春の「雑草」探偵になってみよう! ③同定大会 草編
ちぐさ研究室の研究日誌 #3
岡山県・西粟倉村で活動する「ちぐさ研究室」のお二人と、季節ごとに実験や観察を楽しむ連載。春の今回は、あちこちで芽吹き始めた「雑草」を徹底調査!調査の様子を4回に分けて紹介していきます。
▷①「コドラート法」で調査してみよう!
▷② 同定大会 花編
▶️③ 同定大会 草編
▷④ 結果発表とまとめ
○登場人物:川上えりか、清水美波(ちぐさ研究室) 植野聡子(新林編集部)
ここから急に難しくなってきた!
ーー さて、前回までの3種類は花の特徴から比較的早く同定(どうてい|何という植物か調べること)ができました。
清水 一度分かった植物は一層目につきやすくなるので、どんどんコドラートの中の解像度が高まっていきます。しかし花がついている植物を調べ終わったあと、ここからが大変でした…
ーー なんと!
清水 とにかく緑!緑!緑!草花の図鑑は花で検索できるようなものが多いので、草だけでは調べるのが難しくなってきました。そこで、今回はネットの力も頼っていきます。
ネット検索で調べてみよう
清水 一つ目は野草・雑草の検索。今回は千葉県立中央博物館の学芸員さん、また茨城大学教育学部情報文化課程の教員の方を中心に作成・運営されている「野草・雑草検索図鑑」などで調べたい植物の特徴を入力して近い葉っぱを探しました。
清水 二つ目はGoogleレンズ。調べたいものを撮影すると、それに近いものを検索してくれる機能です。いずれの方法でも、出てきた情報を鵜吞みにするのではなく、検索で出てきた似ていると考えられる植物を改めて調べたうえで、目の前の植物と本当に特徴が合致するのかを調べます。
ーー あくまで調べるきっかけとして使うのがいいんですね。
清水 それでは、さっそくネット検索を駆使しながら調べていきましょう。まずはこの植物。
清水 葉には少し厚みがあって、葉っぱは下の方は対になっていて上の方へいくほど互い違いについている…図鑑をぱらぱらめくっていると「ムシクサ」が近いのでは…?でも決定的な情報はありません。
ーー 雑草をこんなにまじまじと見ることなんてなかった…!葉のつき方も下方と上方で違うことがあるんですね。
清水 ネットで検索してみると、葉の形が一致するほか「下部でまばらに枝分かれする」「葉は下部では対生(たいせい|1本の茎や枝を中心に左右対称に2枚ずつ葉が生えていること)し、上部では互生(ごせい|1本の茎や枝から葉が1枚ずつ互い違いに生えていること)する」という特徴の記載がありました。
清水 改めて観察すると、これらに該当しました!葉っぱの多肉感も一致。おそらく「ムシクサ」でよいでしょう。
ーー 花のある植物に比べて、難易度が格段に上がりましたね。
清水 さあ、引き続きがんばって同定を進めましょう!お次はこちら。
清水 葉の縁が波打っていて、葉の基部(葉の柄側)が矢じりのような形になるというのが大きな特徴。この時期はまだ葉が小さく、「野草・雑草検索図鑑」で見つけた「スイバ」の冬や秋の姿と似ていることから検索が進みました。次は、、
清水 葉の丸さと葉柄の長さが特徴的なこの植物。Googleレンズで調べても水草がヒットしてあまり進みませんが、その中のひとつに「キュウリグサ」というものが。しかし、キュウリグサを調べてみても葉の柄の長さが一致しない…ところが図鑑には「葉の下部につく葉には長い柄があるが、上部につく葉には柄がない」という記載が!
ーー 葉の柄の長さも下部と上部で変わる植物があるんですね。となると、この植物は、、
清水 まだ芽生えたてのため、葉の下部につく葉と考えてもおかしくありません。さらに「茎や葉を揉んでにおいをかぐときゅうりのような青臭いにおいがする」とあったため、ちぎってもんでみるとまさにその香り!
ーー 成長段階によっては、図鑑の写真と異なる場合もあるんですね。
清水 そうですね。花を待たないと確実ではありませんが、おそらく「キュウリグサ」でしょう。
ーー キュウリグサらしき植物を見つけたら、においをかいでみたいものです。お次は…?
