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シリーズちぐさ研究室の研究日誌

岡山県・西粟倉村で活動中の「ちぐさ研究室」によるちょっと本格的な実験や観察の数々

この木なんの木?図鑑を使って調べよう ②樹種同定 -基礎編-

ちぐさ研究室の研究日誌 #12

岡山県・西粟倉村で活動する「ちぐさ研究室」のお二人と、季節ごとに実験や観察を楽しむ連載。第12回のテーマは、「樹種同定(じゅしゅどうてい)」です。身近な木の種類を図鑑を使って名前を調べます。

 ▷①葉っぱを見て何の木か分かる?
 ▶︎②樹種同定 -基礎編-
 ▷③樹種同定 -応用編-
 ▷④樹種同定 -つる植物編とまとめ-

○登場人物:川上えりか、清水美波(ちぐさ研究室) 植野聡子(新林編集部)


・なお、最新版の第3版(2025年)では掲載内容やページ構成がやや異なります。
山溪ハンディ図鑑 樹木の葉 第3版 実物スキャンで見分ける1390種類』(林 将之著/2025年/山と溪谷社)


樹種を絞り込もう

川上 若杉天然林は標高900~1100mほどに位置し、冬になると葉を落とす落葉広葉樹がほとんどを占める森です。目の前の葉を図鑑で調べるには葉のいくつかの特徴を抑えて絞り込んでいきますが、その森がどんな場所に位置していて、どんな気候であるかも頼りになる情報です。それも含めて、順にポイントを見ていきましょう。

絞り込みポイント① 葉っぱはどんな形?

清水 まず一つ目は葉の形です。針状・うろこ状、不分裂葉(ふぶんれつよう)、分裂葉(ぶんれつよう)、複葉(ふくよう)の大きく4つのグループに分けられます。

針状・うろこ状
不分裂葉
分裂葉
複葉

不分裂葉は切れ込みが入らない平たい葉、分裂葉はモミジのように切れ込みが入った平たい葉のことです。ちなみに葉の縁のギザギザは切れ込みではありません。不分裂葉と分裂葉は、1枚で1つの葉っぱを形作るので「単葉(たんよう)」といいます。1枚で1枚の葉っぱ…ものすごく当たり前のことを言っているようですが、そうではないものがあるのです。それがずばり複数の葉っぱで1枚の葉を構成する、複葉です。複葉は見分け方がとても難しいのですが、応用編でまた紹介しますね!

絞り込みポイント② 冬に葉っぱが落ちる?

川上 二つ目は落葉樹か常緑樹かです。文字通り、冬に葉を落とすのが落葉樹、一年中緑の葉をつけているのが常緑樹です。

落葉樹
常緑樹

川上 正直なところ、冬まで待って葉が落ちるか落ちないか確かめるしか断定する方法はないのですが、落葉樹は葉が薄く明るい色で、常緑樹は葉が厚く表面に光沢があり色が濃くなる傾向があります。気候の面からは、冬が寒く日照が少ない地域では落葉樹が、1年を通して暖かく日照がある場所では常緑樹が優占します。ちなみに常緑樹は冬も葉をつけているだけで葉を全く落とさないのではなく、ちゃんと古い葉と新しい葉が定期的に入れ替わっていますよ。今回のフィールドである若杉天然林は落葉樹林のため、例外はありますが落葉樹であるという前提で進めています。

絞り込みポイント③ 葉っぱはどんな風に付いている?

清水 三つ目は枝に対する葉の付き方です。枝に対して葉が交互についているものを互生(ごせい)、対についているものを対生
(たいせい)といいます。

互生
対生

葉の付き方は分かりやすいポイントですね。ちなみに葉が枝の先端に密集して互生か対生か分かりにくいものもありますが、葉の付け根をしっかりかき分け、360度1周させて観察すると、やっぱり互生だったり対生だったりします。そのように先端にまとまって葉がついているものを「束生(そくせい)」と言います。

束生の互生
束生(というほどではないですが…)の対生

絞り込みポイント④ 葉っぱの縁に注目!

川上 そして四つ目は葉の縁です。葉の縁のギザギザをのこぎりの歯と書いて「鋸歯(きょし)」と呼ぶので、葉の縁にギザギザがあるものを鋸歯縁、ないものを全縁と分類します。

鋸歯縁
全縁

鋸歯縁にもいろいろな見た目のものがありますが、鋸歯自体に鋸歯がある「重鋸歯」は押さえておくといいでしょう。この葉の1鋸歯の背中に、2~3の細かな鋸歯がついているのが分かるでしょうか。重鋸歯も樹種を示す特徴の1つになるので目を凝らしてみてみてくださいね。

これが1つの鋸歯
重鋸歯の部分

清水 ここまで4つの特徴を紹介しました。目の前の葉からこれらの特徴を拾い上げて、組み合わせて樹種の候補を絞っていきます。実際に若杉天然林の植物で樹木同定をしてみましょう!

