身近な「岩石」を調べてみよう! ③石の種類を調べよう!
ちぐさ研究室の研究日誌 #7
岡山県・西粟倉村で活動する「ちぐさ研究室」のお二人と、季節ごとに実験や観察を楽しむ連載。
第7回のテーマは「石」!ちぐさ研究室のお二人も専門外の石について、一緒に調査に出掛けてみましょう!
▷①どんな「石」があるか知りたい
▷②石の採集に行こう!
▶︎③石の種類を調べよう!
▷④石調べのまとめ
○登場人物:川上えりか、清水美波(ちぐさ研究室) 植野聡子(新林編集部)
採集した石をどうやって調べる?
ーー さて、たくさんの岩石を採集できました!持ち帰った岩石はどのように調べていくのでしょうか?
清水 岩石を本格的に調べようとすると、薄く薄くスライスした岩石に偏光を通過させて、含まれる鉱物やその状態を検査する岩石偏光顕微鏡を使った分析や、X線を使った粉末解析による同定がありますが、今回は肉眼でおおよそのあたりをつけてみましょう。
参考にしたのは板村地質研究所の『岩石の分類法ー肉眼で見分けるための基礎知識』です。

ーー チャートに沿って調べていけるわけですね。とても分かりやすそうです!
採集した石を分類してみよう
川上 これに沿って、分かるものから取り組んでみましょう。『②石の採集に行こう!』でグループに分けたものを、順にじっくり見てみます。

まずはこちら。
色は薄灰色~水色など暗い色で、中に大小様々な鉱物が入っているように見えます。
清水 ルーペを使うといろいろな鉱物を観察できそうなまだら模様です。ここからは冒頭のフローチャートに沿って分類してみます。

ーー チャート1の「肉眼やルーペを用いて岩石中の鉱物の特徴が観察できる」はYESなので、次はチャート2の「大きい粒子と小さい粒子が明らかに区別できる」かどうかですね。
川上 大きい粒子と小さい粒子の区別は曖昧で難しい気がする…。できない方に進んでみようか。次は、白い鉱物と黒い鉱物を区別できる?
清水 白と黒と、風化したような茶色もあるね。そうすると、図の黄緑色で示された深成岩のどれかのようだね。
川上 白が多い気がするから、花崗岩かな?図鑑を見てみよう。『岩石図鑑』によると、「一見ゴマ塩おにぎりや鮭フレーク入りおにぎりのようにも見えるかもしれません。」と書いてあるけど、これもそんな感じ!じゃあこれは花崗岩ということにしよう。
清水 次はこちら。
色は白~褐色で、(1)と同じく中の構造が分かりやすく、(1)よりも大粒の鉱物などが多い感じ。さっきのよりもひとつひとつの構造が大きくてとげとげした印象だね。
川上 うん、風化が(1)より進んでいない感じがする。フローチャートでたどってみると、(1)と同じく深成岩のどれかのようだね。拡大した写真を見てみると、あきらかに白色の構造が多いね。半透明の白い部分は石英なのかな。
清水 これも花崗岩のようだけど、さっきのと色味も大きく違うように見えるなあ。図鑑によると、花崗岩にはたくさんの種類があるから、見た目が違うからといって種類が違うわけではないみたい。ほんとうに同定しようと思ったら別の方法を試さないといけないかもね。
ーー (1)と(2)は、俯瞰写真を見ると全く違うように見えますが、チャートに沿っていくと同じところにたどり着いたのが面白いですね。確かに、接近写真の印象は似ているような…?
川上 続いて色は褐色で(2)と似ているものもありますが、中の構造物が(2)と比べて見えにくいこちら。これは組織というより一種類の塊に見えるけど…もしかしてこれは岩石ではなくて鉱物なのかな?
清水 岩石と鉱物って何が違うの?
川上 鉱物と岩石の関係は、米粒と混ぜご飯の関係に似ていて、鉱物は原子の集合体でどこをとっても同じ決まり(化学組成、結晶構造)をもっている天然の固体で、岩石はいろんな鉱物が集まってできた集合体でなんだって。
ーー 面白い例えですね。鉱物の方が調べるのが難しくなさそうです。
清水 これは鉱物でいうと、石英に近い特徴を持っているように思うけど…
川上 そうだね、石英は透明感があることや、割れ口にガラスのような光沢があること、と書いてあるよ。
清水 なんとなくあるかも…笑
ーー では(3)は、鉱物の石英に暫定ですね。
川上 最後に、色は黒っぽく、中の構造物がほとんど見えない、一番特徴的なグループであるこちら。


これは明らかに一つだけ違うね。まだら模様が見えない、均一な黒っぽい岩石だね。
清水 フローチャートでたどっても、岩石中の鉱物や特徴が観察できなくて、岩石全体が灰黒色だね。
ーー そうすると、チャート8「割れ口がガラスに似ている」かどうか。NOなら玄武岩、YESなら黒曜石になるようです。
清水 黒曜石は割れ口がガラスに似ているというけど、図鑑で見てみると本当につやのある断面だね。この石をちょっと割ってみたけど、あまり表面の質感と変わらないな。
川上 玄武岩かな。図鑑で見てみると、いくつも種類はあるけど、気泡がない玄武岩ととてもよく似ているように見える。
西粟倉村では地質に玄武岩が含まれているし、可能性は十分あるんじゃないかな。
ーー これで全ての岩石の同定が終わりました。
清水 拾ってきた石を確実に同定することは今の段階では難しいけど、西粟倉村の地質と大きな相違がない推察となって、すごくおもしろかった!
川上 次回は、調査の振り返りと、もっと本格的な調査方法について紹介します。
シリーズちぐさ研究室の研究日誌

ちぐさ研究室の研究日誌
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