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シリーズちぐさ研究室の研究日誌

岡山県・西粟倉村で活動中の「ちぐさ研究室」によるちょっと本格的な実験や観察の数々

この木なんの木?図鑑を使って調べよう ④樹種同定 -つる植物編とまとめ-

ちぐさ研究室の研究日誌 #12

岡山県・西粟倉村で活動する「ちぐさ研究室」のお二人と、季節ごとに実験や観察を楽しむ連載。第12回のテーマは、「樹種同定(じゅしゅどうてい)」です。身近な木の種類を図鑑を使って名前を調べます。

 ▷①葉っぱを見て何の木か分かる?
 ▷②樹種同定 -基礎編-
 ▷③樹種同定 -応用編-
 ▶︎④樹種同定 -つる植物編とまとめ-

○登場人物:川上えりか、清水美波(ちぐさ研究室) 植野聡子(新林編集部)


はじめに
・この記事では、特別に著作権者および発行所の許可を得て、図鑑の紙面の写真を使用しております。
 出典元:『樹木の葉: 実物スキャンで見分ける1300種類 増補改訂版』林 将之著/2019年/山と渓谷社
 (以下、林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)と表記する)
・本の一部を無断で複写・転写することは著作権者および発行所の権利の侵害となります。

・なお、最新版の第3版(2025年)では掲載内容やページ構成がやや異なります。
山溪ハンディ図鑑 樹木の葉 第3版 実物スキャンで見分ける1390種類』(林 将之著/2025年/山と溪谷社)


川上 ここまでの同定でまだふれていないものがあります。それはつる植物。アサガオやキュウリなど、草のつる植物は想像しやすいかもしれませんが、樹木にもつる性のものが意外と多くあります。例えば花の観賞で有名なフジも、電柱や送電線に巻き付いて問題を起こすクズも、木本のつる植物です。

清水 つる植物も検索の手順はほとんど同じですが、せっかくなので1つやってみましょう。手ごろなところにつる植物を見つけました。

奥の方につるが見えますか?
この葉の分類は…?

ここまでと同様に分類していくと、不分裂葉、落葉、鋸歯縁、互生ですね。分類にはみなさんも慣れてきましたか?

川上 検索ページを開くと、なんと「つる性木本」のグループが!一気に絞られました。虫食いもあり写真から正確な形を把握できませんが、葉の柄の付け根の形が卵のような半円形に近いことから「クロヅル」「マタタビ・サルナシ類」「キウイフルーツ」のどれかに該当しそうです。

「不分裂葉、落葉、鋸歯縁、互生」のページ
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)

クロヅル?マタタビ・サルナシ類?キウイフルーツ?

清水 キウイフルーツは園芸種が野生化していない限りないだろう思いましたが、念のため調べてみます。ページを見てみると「基部は普通湾入する(=ハート形になる)」「葉脈の小ジワが目立つ」とあり、これは違いそうです。野生化していなくてよかった!

川上 続いてクロヅルを調べます。葉の形も似ていて、葉の柄は赤みを帯びるとのことで、当てはまる気がする!と思ったら「両面無毛」の文字。実はさっきから葉をさわったときのガサガサ感が気になっていたところで、よくみると

葉の表
葉の裏
葉の柄

明らかに剛毛。歯ブラシの繊維のような力強さがあり、植物の毛も多様だなあと実感しますね。クロヅルは除外され、残るはマタタビ・サルナシ類です。

清水 隣り合うページのマタタビとサルナシはどちらもマタタビ属ということで、形質もとても似ています。

マタタビとサルナシのページ
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社) 

サルナシの特徴として「葉形は丸みを帯びる傾向が強く」「細かい刺状の鋸歯が並ぶ」とあることから鋸歯を見ると、何となく刺状な気がする…けどどうなんでしょうか…

鋸歯縁

そして葉の形には幅広い変異があるということであまりアテにしすぎてはいけない模様。最も大きな違いはマタタビは「6~7月に一部の葉が白化する」という点。観察した日は6月下旬なので、マタタビであるなら葉が白くないといけないらしい…という消極的な理由からサルナシではないかと推測しました。葉だけで判断が難しいときは季節を変えて訪れて、実や花も確かめることで同定の実力を高めていきましょう。

