の樹種は、わずかですが成長が見られていますね!ヒノキの成長速度が速いのは予想通りですが、意外にもナツツバキも速いようです。ナツツバキが一般的に成長速度が高めなのか、この区画や今回測定した個体でたまたまこの特徴が見られるのか、などは更に調べていく必要があります。
ーー スギとヒノキで比べると、ヒノキの方が成長が遅いと言われるので、なんとなく成長が遅い木のイメージだったのですが、他の樹種と比べると成長も早く太く育っていますね。
川上 また今回の区画に1本だけ生育していたクリの木ですが、こちらはほとんど枯れていました。昨年までは元気だったのですが…。周りの木との競争に負けてしまったのか、何か病気にやられたのかは分かりませんでしたが、このクリの木の測定は今年までとなりそうです。
ーー 厳しい森の世界ですが、こうやって続けて観察することで、木の一生を垣間見ることができますね。
清水 今回は、「毎木調査」という、皆さんの日常生活では恐らく馴染みのない調査の魅力をお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか?作業自体は全く難しくないので、友達と楽しくわいわいやりながら、木の種類を調べるきっかけにもなる、とてもおすすめの「調査」です。これを機にご興味を持って頂けた皆さま、身近な森や公園でも、毎木調査に挑戦できそうな場所をぜひ探してみてください。
ーー 調査の行程は難しくないので、秋の森林散策がてら楽しく調査してみたいです。毎年やることで変化が見えてくるので、ぜひ続けて調査してもらいたいですね!
注意点
- 調査や採取をするときは、所有者や管理者に許可を取りましょう
参考文献
- 『葉っぱで見分け五感で楽しむ 樹木図鑑』
林 将之=監修・写真/ネイチャ-・プロ編集室=編著/2014年/ナツメ社 - 『樹木の葉: 実物スキャンで見分ける1300種類』
林 将之著/2019年/山と渓谷社
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