まだ見ぬ生きものを求めて!土の中を観察してみる ①土壌動物は面白い!
ちぐさ研究室の研究日誌 #2
岡山県・西粟倉村で活動する「ちぐさ研究室」のお二人と、季節ごとに実験や観察を楽しむ連載。
第二回の今回は、土の中の生きものの観察方法を、4回に分けて紹介していただきます。
▶︎①土壌動物は面白い!
▷②吸虫管ってなんだ?
▷③土壌動物はどこにいる?
▷④顕微鏡で観察してみる
○登場人物:川上えりか、清水美波(ちぐさ研究室) 植野聡子(新林編集部)
ーー ちぐさ研究室の川上さん、清水さん、こんにちは!今年の冬は暖かい日も多いですが、1月になって寒さが厳しい日も増えてきました。西粟倉の冬はいかがですか?
清水 今年はまだ積雪が少ないですが、去年は一晩で90cm積もったことがあるくらいの積雪地域です。さすがに外に出て観察する機会は少なくなる季節ですが、その分春の芽吹きが楽しみでしかたないですね!
ーー 一晩で90cmも!そういえば、新林編集部で西粟倉を訪ねたときも、雪が降りそうな寒い時期でした。あの時に、お二人が「毎木調査(まいぼくちょうさ)」や「吸虫管(きゅうちゅうかん)」を使った本格的だけど面白そうなワークショップをしていて、すごく興味を持ったのを覚えています。
川上 そうでしたね。今回はまさにその「吸虫管」を使いますよ。前回の連載でさまざまなトラップを用いた昆虫採集の方法を特集しましたが、生きものがいるのは地上や空中だけではありません。むしろ土の中こそ、まだ見ぬ生きものの宝庫です。
ーー 「生きものの宝庫」ですか?
清水 こんな経験ありませんか?石をひっくり返したらダンゴムシがたくさん出てきたり、湿った落ち葉をかきわけたら小さなほこりのようなものがぴょんぴょん跳ねていたり…。堆積した落ち葉も死んでしまった全ての動物や昆虫も、最終的には「土の中の生きもの」が細かく分解していることは理科や生物の授業で学んだかもしれませんが、それらの虫がいったいどんな姿をしているか、どのような生態なのかはご存じでしょうか?
ーー 目に見えるダンゴムシやミミズはなんとなく想像できますが、もっと小さい虫は想像つかないですね。ぜひ教えてください!
川上 ではさっそくまだ見ぬ生きものを求めて、土の中を観察していきましょう!今回は、土の中の生きものを観察するまでに、土の採取、そして、生きものの捕獲から保存までと、やることが豊富にあります。
ーー どの工程も楽しそうですね。では、よろしくお願いします!
土の中の生きものは「役に立つ」?
清水 光合成で無機物から有機物が作れる生物を「生産者」、他の生物を食べて有機物を取り入れて生きる生物を「消費者」、消費者のうち生物の死骸や排出物に含まれる有機物を食べる生物を「分解者」といいます。生産者には植物が、消費者には動物が、そして分解者には菌類や細菌などの微生物や、今回注目する土壌動物が主に含まれます。
さて、土の中にいる生き物はみんな落ち葉を分解しているというイメージはないでしょうか?実は土の中にも食物連鎖が起こっていて、分解する生物がいればそれを食べる肉食の生物もいます。例えばアリは代表的な土の中の肉食動物ですね。
ーー 土の中の肉食動物と言うと、アリがなんだか急に強そうに感じます!土の中の生物にも食べる・食べられるの関係があるんですね。
清水 落ち葉や死骸などの有機物が分解されると、植物が吸収できる栄養として土に還るので、土の中の生きものが豊かな森は植物も元気になります。
清水 豊かな土壌をつくる土壌動物の役割は、このように環境の保護や循環、人の生活の豊かさにつなげて語られることが多いのですが、「面白いから」という単純な理由で観察してみませんか?
ーー 損得関係なしに、まずは好奇心を持つのが重要ですね!
土の中の生きものを捕まえる道具って?
清水 土の中の生きものと聞いて、まず思い浮かぶのはアリやダンゴムシ、ミミズなどが思い浮かぶのではないでしょうか。それらはある程度の大きさであれば指やピンセットで捕まえます。ではもっともっと小さく、そしてすばしっこい生きものはどのように捕まえるでしょうか。
ーー お、ここで「吸虫管」の登場ですか?
清水 正解です!吸虫管は、ケースにつながったチューブとストローからなる道具です。これを使うと息を吸い込むことで虫を捕まえることができるのです。
ーー 「自分の息で吸って捕まえるとはどういうこと!?」「虫や土を吸うの!?」と、かつて編集部が取材の時に感じたように、読者のみなさんは思ったかもしれません。こちらは専門店で買う必要がありますか?
清水 専門店やネットで購入することもできますが、作ることもできますよ。次回は、この吸虫管と捕まえた土壌動物たちを観察するための道具を準備していきましょう。お楽しみに!
(つづきはこちら↓)
撮影:Atsushi Akiyama
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