川上 さて、若杉天然林での探索を終えた帰り道。車で走っていると、さっき図鑑で見た「6~7月に一部の葉が白化する」というマタタビに遭遇。

一部の葉が白化した様子

ちゃんと白い!そしてつる植物で、形もサルナシによく似ています。

清水 ここまではっきり「6~7月に一部の葉が白化する」という特徴がみられると、確かにこれはマタタビと言えそうですね!ちなみにマタタビとは、猫が好むあのマタタビです。私はなぜかマタタビは海外でとれるものという先入観があり、日本の林野に普通に自生していると知った時は驚きました。


やっぱり自分一人での同定が難しい…というときは

川上 同定にチャレンジしたいけど、やっぱり自分一人では難しさを感じる…そんなときにおすすめの方法が、樹名板のある公園や森林を探すことと、アプリやサービスの活用です。

清水 樹名板は、比較的大きな都市公園や、人の出入りがある森林公園や里山でよく見られます。学校や公共施設でもよく見られるので、おすすめのファーストステップです。

樹名板

同定がちょっと難しいと感じたら、樹名板に書いてある樹種のページを最初に開いてしまって、書いてある情報がどのように当てはまっているか、目の前の葉っぱと照らし合わせて確かめてみてください。それにより、図鑑に書いてある特徴が具体的にどんなことを言っているのか体感できます。

川上 また最近はAIの進歩で、AIが瞬時に画像から同定をしてくれるアプリやサービスも増えました。電波が通じるところであれば、散策の強い味方になります。
アプリを選ぶときは、自分がいる国でデータが収集されているもの多く使われているものを選ぶのがおすすめです。例えば日本国内の既知データが少ないと、日本にはいない海外の似た種が提案されることがあるからです。また植物用でも葉ではなく花専門、園芸向けのものもあります。個人の感想としては野生の樹木、特に日本国内の樹種に対応したアプリは少ないですが、日本企業株式会社バイオームが提供するアプリ『Biome』は、樹木のみならず日本の動植物約10万種が登録されており、比較的高い精度でAI判定がされるように思います。

Biome(バイオーム)の画面

撮影した位置情報も考慮したうえで候補となる樹種名が表示されるので、旅先など、普段と違う場所で見当もつかない葉っぱに出会ってしまった…というときの絞り込みに使うことがあります。

いきものコレクションアプリBiome(バイオーム)で、いきもの探しの冒険に出よう!

清水 私はgoogleレンズを使うことが多いです。

川上 これらのサービスがあれば、専門家でなくても、今まで紹介してきたようなやり方を知らなくても、ある程度身近な植物の名前を知ることができます。私たちはこのようなアプリ、サービスを積極的に使用しています。調べてみたけどどれもしっくりこないように感じるときや、おおよそあたりをつけるのに役立ちます。

清水 しかし、ここまで記事を読んでくださった方にはそのデメリット、そしてどんなときに正確でない種が表示されやすいかも想像いただけるのではないかと思います。植物の種を本当に知ろうと思ったら、葉のどこにどんな毛が生えているか、葉の裏がどんな色か、冬芽がどんな形かなど、1枚の全体写真では映しきれない情報も重要になります。本当は複葉なのに単葉だと思って葉を1枚しか撮らなければ、誤った結果が表示されることもあります。特に、山菜やきのこなど食べることを目的とした同定ではAIの情報を参考にしてはいけません。最悪の場合、有毒物の誤食につながります。

川上 つまり、AIが間違えているときにどうやって間違えていることを判断するかということが重要になります。表示されたものを過信せず、特徴がどれだけ一致するかを図鑑で確かめるステップを改めて踏むことで、真に理解を助けるものとして機能すると考えています。研究や政策立案など情報の正確性が重要な場面でなければ、楽しめる入り口があること、1人でも身近な世界への理解が進むことは、正しさに負けず劣らない価値があると思います。


参考文献

シリーズちぐさ研究室の研究日誌

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