清水 葉っぱしかなく挫折しそうでしたが、触ってみると毛が多くふさふさしています。
何だかシソの葉っぽい気がしてきました。
ーー 確かに小さな葉っぱですが、シソのような形…
清水 シソの仲間で草本…と言えば、シソ科の「ヒメオドリコソウ」が思いつきます。日当たりが良い場所の方には、すでに花が咲いているものもあり、葉っぱの形もすごくよく似ている!実際に図鑑で調べてみるとその通りの形でした。手触りから絞り込んでいく手法も役立ちますね。
清水 最終的に90分間で同定できたのは7種、こちらのトレーに乗った5種は草類は時間内には同定できませんでした…。
清水 でも、この50cm四方の解像度はとても高くなりました。分からない植物でも、「この2個体は、種類は分からないけど同じ種類であることは分かる」という状態になり、わちゃわちゃっとした緑色の空間が複数色で構成されるモザイクとして認識できるようになります。
ーー 名前や違いが分かってくると、不思議と愛おしい空間に思えてきますね。
清水 次回は今回のまとめをしていきます。
撮影:Atsushi Akiyama
シリーズちぐさ研究室の研究日誌
ちぐさ研究室の研究日誌
岡山県・西粟倉村で活動中の「ちぐさ研究室」によるちょっと本格的な実験や観察の数々
大人も夢中になる?虫網を使わない虫の捕まえ方①イエローパントラップ
[ちぐさ研究室の研究日誌 #1] 新連載スタート!ちぐさ研究室のお二人と季節の実験や観察を楽しもう。
大人も夢中になる?虫網を使わない虫の捕まえ方②ピットフォールトラップ
[ちぐさ研究室の研究日誌 #1] 虫に落とし穴をしかけてみると...?
大人も夢中になる?虫網を使わない虫の捕まえ方③ビーティング
[ちぐさ研究室の研究日誌 #1] 原始的な虫捕りにチャレンジ!
大人も夢中になる?虫網を使わない虫の捕まえ方④ライトトラップ
[ちぐさ研究室の研究日誌 #1] 光に集まる虫を観察してみよう!
まだ見ぬ生きものを求めて!土の中を観察してみる ①土壌動物は面白い!
[ちぐさ研究室の研究日誌 #2] 冬の研究テーマは、土の中の生きもの。面白い土壌動物たちに出会おう!
まだ見ぬ生きものを求めて!土の中を観察してみる ③土壌動物はどこにいる?
[ちぐさ研究室の研究日誌 #2] 土の採取と土壌動物の捕獲をしてみよう!土壌動物はどんなところにいるのかな?
まだ見ぬ生きものを求めて!土の中を観察してみる ④顕微鏡で観察してみる
[ちぐさ研究室の研究日誌 #2] 西粟倉村の土にはどんな生物がいるのかな?
春の「雑草」探偵になってみよう! ①「コドラート法」で調査してみよう!
[ちぐさ研究室の研究日誌 #3] 春の研究テーマは、雑草!どんな植物が生えているのか徹底調査しよう。
春の「雑草」探偵になってみよう! ②同定大会 花編
[ちぐさ研究室の研究日誌 #3] いよいよ調査開始!図鑑を片手に花のついた植物を同定してみよう。
春の「雑草」探偵になってみよう! ④結果発表とまとめ
[ちぐさ研究室の研究日誌 #3] 調査完了!全部でいくつの植物を見つけられたかな?
巨人の肩の上で「論文」を読んでみよう ①生物視点の建築について知りたい
[ちぐさ研究室の研究日誌 #4] 今回のテーマは、巨人の肩の上に立つ!?「論文」を読んでみよう。
巨人の肩の上で「論文」を読んでみよう ②生物×建築?一体何から調べたらいいのやら…
[ちぐさ研究室の研究日誌 #4] 気になるテーマの論文を見つけるには...?
巨人の肩の上で「論文」を読んでみよう ③建築学の論文を生物学視点で読んでみる
[ちぐさ研究室の研究日誌 #4] 建築学の論文をちぐさ研究室の視点で読んでみると...?
巨人の肩の上で「論文」を読んでみよう ④秋山さんを交えてディスカッション
[ちぐさ研究室の研究日誌 #4] 論文を読んでみて、どう思った?秋山さんと一緒に考えてみよう
まだ見ぬ生きものを求めて!土の中を観察してみる ②吸虫管ってなんだ?
[ちぐさ研究室の研究日誌 #2] 土壌動物を捕まえる吸虫管作りと観察道具の準備をしていきましょう。
関連記事
春のスターは寝て暮らす?~春の妖精カタクリの暮らしぶり~
[森の舞台の役者たち ~植物の暮らし拝見~ #4] 植物生態学者・柳沢直教授によるエッセイ。
森林の世界はもっとずっと、面白い ちぐさ研究室/川上えりかさん 清水美波さん
[西粟倉の人たち③] 2021年に西粟倉村の地域おこし協力隊の2人で結成した「ちぐさ研究室」とは?
森を学ぶ人に会いに行ってみる
これからの森林文化をつくる担い手たちは、どのような「学びと実践」の現場で、どうやって学びを深めているのでしょうか。岐阜県森林文化アカデミーと三重県の海山林友株式会社を訪ね、学ぶ人・教える人に会いに行ってきました。
森の舞台の役者たち ~植物の暮らし拝見~
木を見て森を見ず? いやいや、うっかり見過ごしてしまうような森の小さな草木たちも森林という舞台で懸命に生きているのです。森を足元から見てみると、そこには魅力あふれる役者たちが暮らしていました。