図鑑を見ながら同定してみよう!

川上 それでは第一章で紹介した図鑑とともに樹種同定を始めて行きます。まずは大人のてのひらくらいのサイズがあるこちらの葉。

葉の付き方は対生

特徴を把握出来たら、図鑑の検索表を開きます。この葉っぱが該当するのは不分裂葉・落葉樹・対生・鋸歯縁なので、次はP24~25を見てみます。

総検索表
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)
p.24-25
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)

同じ4つの特徴を持つ葉の一覧ページに飛びました。この中から、目の前の葉と雰囲気が似ているものを探して、その植物のページに進んで、細かな特徴を突き合わせていきます。
全体的に丸みがあって、ハート形に近くて、葉の先がちょこんと突き出ている見た目のものは…

出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)

「ガマズミ」「オオデマリ」「オオカメノキ」が有力候補です!さらにそれぞれのページで記される特徴を順に確認しましょう。

ガマズミ?オオデマリ?オオカメノキ?

清水 各樹種のページでは、その植物の分布や概要、見分け方が文章でも示されています。まずはガマズミ。

似た葉を見分けるうえで特に参考になるのが画像とともにある特徴コメントです。「表は短毛が生えよくざらつく」とありますが、葉を触っても毛は感じられません。また鋸歯もガマズミは粗く丸みがあります。ガマズミではなさそうです。

同じようにオオデマリとオオカメノキを見て、2つの違いを把握しましょう。

オオデマリのページ
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)
オオカメノキのページ
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)

ガマズミより鋸歯が細かくとがって、ちょっと近づきましたね!
図鑑の文を読み写真を見比べると、オオデマリは「葉裏に星状毛があるが少なめ」「葉の柄は1~3cm」、オオカメノキは「裏は脈上に星状毛が多い」「葉の柄は1.5~7cm」とありました。目の前の葉を見てみると…

葉の裏の様子
葉の柄 長さは大人の人差し指ほど(約5cm)

川上 葉の裏にある茶色いつぶつぶ、これが星状毛です。脈上に多く見られますね。また葉の柄の長さも大人の人差し指ほど、5cmくらいありました。これはオオカメノキの特徴に合致します!オオカメノキのほかの特徴、「先は短くとがるがほぼ丸い」「葉の基部(柄の付け根)は深く湾入して心形になる」などにも当てはまります。

これはオオカメノキといえそうです!

清水 これで1つの樹種の同定がひと段落しました。実際にやってみると、似た葉がたくさんあって途方もない過程に感じることも、明らかな個性があってあっという間に同定できることもあります。もしみなさんの身近な樹木を調べるときは、ちょっと珍しい形、明らかな特徴を持つものから取り組むのがおすすめです。


川上 ちょっと休憩して、次に行ってみましょう。地面に枝ごと落ちていたこちらの葉です。

出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)
葉の付き方は互生

葉の縁は半円の飾り縁です。のこぎりの歯と書きますが鋸歯は必ずとがるわけではなく、これも鋸歯です。葉の色は緑が濃いですが土地柄、落葉樹とします。また葉の付き方は互生です。検索ページから、「イソノキ」「ブナ」「イヌブナ」あたりを探ってみることに。

イソノキ?ブナ?イヌブナ?

清水 まずはイソノキ。検索ページではうねうねした葉の縁に似た雰囲気を感じていましたが、種別ページを見ると鋸歯が細かくギザギザしていることが分かり、候補から外れました。

イソノキのページ
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)

次にブナとイヌブナ。よく似た2種類です…。文章を読むと大きな違いは、ブナは葉の裏の毛が少なく幹が白っぽく1本であることがほとんどであるのに対し、イヌブナは葉の裏の脈状に長い絹毛が生え幹が黒っぽく根元で複数に分岐することが多いとあります。

ブナとイヌブナのページ
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)

川上 改めて葉と幹を観察してみます。

葉の裏に毛はあるが…
イヌブナの毛の量ではなさそう
出典:林将之著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 樹木の葉』(山と溪谷社)
白肌の木の幹

幹も白肌で、1本がすらっと立っています。これはブナの可能性が高そうです。そして図鑑では記載がありませんでしたが、家に帰ってから調べてみるとブナとイヌブナでは果実にも違いがありました。
これが葉の近くに落ちていた実ですが、全体がぼさぼさした殻に覆われています。ブナはこのぼさぼさが実の全体を覆い、イヌブナは部分的にしか覆わないそうです。

ぼさぼさの殻に覆われた果実

この樹種はブナで間違いなさそうです!

清水 このように、葉だけではなく幹や実も観察することで同定の確かさを高めることができます。あとからパズルのピースを集めるようにして明らかになることもあるので、その場で何の木か分からなくても、ぜひ葉以外の記録も残してみてくださいね。

次回へつづきます)


参考文献

シリーズちぐさ研究室の研究日誌

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